表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック ブック  作者: さだきち
滅びの甘露(かんろ):ヴェネリアの崩壊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/66

第一章:黄金の揺り籠、禁忌の再誕


辺境の国レティシアは、今や大陸でも稀なほどの繁栄を謳歌していた。

肥沃な土地からは豊かな実りがもたらされ、工業は細部に至るまで洗練されている。大陸から「風の吹かない岬」で隔絶されたその地は、外の世界の戦火を忘れさせるほど穏やかだった。


首都アステリアの街並みは、美しく磨かれた石畳がどこまでも続き、荘厳な石造りの建築が威厳を放っている。人々は行き交う馬車や賑わう市場の中で、満ち足りた平穏を享受していた。

街の中心にそびえる王城は、何人たりとも通さぬほど固く閉ざされ、黒装束の衛兵による厳重な警備が敷かれている。だが、民衆にとってそれは「高貴な王族を守るための誇り」であり、その閉鎖性に疑問を持つ者など一人もいなかった。


しかし、その王城の地下深く——。

地上とは対照的な、冷たく薄暗い聖堂が広がっていた。壁には煌びやかな装飾が施されているが、中央には異様な威圧感を放つ豪奢な棺が鎮座している。

その傍らで、守護隊長ガルディスは微動だにせず立ち尽くしていた。


『……ガルディスよ。魔剣のほうは、その後どうなった?』

棺の中に横たわる、動かぬ魔術師の肉体から、直接ガルディスの脳裏へ直接声が響いた。

「はっ。今はカミラが、あの少年と共にこちらへ向かっている最中でございます。城内まで招き入れるおつもりですか?」

『ふむ。一応はな』

「……失礼ながら。あの魔剣が必要なのですか?」

『いや、必要はない』

魔術師ヴァルガスの思念が、冷ややかに笑った。

『必要なのは、その後に追ってくる者のほうよ』

「……と、言いますと?」


『あれは、用意できているか?』

問われたガルディスは、無言で奥にある巨大なカーテンを開き放った。

そこに鎮座していたのは、圧倒的な質量を持つ鋼の塊。巨大な無限軌道を備えた車両に、禍々しい輝きを放つ詠唱石の砲台が搭載された――「戦車」であった。


『いや……それはまだ完成しておらん。最後のピースが欠けておるのだ』

ヴァルガスの声に、執着と憎悪が混じる。

『古のロンカ帝国め……遂にその秘密は解けなんだが、これには本物の「精霊の力」を埋め込む必要がある』

「精霊の力、ですか……」

『ふふふ。ドラゴンの王族に伝わる精霊降臨。かつて精霊戦車を滅ぼした者の一族が、その復活の鍵となるとは、皮肉な巡り合わせよ』


ヴァルガスの野望は、すでに理を超えていた。

『本来の作り方ではないが、それでも精霊戦車は完成する』

「不可能を可能にするとは、流石ヴァルガス様でございます」

『カミラには、王子を十分に惹きつけるよう伝えろ。あえて足掛かりを残し、獲物をここへ呼び寄せるのだ』


すべては、追っ手――カスティエル・ルナ・ヴァルムンドをおびき寄せるための罠。

『精霊戦車の復活。……そして「生命のしずく」。順調に我が復活のシナリオは進んでおる』

「まさしく、神の所業でございます」

『ふふふ……まさにな。ガルディスよ、お前がこの計画の要だ。しっかりと働いてもらうぞ』

「ははーっ! ありがたきお言葉にございます」


ガルディスが深く跪くと同時に、薄暗い地下聖堂は、棺から溢れ出す不気味な紫光に照らされていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ