第三章:光の裁断、繰り返される終焉
宣戦布告から二十日目の朝。
地平線の彼方から、シュタインベルグ王国の誇る十万の軍勢が、黒い津波のように平原へと押し寄せた。
軍の最後尾では、戦場とは思えぬ光景が広がっていた。テーブルには白い布が敷かれ、豪華な料理と名産のワインが運ばれている。シュタインベルグの猛将グリーバルと、カベナルの高官ジゼが、悠然と椅子に腰を下ろしていた。
「遠路はるばるご苦労であったな、ジゼ殿」
グリーバルはグラスのワインを嗜み、鼻を鳴らした。
「ふふふ……しかし将軍、開戦直前にこれほど優雅にしていて良いのですか?」
ジゼの問いに、グリーバルは目の前の光景を顎で指した。そこには、整然と並ぶ十万の兵士と重装騎馬隊。大地を埋め尽くす圧倒的な武の奔流。
「こんな図体のでかい軍を動かすには、朝から出て昼までかかる。いちいち作戦など立てるまでもない。誰が指揮を執っても踏み潰せるわ!」
グリーバルの合図で伝令が走り、両翼から進軍の角笛が轟いた。十万の大軍が、リングベル王城を目指して一斉に動き出す。
対するリングベル側。
城門の前には、一万の美しい騎馬隊が、死を覚悟した静寂の中に整列していた。先頭に立つ王セオドアが剣を掲げ、我が子らと呼ぶ兵士たちを鼓舞する。
「リングベルの子らよ! 今こそ勇気を示せ! 今日こそが破滅の時、そして伝説の時だ! 死を恐れず、敵の只中へ突き進め!」
地鳴りのような「死だ!」という叫びが三度響き、一万の精鋭は、王を先頭にゆっくりと、だが力強く十万の軍勢へと向かって歩み始めた。
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その様子を、王城の最上部からカイエンたちが凝視していた。
「来やがったな……。いいか、よく聞け。俺が眼帯を外す」
カイエンの低い声に、バルドとゴドリックが緊張で息を呑む。
「指示を出す。合図があったら、俺の両脇をしっかり持っててくれ」
カイエンが慎重に眼帯を外した瞬間、彼の右眼から漏れ出す圧力が大気を震わせた。
「撃て!」
イゾルデの叫びと同時に、辺り一面が白銀の光に包まれた。
凄まじい反動。カイエンを含めた三人が木の葉のように回転して吹き飛んだ。巨大な光弾は目標を大きく逸れ、隣の岩山を跡形もなく消滅させた。大地が地震のように激しくのたうつ。
「うわあぁぁぁ!」
ゴドリックが城壁から放り出されようとした、その時。
——カチリ。
イゾルデが懐の逆時計を押し込んだ。
時間が逆流し、視界が巻き戻る。
「カイエン! 一旦眼帯をはめて!」
イゾルデの声が響く。状況が飲み込めないカイエンだったが、彼女の気迫に押され眼帯を戻した。
「バルド! ゴドリック! 腕を持つんじゃなくて、両肩と頭をしっかり固めて! 次の合図で外すわよ!」
二人が必死にカイエンの身体を固定する。
「外して!」
再び眼帯が外される。「しっかり踏ん張って! 吹き飛ばされるわよ!」
「撃て!!」
放たれた二射目は、わずかに右へ逸れ、連合軍の脇にある山脈を轟音と共に消し飛ばした。
「チッ! 惜しいわね」
イゾルデは迷わず再び逆時計のスイッチを押した。
「バルド! 頭をもう少し強く! ゴドリックは肩に力を込めて!」
三度目の「今」。
十万の軍勢が蟻のように平原を埋め尽くす。一万の騎馬隊がまさに衝突せんとするその刹那。
「撃て!!」
イゾルデの絶叫が空を裂いた。
放たれた巨大な光の柱は、今度こそ完璧な軌道を描き、十万の軍勢の中央へと、真っ直ぐに突き刺さっていった。




