第一章:炭鉱の町の不協和音
炭鉱の町は、むせ返るような熱気と活気に満ちていた。
立ち並ぶ掘立小屋、行き交う荒くれ者たち、そして絶え間なく響くつるはしの音。カイエンは砂埃にまみれた町を歩き、一軒の取引所へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい。何の御用で?」
カウンターの奥から、商売人らしい目端の利く店主が顔を上げた。
カイエンは何も言わず、腰に差したレプリカの剣を抜き放ち、カウンターの上に静かに置いた。
「この剣を知っているか?」
店主は怪訝そうな顔をしながらも、促されるまま剣を手に取った。ずっしりとした重み、そして洗練された造形。店主の目が驚きに丸くなる。
「……こいつは。見事な剣ですね」
指先で柄の意匠をなぞり、店主が尋ねる。
「この部分は、詠唱石ですか?」
「本物はな。それはレプリカだ」
カイエンの突き放すような答えに、店主は絶句した。
「こ、これが偽物……!? 冗談でしょう、相当な値打ちものですよ。これが偽物だとすれば、本物は一体どれほどの代物なんだ?」
店主がさらに詳しく調べようとした瞬間、カイエンは荒っぽくその手から剣を奪い取った。
「知らないならいい」
「えっ? 待ってください、それを譲ってくれるのではないのですか? 買い取りなら精一杯頑張らせていただきますよ!」
すがるような店主の声を、カイエンは無造作な一振りで遮った。
「あーあ、やっぱりこの町も潮時だな」
店主が吐き捨てるように呟いた言葉に、カイエンの足が止まった。
「この町に、何かあったのか?」
「……何でもありませんよ。独り言です。情報集めなら、あそこの酒場ででもしてください」
店主は急に興味を失ったように、奥の帳場へ引っ込んでしまった。
取引所を出ると、強烈な昼の光がカイエンを焼いた。
ふと、道端でトウモロコシを焼いている女性と目が合った。香ばしい匂いが鼻を突く。
「お兄さん、トウモロコシいらない? 焼きたてだよ、美味しいよ」
「酒場はどっちだ」
カイエンが短く尋ねると、女性はつまらなそうに肩をすくめた。
「なんだ、買ってくれないの? 酒場はあっちの路地を曲がった先よ」
教えられた通り、薄暗い路地を進む。
重い扉を押し開けると、安酒と煙草の匂いが混じり合った濃密な空気がカイエンを包んだ。
「いらっしゃい」
カウンターの主人が、手元のグラスを拭きながら声をかけてくる。カイエンは無言でスツールに腰を下ろした。
「何がいいですか?」
「あるやつでいい」
主人が琥珀色の液体を注いだグラスを差し出す。カイエンはそれを一気にあおり、喉を焼く刺激と共に空にした。主人が無言で二杯目を注ぐ。
カイエンは再び、あのレプリカをカウンターに横たえた。
「この剣に見覚えはないか?」
主人は一瞬だけ剣に目を落としたが、すぐに視線を逸らした。
「見たことねえな。……あんた、何者なんだい?」
「魔法教会から来た」
その言葉が出た瞬間、主人の顔から血の気が引いた。拭いていたグラスを取り落としそうになり、店内の喧騒がわずかに静まる。
その沈黙を破ったのは、カウンターの奥から響いた声だった。
「監査の方……ですよね? お待ちしておりました」
一人の男が立ち上がり、カイエンに近づいてきた。その目は期待と焦燥に揺れている。
「こちらに来ていただけませんか。話しにくいこともありますので」
「監査?」
聞き慣れぬ言葉にカイエンが眉をひそめる。だが、男は構わずカイエンの腕を取り、ぐいぐいと奥へ促した。
「ささ、こちらへ。一刻を争うのです」
「おいおい、酒代は置いてけよ!」
主人の叫び声に応じ、カイエンは数枚の硬貨をカウンターに叩きつけるように置いた。
事態が飲み込めぬまま、カイエンは男に連れられ、裏口から酒場の外へと連れ出されていった。




