第三章:黒本党の告白
「どうした? 遠慮せずに食べなさい。毒など入ってはおらんよ」
領主は上質な肉を口に運びながら、鷹揚に食事を勧めた。
カイエンはそれに答える代わりに、面倒くさそうに懐をまさぐり始めた。
「あれ……おっかしいな……ああ、あった」
取り出したのは、皺だらけになった一枚の報告書だ。カイエンはそれを無造作に広げると、感情を排した声で読み上げ始めた。
「……えー。近年は石炭の需要が減少しており、当該炭鉱の運営も厳しい状況にあるはずだ……」
領主は食事の手を止めず、ちらりとカイエンを盗み見た。カイエンは顔を上げ、豪華な装飾が施された食堂を見渡す。
「だが、その割にはこの屋敷はいい羽振りだな。この食事もワインも、相当な値が張るはずだ」
「……ん? 何が言いたい」
領主の目が細まる。
「形式だ。上からのな」
カイエンは吐き捨てるように言うと、領主をじろりと射抜いた。
「この利益、どこから稼いでる? 報告書と辻褄が合わねえんだよ」
「何がしたい、討伐隊」
「昔の食人樹のように、見つけ次第斬れってわけにはいかなくなったんだとよ。コンプライアンスってやつか? だから、こうやってお前が斬るべき相手かどうか、確認させられてる」
カイエンが紙を懐に押し戻すと、領主は突如として大爆笑した。
「ハハハ! 大変だな、討伐隊も。……これが時代の流れか!」
領主はナプキンで口元を拭い、椅子を引いて立ち上がった。そして棚から一冊の、不気味な光沢を放つ「黒い本」を持ってくると、無造作にテーブルへ置いた。
「答えはこれだよ。こいつを闇市場に流してる。お前の言う通り、石炭じゃあ贅沢もできんからな」
「黒本党か」
カイエンの右手が、静かに剣の柄へと伸びた。
「まあ待て、そう慌てるな」
領主が制止する。
「かなり売れてるよ。おかげで俺も、もう少しで組織の幹部候補だ」
カイエンは抜いたレプリカを、威嚇するようにテーブルに置いた。
「知っているか、この剣を」
領主はその剣を一瞥し、そしてカイエンの顔を凝視した。
「ああ、知っているよ。……お前、ドラゴン族の末裔だな?」
領主の口角が吊り上がる。
「その頬の膨らみ……。いい火力を秘めていそうだな。ブレスが吐けるのか?」
「俺のことはいい。この剣の『本物』はどこにある」
「そこまでは知らんよ。俺は倉庫番じゃないんでね」
「……倉庫にあるのか?」
カイエンの問いに、領主はまた愉快そうに笑った。
「お前には敵わんな。……ローゼンバーグだ。それ以上は本当に知らんよ。あれは我々でも手が出せん」
領主が歩き出す。
「どこへ行く」
「中庭にお連れしようと思ってな。ここが汚れると困るんでね」
カイエンはレプリカを腰に収め、椅子を蹴るようにして立ち上がった。周囲には相変わらず衛兵たちが控えている。
「衛兵は連れて行かないのか」
「ふふ……あんなものは飾りだよ。飾っておくだけで、大抵の面倒事は防げるからな」
領主はにやりと、獲物を狙う蛇のような笑みを浮かべた。
「連れて行ったところで、お前を相手にするには邪魔にしかならん」
「そうか……ならいい」
カイエンは領主の背後に続き、食堂を後にした。
辿り着いたのは、高く頑丈な石壁に囲まれた、窓が少ない中庭だった。逃げ場もなければ、外からの視線も届かない。そこは、殺し合いに誂え向きの、静寂な処刑場だった。




