第二章:幽体の爪と再会の一撃
サヤとマルコは、ピーティンから続く街道の宿場町で束の間の休息を取っていた。だが、逸る気持ちを抑えきれず、二人は再び歩を進める。
宿場町の喧騒を抜けようとしたその時、サヤが急に足を止めた。
「ちょっと、待って……」
「なに? サヤ、見つけたの?」
「うん、行こう! あっちよ!」
サヤが駆け出し、マルコもその背を追う。街道から少し開けた草原の道。そこには、カミラに引かれ、深いフードで顔を隠した少年の姿があった。
「エルム! 待って!」
サヤの叫びに、カミラが愉しげに振り返る。「来たようね……」
彼女は隣を歩く大男――ジゼに妖艶なウインクを送った。「じゃ、お願いね」
「ちっ、しゃーねーなあ」
ジゼが振り返ると同時に、三人の男たちが彼の前に進み出た。カミラとエルムはその隙に、迷うことなく道の奥へと消えていく。
次の瞬間、三人の男たちの肌が煤けたように黒く変色した。背後に立つジゼもまた、人ならざる異形の姿へと変貌を遂げる。
右目が退化し、顔の半分を占めるほど肥大化した左目を持つ一つ目の魔物。その歪な瞳が二人を射抜く。
「シッ!」
前衛の魔物三体が、獣のような鋭い爪を繰り出す。サヤは刀を抜き放ち、マルコは双剣「ツインズ」でそれらを火花と共に弾き飛ばした。
だが、その背後から本命が迫る。ガキィン! と重い衝撃が走った。ジゼが前の三人をすり抜けるような超常の速度で肉薄し、長大な爪を叩きつけたのだ。
間一髪で防いだものの、その圧倒的な膂力に二人の足が土を削って後ずさる。
「あれは……スピリット(幽体)だな……」
マルコが苦々しく呟いた。
「スピリットって?」
「幽体離脱で攻撃してくるんだ。見えているのは幻影に近いが、斬撃は本物……実体は後ろだ!」
ジゼの攻撃は、前の三人と自身の幽体、そして死角からの実体攻撃が混ざり合う、回避不能の多段攻撃だった。
「ぐあ!」「きゃあ!」
ついに、ジゼの鋭い爪が二人の防御を破り、その肩と脇腹の肉を深く抉った。
「ヒールパーティ!」
マルコが即座に回復呪文をコールし、傷口は塞がる。だが、戦況は絶望的だった。
「……実体に届かないと、私の『壱の太刀』が出せない!」
その時だった。
――ドオン!
乾いた銃声が響き、前衛にいた魔物の一人の頭部が弾け飛んだ。
「とりあえず、前にいる奴から片付けたらどうだ?」
聞き覚えのある、低く落ち着いた声。
その援護を逃さず、サヤが動いた。一閃。魔物の腕が宙を舞い、次の瞬間には首が地面を転がった。マルコもまた「ツインズ」で爪を弾き、がら空きになった魔物の胸に掌底を叩き込む。強烈な衝撃波が鱗を透過して内臓を粉砕し、魔物は血反吐を吐いて崩れ落ちた。
「あなたは……!」
マルコが驚きに振り返る。だが、声の主は冷たく言い放った。
「前を見ろ」
間髪入れず、ジゼの爪が死角から迫る。マルコは咄嗟に「ツインズ」を交差させ、その衝撃を歯を食いしばって受け止めた。
ドオン! ドオン!
立て続けに二発の銃弾が放たれる。ギィン! ガン! と、幽体から実体に戻り際を狙われたジゼが、舌打ちしながらそれを爪で弾いた。
マルコが改めて視線を向けると、そこには短髪に黒い布を巻き、鋭い眼光を宿した眼帯の男が立っていた。
「自己紹介はまだ早い。……前を向け」
カイエンは無造作に銃を構え直し、その銃口を不気味に蠢くジゼへと固定した。




