第四章:憑依する双剣、呪われた旅立ち
夜が更けても、長老の住居に灯る明かりが消えることはなかった。
いつしか話し手と聞き手は逆転していた。精霊工学の権威であるバレルの話は、隔離された村で生きる長老にとって、驚きと興奮に満ちた未知の物語だった。
外の世界の精霊術、ドラゴン王国や失われたロンカ帝国の歴史。詠唱石がもたらす技術革新、そして、この村から送られた「傀儡」たちがプラマーグの港町でどのように機能しているか……。話が多岐にわたるにつれ、長老の眼差しは慈愛に満ちたものへと変わっていった。
「そうか、そうか……。よくこの村に来てくれた。お前のような者が来てくれて、本当に良かったよ」
「そんな、俺のほうこそ。この村の技術には感動しっぱなしですよ。……ところで、長老。この村はどうして『呪われて』いるんです?」
長老は深く溜息をつき、遠い目をしながら答えた。
「遥か昔の話だ……神を怒らせた、あるいは山の主の機嫌を損ねた、そんな伝承しか残っておらん。かつてはこの山を含めて三つの山があったが、皆同じ呪いにかかり、麓へ降りようとすれば山そのものが崩れて皆死んでしまったという」
「今はもう、この山しか残ってないのか……。じゃあ、俺まで呪われたってことですか? この村から出ていった者は一人もいないんですか?」
「いや、いないわけではない。だが、その方法は極めて難しい」
長老は一拍置いて、村で修行に励む修道士たちの話をした。そして、かつてこの村に、バレルに匹敵する「天才」がいたこと。その男が、不可能と言われた「霊体のみの二本の短剣――ツインズ」を作り上げたこと。
「なんと……霊体だけの剣を!」
「だが、その剣は物理的な形を持たぬ。持とうとしても手からすり抜けてしまうのだ。板に乗せて運ぶことはできても、振るうことはできん。……修行を極め、その剣の霊体を己に『憑依』させた者だけが、それを手にできるのだ」
バレルは言葉を失った。憑依――それは技術を超えた領域だ。
「憑依された主が剣を手放しても、剣は主の元へ消えて戻るという。そして、その剣に選ばれた者は『破戒僧』として、二度と村へ戻ることは許されず、外の世界へ追放されるしきたりなのだ」
「その、マルコという者は今どこに?」
「それは分からぬ。だが、彼が死ねばツインズは村の祭壇へ戻り、また新たな主を選ぶことになるだろう」
長老は静かにバレルの目を見据えた。
「のう、バレル。物は相談なのだが……もう一度、あの傀儡に乗って村を出てみてはくれんか?」
「え?」
「お前を見ているとな……この村の呪いを解く方法がどこかにあるような、そんな気がしてならんのだ。図々しい願いだが、外の世界へ出て、この村を救う方法を探してはくれぬか」
バレルの胸に、熱い義侠心が込み上げた。この数日で得た知識、そして村人の温かさ。恩を返さぬドワーフなどいない。
「何を仰るんですか。……約束しますよ。必ず、この村を助ける方法を見つけ出し、戻ってきます」
数日後。
村の入口には、巨大な傀儡の姿があった。その背の木箱に乗り込み、バレルは村人たちの見送る中、再び雲海の下へと降りていった。
目的地は、プラマーグの町。
「マルコ」という名の双剣使い、そして自分を待っているはずの仲間たち。
バレルの手には、長老から贈られた知恵と、技術者としての新たな火種が握られていた。




