第四章:木神の街、箱の中の密航者
バレルは物流の要衝、プラマーグの町に降り立った。
街道にはひっきりなしに荷馬車が行き交い、港からは巨大なクレーンが唸りを上げている。魔法教会に追われる身として慎重に歩みを進めていたバレルだったが、鋼鉄の関所を越えた安心感からか、あるいはこの町の圧倒的な活気に気圧されたか、次第に広場を歩く足取りは観光客のような軽やかさを帯びていた。
だが、その足は突如として釘付けになった。
「……なんだ、あれは」
話には聞いていたが、目の前の光景は想像を絶していた。
身長は二メートルを超え、滑らかな関節を持つ巨大な木製の人形。それが五体、人間の中に混じって荷役に従事している。重さ数百キロはあろうかという木箱を、羽毛でも扱うかのように軽やかに運び、馬車の積み荷を整えていく。その動きは機械的というより、あまりに「自然」で人間臭かった。
バレルは精霊工学の技術者として、ドワーフの里でも一、二を争う天才だ。だが、物陰からどれほど観察しても、その人形たちが何を動力源とし、何によって制御されているのかがさっぱり分からなかった。
(精霊工学で『知性』を作る技術なんて、この世には存在しねえはずだ。魔剣だって死者の魂を無理やり封じ込めた歪な代物……。だが、あいつらは違う。あれは『生きている』のか?)
バレルは、現場で人形たちに指示を出していた責任者らしき男が休憩に入るのを見計らい、その後を追った。
「相席、よろしいですか?」
酒場の片隅で、バレルは男に声をかけた。
「え? ああ、いいですけど……。席なら他にも空いてますよ?」
「お邪魔でなければ、ぜひ話を伺いたいと思いまして」
バレルが丁寧にお願いすると、男は「別にいいけど」と食事を再開した。
「あの人形のことなんですが……」
「ああ、あれか。不思議だよねぇ。俺たちもよく分かってないんだ」
「よく分かってない?」
「いつからいるのか、もう誰も覚えてないんだよ。初めて町に来たとき、あいつら手紙を持ってたらしいぜ。『この人形を自由に使っていいから、帰りに食料や資材を持たせてくれ』ってな」
男の話によれば、人形たちは言葉を話さないが、一度指示すれば複雑な荷分け作業も完璧にこなし、間違いを犯さないのだという。
「食事も休憩も必要なし。怪力で器用で、おまけに頭もいい。今でもあいつらが持ってくる手紙の通りに、必要な物資を箱に詰めて持たせてやってるのさ」
男が食事を終えて去った後、バレルの中にあった「技術者としての好奇心」が、ついに限界を超えて爆発した。
(自律制御……知性。もし、これを作った奴が今もどこかにいるとしたら……。どうしても会わなきゃならねえ。こいつの作りを知らずに死ねるか!)
バレルは男が言っていた「人形たちが持ち帰る物資の集積所」へと忍び込んだ。そこには、人形たちが帰りに担いでいくための巨大な木箱が並んでいる。
「今日は三箱か……。よし、こいつを使うか」
バレルは隅に転がっていた空の巨大木箱を引きずってくると、その中へ身を滑り込ませた。内側から蓋を閉め、暗闇の中で息を潜める。
一分、一分が永遠のように感じられた。
二時間、あるいは三時間が経過した頃だろうか。
集積所の床に、カツン、カツンと、無機質だが確かなリズムを刻む足音が響き始めた。五体の影が、バレルの入った箱を含む四つの木箱を、まるで空箱でも持ち上げるかのような手際で軽々と担ぎ上げる。
揺れと共に、景色が変わる気配がした。
精霊工学の極致が導く先には、一体何が待っているのか。バレルの入った箱は人形たちの屈強な肩に揺られながら、夕闇に染まるプラマーグの町を静かに出て行った。




