第三章:怒りの炎と悲しき閃光の刃
街道の先に広がる草原。夕闇が迫る中、そこでは乾いた銃声と、硬質な爪と剣がぶつかり合う凄絶な火花が散っていた。
「ふふふ……勘違いするな。あの三人はただのハンデだよ。邪魔な壁が消えただけのことだ」
ジゼが歪な左目を剥き出しにして笑う。その直後、カイエンの放った銃弾を爪で軽々と弾き飛ばすと、先ほどとは比較にならない速度で幽体の爪がサヤとマルコを急襲した。
「キィン! ガキン!」
二人は死に物狂いで刀と短剣を合わせる。防いではいるものの、その一撃ごとに腕から全身へ痺れるような衝撃が走り、膝が屈みそうになるのを辛うじて堪えた。
「ドオン!」
カイエンはジゼが実体に戻る瞬間を精密に狙う。だが、ジゼは爪で弾き、続く二発目も紙一重の動きでかわしてみせた。
「ふん! 馬鹿め……そんなもの、何発撃っても当たらねえよ」
ジゼの嘲笑に対し、カイエンは無言で銃を義手に戻し、レプリカを抜き放つ。直後に迫るジゼの凶爪。
前衛の三人を倒し、カイエンが加勢したことで戦力は三人に増えたはずだった。しかし、ジゼの猛攻はさらに凶悪さを増し、三人とも防戦一方で余裕がない。受けるたびに腕が痺れ、体勢がじわじわと崩されていく。
「銃はどうした!」
マルコが叫ぶ。
「あれは六連発だ、弾切れだよ。装填している間に殺される」
カイエンは冷静に、だが鋭い口調で指示を飛ばした。
「お前ら……奴の爪を受けたら、即座に俺の前から離れろ!」
「え?」
「いいから、やれ!」
「ガッキィン!」
その瞬間、サヤとマルコが同時にジゼの爪を受け止める。直後、指示通り二人はカイエンの前を開けるように両脇へ散開した。
ジゼの幽体が実体へと収束するその刹那、背後にいたカイエンが、大きく口を開くのが見えた。
彼の喉の奥で、火花が散る。
次の瞬間、超高熱の業火が咆哮と共に放たれ、ジゼを真っ向から飲み込んだ。
「……!」
それは爪で弾くことも、わずかに身を躱すことも不可能な、回避不能の暴力的熱量。
「ぐぎゃあああぁぁ!」
黒い魔物の肉体が焼けただれ、焦熱の叫びが草原に響く。たまらずジゼは背を向け、街道の奥へと駆け出した。
「逃がすか!」
カイエンとマルコが即座に追う。だが、大火傷を負ってなお、魔物の脚力は凄まじい。二人の距離を引き離そうとしたその時だった。
サヤが静かに刀を振り抜き、空間を切り裂いた。
――一閃。
突如として、ジゼの行く手に虚空の裂け目が口を開く。
「な……何だと!?」
驚愕し足を止めたジゼの眼前に、裂け目の向こうからゆっくりと歩み出るサヤの姿があった。
「ま、待ってくれ! 待って……!」
ジゼの醜い命乞いを、サヤの冷徹な声が射抜く。
「私のお母さんが、いくら命乞いをしても、あなたたちは待ってくれなかった……」
一歩、また一歩とサヤが距離を詰める。
「そして、そのお母さんを庇うお父さんごと、あなたたちは鋭い爪で貫いた……」
「く、くそっ!」
逆上したジゼが、焼け焦げた腕を振り下ろす。だが、その腕は木の葉のように軽々と斬り飛ばされた。
次の瞬間。
一筋の銀光が走り、ジゼの首は胴体を離れ、重く湿った音を立てて草原に転がった。




