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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第八話 少年は暴走する
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8-3




一限目の授業は、ガレオスによる戦闘訓練の座学だった。


彼は普段は実技訓練を担当しているが、今日は昨日の試験での事故を受けて、「魔力の暴走とその対処法」について講義を行うとのことだった。


「……魔力の暴走は、外部からの干渉や、使用者の限界を超えた出力によって引き起こされる。特に、支援魔術を受ける側の魔力回路が、増幅された力に耐えきれない場合、深刻な後遺症を残すこともある」


ガレオスの低く響く声が教室に響く。その言葉の一つ一つが、まふゆの胸に突き刺さった。


(……ミカゲさんに、後遺症が残ったらどうしよう……)


不安が、じわじわと心を蝕んでいく。授業内容が、まるで昨日の自分の行動を責めているように感じられて、ノートを取る手が震えた。


「まふゆ、大丈夫か?」


隣のセリウスが、小さな声で囁いてくる。その菫色の瞳には、心配の色が滲んでいた。


「……うん、大丈夫やで」


小さく頷き返すが、セリウスの表情は晴れない。彼もまた、昨日の出来事を引きずっているのだろう。


レオンハルトも、前の席で拳を握りしめたまま、じっと先生の話を聞いている。その横顔は、いつになく厳しい。


そして、後ろの席は、やはり空いたままだった。




一限目、二限目、三限目……どの授業も、まふゆの心には上の空で、ただ時間だけが過ぎていった。




そして、昼休み。


「まふゆ、一緒に食堂行かないか?」


レオンハルトが声をかけてくる。セリウスも頷いて、まふゆの返事を待っていた。

だが、まふゆの心は既に決まっていた。


「ごめん、うち、ちょっと用事があるんや。二人で行ってきて」

「……そうか。無理するなよ」


レオンハルトは、何かを察したように静かに頷いた。セリウスも、少し寂しそうな表情を浮かべたが、何も言わずに頷く。


二人が教室を出ていくのを見送ると、まふゆは急いで医務室へと向かった。

廊下を走る。息が切れる。それでも、足を止めることはできなかった。


(ミカゲさん、起きてへんかな……)


一晩中そばにいて、朝も様子を見に来たばかりなのに、もう会いたくて仕方がなかった。




医務室のドアを開けると、そこには変わらず静かに眠るミカゲの姿があった。


「……ミカゲさん……」


そっと名前を呼びながら、ベッドの脇に置かれた椅子に座る。

朝と同じように、彼の手を両手で包み込んだ。その手は、まだ少し冷たかった。


「……ミカゲさん……起きたら、一緒に食堂行こな」


返事はない。ただ、規則正しい呼吸音だけが、静かに響いている。

まふゆは、そっとミカゲの手に自分の額を押し当てた。


(……お願い、起きて……)


祈るような思いで、彼の手を握りしめる。




その時だった。


「まふゆ……?」


背後から、聞き慣れた声が響いた。

ハッとして振り返ると、そこには保健室の入り口に立つセリウスの姿があった。手には、二つの包みを持っている。


「セリウスさん……?どないしたん……?」

「……兄さんと食堂に行ったんだけど、君が何も食べてないって聞いて。これ、サンドイッチ。君の好きそうなやつを選んできた」


セリウスは、少し気まずそうに視線を逸らしながら、包みをまふゆに差し出した。もう一つの包みは、自分の分だろうか。


「……ありがとう、セリウスさん」


まふゆは、ミカゲの手をそっと離し、セリウスから包みを受け取った。

セリウスは、空いている椅子をもう一つ持ってきて、まふゆの隣に座る。そして、ミカゲの寝顔を静かに見つめた。


「……僕も、ずっとミカゲのことが気になってて。授業中も、全然集中できなかった」


ぽつりと呟くセリウス。その声には、後悔と無力感が滲んでいた。


「僕は、まふゆを守れなかった。結局、ミカゲに頼るしかなかった。……僕が、もっと強ければ……」


その言葉を聞いて、まふゆは胸が締め付けられた。


「そんなことないで。セリウスさんは、ちゃんとうちを守ってくれた。レオンハルトさんも、セリウスさんも、みんな必死に戦ってくれてたやん」

「でも……」


セリウスは、まだ何か言いたげだったが、それ以上言葉を続けることはできなかった。


二人の間に、また沈黙が落ちる。


医務室には、ミカゲの規則正しい寝息と、窓の外から聞こえる生徒たちの賑やかな声だけが響いていた。




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