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ブラック ブック  作者: さだきち
紫の花と血塗られた鞘

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第三章:街道の掃除屋


ローズタウンの喧騒を背に、カイエンは王城へと続く峻烈な山道を歩いていた。

乾いた足音だけが響く静寂の中、背後には一定の距離を保ってついてくる三人の男たちがいた。大きな荷物を背負い、旅人を装っているが、その歩法には隠しきれない殺気が滲んでいる。


しばらく歩き続けたカイエンは、不意に足を止めた。そして腰のレプリカを抜き放つと、背後の男たちに向かって振り返った。


「おい! いつまで歩くつもりだ? このままじゃ城に着いちまうぞ!」


声を張り上げたカイエンに対し、三人の男たちは顔を見合わせた。

「お? 俺たちに話しかけてるのか?」

右端の男がとぼけた声を出す。

「他に誰がいるんだ。……気づいてねえとでも思ったか」

「仕方ねえな……」

真ん中の男が苦笑いすると、左端の男が周囲を見渡し、他の旅人がいないことを確認した。


すると、彼らは奇妙な行動に出た。

着ていた服を丁寧に脱ぎ始め、それを畳んで背負っていたリュックに仕舞い込んだのだ。全裸になった男たちの肌が、次第にどす黒く変色していく。


「ギチギチ」と骨が鳴る。

右端の男は猫のような耳と鋭い爪を剥き出しにし、真ん中の男はゴリラのような巨体へと膨れ上がって重厚な斧を手に取った。左端の男はトサカのある鳥のような顔へと変貌し、鋭利な剣を構える。

三人は見るも無惨な黒色の魔物――「黒本党」の末端へと姿を変えた。


「準備はできたか?」

カイエンが淡々と確認する。男たちは醜悪な笑みを浮かべた。

「こうなったらお前に勝ち目はないぞ! レイドール様から仰せつかってきたんだ。お前の首を取ってこいってよぉ!」

「首から上以外は要らないってなぁ! ギャハハハ!」


三人は高笑いしながら、距離を詰めようと身構える。

「レイドールか。黒本党の中でもかなりの大物だな」

「そうだろう! その名を聞いて震え上がったか? 俺たちに仕留められることを感謝しな!」


「いや、お前らは雑魚だ」


ドオン!


乾いた銃声が山道に響き渡った。

猫耳の男の脳天が弾け、笑い声を上げたまま崩れ落ちる。


「へ……?」

残された二人が呆然と立ち尽くす。

カイエンは男たちが着替えて「準備」をしている間に、既に鋼鉄の手首を折りたたみ、銃身を露出させていたのだ。


ドオン! ドオン!


間髪入れずに二発。

一発はゴリラのような男の心臓を正確に貫いた。巨体が丸太のように倒れる。もう一発は鳥頭の男を狙ったが、わずかに逸れてその腹部を抉った。


「……ちっ、気を抜いたか。俺もまだまだ未熟だな」

カイエンは独り言のように呟きながら、腹を押さえて悶絶する鳥頭の男へと歩み寄る。

ガチャンと音を立てて義手の手首を元の形に戻す。


「ま、待て……! お助け……」

鳥頭が何かを懇願しようとしたが、カイエンの振るったレプリカがその言葉を断ち切った。鮮血が舞い、静寂が戻る。


カイエンは三人の死体を確認すると、彼らの荷物を無造作に探った。

出てきたのはランタン、火打石。そして、一冊の「黒本」だった。

「黒本は闇市場で高値がつく。こいつらがまともに買えたはずはないな。馬車でも襲って手に入れたか……」


黒本が一冊しかない場合、それを共有して変身したところで、なれるのは不完全で弱い魔物止まりだ。こいつらの慢心は、その「薄まった力」への無知から来ていた。


カイエンは黒本にランタンの油を振りかけ、火打石で火を打った。

呪われた紙が赤黒い炎に包まれ、やがて冷たい炭になるのを最後まで見届ける。


「……急ぐか」

立ち上る黒煙に背を向け、カイエンはローゼンバーグ王城への道を再び歩み始めた。


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