第二章:精霊の眼光、神罰の引き金
リングベル王城の謁見の間。王セオドアは、かつて大陸を震わせた伝説の家系の末裔を、静かな眼差しで迎え入れていた。
「そなたが……かのドラグニール・J・ヴァルムンドの血を引く息子、カスティエル・ルナ・ヴァルムンドだと申すか?」
「そうだ」
カイエンの短い答えに、王は低く唸った。
「それで……この戦乱のさなか、我が国に何の御用かな?」
「援軍に来た」
「援軍? たった一人でか?」
セオドアは顎に手を当て、自嘲気味に鼻で笑った。「この状況で言うのも何だが、我が騎馬隊は列国最強。一人で来られて、ほいほいと馬を与えるほど、我が国は困窮してはおらんぞ」
「馬に乗りに来たわけじゃない」
カイエンの冷徹な声が王の言葉を遮った。
「……では、どうやって戦う?」
「『精霊の目』を知っているか」
「……赤子の目から光が放たれ、山を一つ吹き飛ばしたという、あのお伽噺か?」
「お伽噺なんかじゃない」
カイエンは黒い眼帯をトントンと指で叩いた。その仕草に宿る確信に、セオドアは一瞬気圧されたが、すぐに豪快な笑い声を上げた。
「わっはっは! 面白い。それで、どうしろと言うのだ」
「城門の上の広場を貸せ。あそこなら見晴らしがいい。砲撃するのにちょうどいい場所だ」
「王よ! あのような戯れ言を!」
傍らの将軍ラングが詰め寄るが、王は手を挙げてそれを制した。
「……ラングよ、もうよい。この者たちに空けてやれ」
「王! 正気ですか!」
「戯れではない。ラング、私は目が覚めたのだ。代々剣の王と呼ばれた我が家系、私は逃げも隠れもしない。雄々しく剣を握ろうぞ!」
王の瞳に、死を覚悟した者の烈火が宿る。
「カスティエルよ、好きにするがよい」
王の許しを得て、カイエンたちは謁見の間を辞した。
後に残されたラングに、王は熱く語りかけた。「あの者たちを当てにするわけではない。我が軍は最強の騎馬隊だ。そこに全軍を集中させる。私も馬に乗るぞ! 逃げたい者は逃がせ。残る者だけで、歴史に残る散り際を刻もうではないか!」
「……王! 誰も逃げませぬ! このラング、最期までお供いたします!」
---
城門の頂、広大な平原を見下ろす高台にカイエンとイゾルデは立っていた。
「何でこんな場所に城を……建てた奴はアホなんすかね?」
バルドが遮るもののない平原を眺めて呟く。
「これじゃあ、十万の大軍が来たら守りようがない……」
ゴドリックも同意するように肩を落とした。
その広場の一段高い展望台を指差し、イゾルデが不敵に告げる。
「私は、あそこから指示を出すわ」
「奥方、一体何の話を……?」
バルドが首を傾げる中、カイエンは眼帯の奥に疼く熱を感じながら呟いた。
「問題は……前に真っ直ぐ飛ぶか、だ」
「ふふ……そうでしょ? あの出力だもの」
カイエンが驚いたようにイゾルデを見た。「なぜそれを……」
「ゴドリック、バルド。カイエンを両脇から押さえなさい。倒れないようにね」
「俺たちが? なんで……」
二人が呆気にとられる中、イゾルデは懐の中で「逆時計」を密かに握りしめた。
かつて失われたロンカ帝国が、世界を支配するために造り上げた精霊戦車。その主砲は、あまりに凄まじい火力ゆえに、放てば周辺の空間ごと全てを破滅させてしまう呪われた武器だった。
その暴発を防ぎ、指向性を一点に固定するための唯一の「安全装置」——。
イゾルデの持つ時計が、運命の刻限を前にカチリと微かな音を立てた。




