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「や、やめて!セリウスさんっ!」
まふゆの悲痛な叫びが、緊迫した教室に響き渡る。
しかし、その拒絶の言葉は、今のセリウスにとって火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
「……やめて?」
セリウスの顔から、狂気を孕んだ笑みがすっと消える。
……代わりに浮かび上がったのは、裏切られたかのような深い絶望と、それを塗りつぶすほどの激しい怒りだった。
魔導機が、その増幅された感情に呼応するように、さらに禍々しい紫色の光を放つ。
「どうしてだ!?どうして僕を拒絶する!?僕じゃ不満だっていうのか!?」
激情に駆られたセリウスが、一歩踏み出す。その勢いに、まふゆは思わず後ずさった。
「やっぱり君も、ミカゲがいいのか!?あいつがいない今が、好機だと思ったのに……!それとも、兄さんか!?いつもそうだ、僕より兄さんの方が……!」
「ち、違う!うちはそんな……!」
「黙れッ!!」
セリウスの怒声が、教室の空気を震わせた。
彼はもはや、まふゆの言葉を聞き入れようとはしない。彼の歪んだ思考の中では、まふゆの拒絶も、レオンハルトの存在も、全てが自分を否定し、邪魔をする「敵」でしかなかった。
「セリウス、落ち着け!まふゆが怖がっているだろう!」
レオンハルトが、弟の暴走を止めようと再び声を張り上げる。
その言葉に、セリウスは狂ったように笑い出した。
「怖い?ああ、そうか……怖がらせればいいんだ。僕から離れられないように、僕だけを頼るようにすればいい……!」
その思考は、もはや常軌を逸していた。
セリウスは突きつけていた短剣を一度引くと、次の瞬間、教室の床を蹴ってまふゆへと一直線に突進した。
その動きは、強化魔術によって普段の彼とは比べ物にならないほど速い。
「まふゆ、危ない!」
レオンハルトが叫び、まふゆを庇うように前に出る。
セリウスはそれを予測していたかのように、空中で身を翻し、レオンハルトの肩を蹴りつけて跳躍。彼の背後、がら空きになったまふゆの腕を乱暴に掴んだ。
「っ……!離して、セリウスさん!」
「離さない。絶対に、もう離さない……!」
セリウスはまふゆの腕を掴んだまま、彼女の身体を引き寄せる。
その瞳は、もはや正気の光を失い、ただ独占欲と嫉妬の炎だけが燃え盛っていた。
「いい子だ、まふゆ。これで君は、ずっと僕だけのものだ……」
抵抗するまふゆの耳元で、セリウスは恍惚とした声で囁く。
その絶望的な状況を、教壇のエドウィンは心底楽しそうに、口元に笑みを浮かべて眺めていた。




