第三章:霊工の村、次元の扉
二メートルを超える巨躯の「動く人形」たちが、道なき峻険な山を平然と登り、四つの木箱を抱えて山奥の村へと足を踏み入れた。
村の広場に箱が置かれると、待機していた村人たちがそれを開けに寄ってきた。
「一、二、三……あれ? 確か三箱だったはずだが……」
首を傾げながら箱を開けて物資を取り出していくが、最後の一箱から、呑気な「いびき」が聞こえてきた。
「ま……まさか! 生きている人間が入っているのか!?」
箱の中で丸まって寝ていたドワーフ、バレルの姿を見て、村人たちは腰を抜かすほど驚いた。異変を聞きつけ、すぐに長老と大勢の村人が集まってきた。
「お前……外の世界から来たのか?」
「外の世界? ま、まあ……そういうことになりますかね」
寝ぼけ眼をこすりながら、バレルは適当に答えた。だが、長老の表情は深刻だった。
「この村は呪われていてな。誰も外には出られない。もちろん、外から入ってくることも叶わん。森で迷い、飢え、死ぬのが運命だ。お前、どうやってここへ?」
「どうやってって……あの人形に運ばれてきただけですよ。箱の中に隠れて」
「なんと! そのような方法が……この数百年、誰も気づかなかったというのか!」
長老は愕然とした。迷わない者——心なき人形に運ばれれば、呪いの森を突破できる。その盲点にバレルは無意識に突き当たっていたのだ。
だが、バレルの関心はすでに別のところにあった。
「いや、そんなことより長老! あの人形は凄い、最高傑作だ! 一体誰が作ったのですか?」
バレルの異常な熱量に圧倒されつつ、長老は静かに答えた。
「そりゃあ、私たちだが……そんなに珍しいかね?」
「そりゃもう! 精霊工学の頂点のひとつと言ってもいい!」
「セイレイコウガク……?」
聞き慣れぬ言葉に、村人たちは顔を見合わせた。この村には精霊術はおろか、外の世界の学問すら届いていなかった。
「精霊工学じゃなかったら、一体どういう仕組みで……? ぜひ、知りたい!」
「とは言え、あれは『霊工』の中でも最高技術。簡単には教えられんが……」
「霊工!?」
バレルの好奇心が最高点に達した。外の世界の「精霊工学」ではない、独自の体系を持つ「霊工」。バレルは前のめりになって長老に迫った。
「ぜひ、その霊工を教えていただきたい!」
「構わぬが……この村で働いてもらう。問題ないか?」
「問題ありません!」
こうしてバレルは、村の建設現場へ連れて行かれることになった。案内役の村人は渋々といった様子だったが、バレルは期待に胸を膨らませてついていった。
だが、建設予定地である広場に着いた瞬間、バレルは強烈な違和感に襲われた。
この村には、家が一軒も建っていないのだ。
「あれ……家を建てている割には、建物が見当たりませんね」
「いや、あるだろ。普通に。そこら中に」
「え? どこに?」
「なんだお前、家も見たことないのか? これだよ」
村人が指差したのは、地面からぽつんと立っている「扉のついた板」だった。家というより、ただの扉の書き割りだ。
「入ってみろ」
バレルは半信半疑のまま、その扉を開け、中へ足を踏み入れた。
「なっ……!?」
絶句した。外からはただの板に見えたその向こう側には、広い廊下、いくつもの居室、さらには二階へと続く階段まであった。窓こそないが、住むには十分すぎるほど豪華な邸宅がそこに広がっていたのだ。
一歩外に出れば、やはり薄い板一枚があるだけだ。
「広場で建ててるあの『家』が、これに!? 一体どんな空間歪曲を……!」
「面倒くせえなあ。ほら、行くぞ!」
村人の手招きに、バレルは目を輝かせた。
師匠プロメの設計した船さえも過去のものにするかもしれない、未知の「霊工」の世界。バレルは嬉々として、不思議な扉の向こう側へと吸い込まれていった。




