表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック ブック  作者: さだきち
凪(なぎ)の境界、あるいは天空の航路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/61

第四章:街道の約束と凪(なぎ)の予感


街道の先に立ち尽くすサヤの背中に、マルコとカイエンが駆け寄った。

「サヤ! 大丈夫か? ケガはないか!」

マルコが心配そうに覗き込むと、サヤは感情を押し殺したような横顔で、静かに首を振った。足元には、人間の姿に戻ったジゼの残骸が転がっている。


カイエンはジゼの死体を見下ろし、低く呟いた。

「……殺しちまったか。で、エルムは見つかったのか?」

サヤは街道の向こう、夕闇が迫る地平線を指差した。

「あちらの方へ向かったわ……。女の人と一緒に」

「女……? ああ、カミラか。厄介だな」

カイエンは腕組みをし、苦々しく顔を歪めた。


「思ったんだが、やはり黒本党の幹部ともなると、かなり強い。さっきも一人だったら、俺も死んでたな……」

カイエンの言葉を受け、サヤが真っ直ぐに彼の眼帯に顔を向ける。

「あなたは……あの時、エルムを殺そうとしてた。この先、もしエルムを見つけても、殺さないって約束してくれる?」


「……まあな。だがな」

カイエンは無造作に、金属質な音を立てる義手を突き出した。

「その手……」

「俺も昔、魔剣に呪われた。師匠に腕を切り落としてもらったから助かったが、エルムも腕一本は覚悟してもらう」

「う……それは……」

サヤが絶句する。だが、カイエンの言葉には経験に基づいた重みがあった。

「お前だって、かなり痛い目に遭ったはずだ。魔剣は……それほどまでに危険なんだよ」

「うん……。わかった」

サヤはこくりと頷いた。彼女もまた、魔剣に呪われた者の末路を見てきた。

「でも……そんなことがあったなんて。……ごめんなさい」

「気にするな。……で、お前は?」

カイエンの視線がマルコへと向けられる。


「あ、はい。私はマルコです。……しかし、さっきのブレスは強力でしたね! あなた、ドラコニアン(竜人族)ですよね?」

「俺はカイエンだ。よろしくな…それにしても、よく知っているな」

「前に見たことがあるんです。でも、マジックロッドにいた頃は、ブレスって戦闘の最初に吐くものだと思ってましたから」

「マジックロッド……魔法電池の鉱山か?」

「いや、鉱山ではなくて。……迷宮になっていて魔物がいて、その魔物を倒して持ち帰った品を魔法炉に格納して……」

「ふーん。割と複雑な仕組みなんだな。……まあ、俺たちはドラゴンと違って、あのくらいの炎で打ち止めだからな」


「えっ。一発しか吐けないんですか?」

「そうだな。胃が小さいから」

「胃が小さい……?」

「俺たちには胃が二つあってな。そこに可燃性のガスが溜まるんだが、一度吐き出すと、また溜まるのに数時間はかかる」

「へえー、すごい。……ともかく、あなたが一緒にいてくれるのは本当に心強いです」

「そうか」

カイエンはぶっきらぼうに答え、街道の先を見据えた。

「じゃあ、行こう。エルムはあっちか?」

サヤが頷く。三人は、長く伸びる影と共に歩き出した。


「嫌な予感がするな……」

カイエンの呟きに、マルコが尋ねる。

「何がです?」

「この先は、トルニアっていう港町なんだが」

「ええ、地図で見ました」

「そこには『ゼファー・エンド(風のない岬)』がある」

「ゼファー・エンド……」サヤがその名を反芻した。

「そこから先は、船では行けない」

「港町なのに、ですか?」

「そこが問題なんだ」

カイエンの言葉に、マルコは少し楽観的に笑った。

「まあ、いいじゃないですか。行き止まりなら、逃げ場がないんだし好都合ですよ」

「……行き止まりだといいがな」


カイエンの不穏な言葉を風が浚っていく。凪いだ海が待つ港町へ向けて、三人の足取りは早まっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ