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「────!?」
目の前で起こった異変に、まふゆの心臓が凍り付く。
セリウスの体から立ち昇る禍々しい紫色のオーラ。それは、学園を襲った魔物や、暴走したゴーレム改が放っていた光と酷似していた。
そして、彼の瞳。
いつもは冷静で理知的な光を宿しているはずの青緑色の瞳が、今はどす黒い嫉妬の炎に染まり、飢えた獣のように自分だけを見つめている。
「セリウスさん!しっかりして!はよそれを外して!!」
まふゆは恐怖を振り払い、衝動的にセリウスへと駆け寄った。彼の手の甲で不吉な光を放つ魔導機に触れ、引き剥がそうと手を伸ばす。
その瞬間だった。
シャキン、と冷たい金属音が響き、まふゆの喉元に銀色の切っ先が突きつけられた。
セリウスが、腰に提げていた短剣を抜き放ち、その刃をまふゆに向けていたのだ。
「……っ!」
息を呑むまふゆ。喉元の皮膚に突き刺さるような冷たさと、殺気とも呼べるほどの凄まじい敵意に、全身が金縛りにあったように動けなくなる。
「……僕に、触るな」
セリウスの唇から、地を這うような低い声が漏れた。それは、まふゆが知っている彼の声ではなかった。
「セリウス!お前、正気か!まふゆに剣を向けるなど!」
レオンハルトが怒声と共に駆け寄り、セリウスの腕を掴もうとする。
だが、セリウスは獣のような俊敏さでそれをわし、レオンハルトとの間に距離を取った。
「兄さん……あなたもだ。もう、彼女のそばに寄るな」
「何を言っている!目を覚ませ、セリウス!」
レオンハルトの必死の説得も、今のセリウスには届かない。彼の瞳には、兄であるレオンハルトさえも「敵」として映っているようだった。
「目を覚ませ?違う。これは……僕の本当の気持ちだ。ずっと、ずっと我慢してきた……!」
セリウスは狂気を孕んだ笑みを浮かべ、まふゆを見つめる。
「どうして、いつもミカゲなんだ?どうして、兄さんなんだ?僕だって……僕の方が、君を……!」
途切れ途切れの言葉は、彼の心の奥底に沈殿していた醜い感情そのものだった。
嫉妬、劣等感、独占欲。それらがエドウィンの魔導機によって際限なく増幅され、彼の理性を完全に喰い破ってしまっていた。
「さあ、おいで、まふゆ。もう誰にも君を近づけさせない。僕が、ずっと守ってあげるから……」
セリウスは、短剣を構えたまま、ゆっくりとまふゆに手を差し伸べる。
その光景を、教壇に立つエドウィンは、まるで面白い演劇でも鑑賞するかのように、満足げな笑みを浮かべて見つめていた。




