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ブラック ブック  作者: さだきち
空虚なる琥珀の残影

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第四章:旧倉庫街、影と影の休戦符


ポルタの町に辿り着いたカイエンは、獣のような執念でレイドールの影を追った。だが、どれほど町中をくまなく探しても、あの気品に満ちた魔物の姿は見つからない。


「……あっちだ。南に古い倉庫街がある」

酒場の片隅で得たわずかな情報を頼りに、カイエンは町の南端へと足を向けた。


やがて、大きく開け放たれたままの検問所が見えてきた。その傍らには、無残にも全裸のまま転がされた遺体が散乱している。

カイエンは嫌な予感を覚え、革袋から魔法教会の書状を取り出した。

「ポルタの南、検問所……。こいつら、黒本党か」

天を仰ぎ、カイエンは短く吐き捨てた。


レイドールは黒本党の幹部だ。検問所が既に手の内に落ちているのなら、幹部自ら足を運ぶ必要はない。部下たちに「生命のしずく」を捜索させていたのだろうが――。

「全滅している。討伐隊が来たのか?」

カイエンは周囲を観察したが、違和感を覚えた。死体のそばに、魔法教会が推奨する「黒本を焼いた形跡」が見当たらないのだ。


念のため詰め所を調べると、無造作に放り出された未焼却の黒本が五冊見つかった。

「黒本五冊に、死体が五体。経験上、この規模の魔物は相当な強さのはずだ」

それを黒本ごと焼きもせず、放置して立ち去る。これは討伐隊の仕事ではない。誰がやったにせよ、魔物の特性を知り尽くした、あるいはそれを凌駕するほどの手練れであることは間違いなかった。


カイエンは黒本をすべて焼いて灰にすると、警戒を強めて旧倉庫街へと足を踏み入れた。

かつては栄華を誇った物流の拠点も、今は潮風にさらされたもぬけの殻だ。しかし、領主がわざわざ封鎖を命じている以上、そこには他人に知られたくない「何か」――未処分の貴金属や、禁忌の資源が眠っている可能性が高い。


重苦しい静寂の中、しばらく歩いていたカイエンの目に、不釣り合いな光景が飛び込んできた。

錆びついた倉庫の前に、場違いなほど鮮やかな「赤い馬車」が停まっている。


カイエンは音を殺し、半開きの扉から倉庫の中へと潜り込んだ。上の階から微かな物音が聞こえる。銃の安全装置を外し、暗闇の中をゆっくりと音のする方へ進んでいった、その時だ。


「おやおや……お客さんかい?」


背後から、凛とした女の声が響いた。

カイエンは総毛立った。接近に全く気づかなかった。過酷な修行を経て、死線を潜り抜けてきた自分の背後を、これほど容易く取れる人間がこの世にいるのか。


振り返ると、そこには真っ赤なドレスを纏った貴婦人と、彼女を護衛する二人の巨漢が立っていた。

「お前も探し物か?」

大きな斧を担いだ男、バルドが一歩前に出てカイエンを睨みつける。

カイエンは警戒を解かぬまま、低く応じた。

「ああ。『生命のしずく』……ってやつを知ってるか」


「ええ、知っているわ。でも、まだ見つかっていないの。ここは広すぎるから」

赤いドレスの女――イゾルデが、扇で口元を隠しながら優雅に答えた。

「そうか……。なら、一旦ここは協力して探すか?」


カイエンの提案に、イゾルデは意外そうに目を細めた。一触即発の空気だったが、彼女はすぐに艶やかな微笑を浮かべる。

「そうね。この暗闇で殺し合いをするよりは建設的だわ。一時的に協力しましょう」


奇妙な四人組が誕生した。

魔法教会の執行者と、ヴェネリア王国の精鋭。互いの素性も目的も深い霧の中にあるまま、彼らは「アンテ・ロームの紋章」を求めて、広大な倉庫の暗闇へと消えていった。


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