第二章:検問所の静寂、剥がれ落ちた皮膜
ポルタの町から南へ数分。旧倉庫街へと続く古い石橋の袂に、その検問所はあった。
平和な物流の拠点だったはずのその場所に、四人の男女が足を踏み入れる。
「ねえ、本当にここで合ってるの?」
背中に弓を背負ったアーチャーの女性が、不安げに周囲を見渡した。
「……ああ。魔法教会の書状にはここだと記されている。間違いはないはずだ」
先頭を行く戦士の男が、羊皮紙を広げながら答える。
「よし、とりあえずあの小屋でもぶっ壊してみるか。誰か出てくるだろ?」
もう一人の戦士が、物騒な提案を口にした。
「あんた何言ってんのよ」
魔法使いの女性が呆れたように溜息をついたが、直後にその口角を吊り上げた。
「でも、面白いわね。やってみましょう。……ギガファイア!」
轟音と共に、検問所の脇にあった掘立小屋が爆炎に包まれた。
その爆音に誘われるように、詰め所の奥から五人の男女が姿を現した。鎧を着た三人の男と、二人の女。だが、その姿はどこか異様だった。
全裸の上に、必要最低限の金属の兜、胸当て、そして脛当てを無造作に装着している。
「あら。ネズミが来たようね」
「面倒くせえな。行ってみるか」
現れた五人を見たアーチャーの女性が、戦慄したように呟く。
「……あれは、間違いないわね」
「我々は魔法教会から来た討伐隊だ! 貴様ら、情報提供にご協力願おうか!」
戦士が毅然として書状を突きつけたが、その声が届くことはなかった。
五人の肌が、波打つようにどす黒く変色していく。身につけていた中途半端な鎧や脛当てが、肉体の膨張に耐えきれずバラバラと地面に剥がれ落ちた。
瞬時にして、五人は禍々しい姿の「黒本党」の魔物へと変貌を遂げた。
「……惜しいなあ。脱いでから変われよ、勿体ねえ」
戦士が軽口を叩いたが、それが彼の最後の冗談となった。
「バーカ。さあ、やるわよ!」
アーチャーが弓を引き絞る。だが、魔物たちはその矢を嘲笑うような速度でかわし、四方に散らばった。
「来るぞ! 構えろ!」
戦士二人が魔物の鋭い爪を剣で受け止め、火花が散る。しかし、魔物の暴力的な力は人間を遥かに凌駕していた。
男女二体の魔物が、同時にアーチャーの女性を急襲する。
「くっ……!」
弓を捨て、短剣を抜いて応戦しようとした彼女だったが、その背後に回り込んだ別の魔物の爪が、無慈悲に彼女の背中を貫いた。
「ぎゃああああっ!」
心臓を抉られたアーチャーが崩れ落ちる。
同時に、一人の女の魔物が耳を劈くような高周波の絶叫を放った。
「いやああああっ!」
その音に脳を揺さぶられた魔法使いの女性が、耳を押さえてうずくまる。抵抗できない彼女の腹と頭部に、容赦なく爪が突き立てられた。
「あ……」
魔法使いが音もなく息絶えるのを見て、残された戦士たちの顔が絶望に染まった。
五体の魔物に包囲され、懸命に剣を振るう二人。だが、次第に手足の腱を切り刻まれ、動きが鈍っていく。
一人が喉元を深く抉られ、最後の一人は胸と背中を同時に貫かれた。
「……ふう。やれやれ」
静寂が戻った検問所に、死体が四つ転がっている。
五体の魔物は、先ほど弾け飛んだ自分の鎧を一つずつ拾い上げ、慣れた手つきで再び身に付け始めた。
「またこれ、片付けるの? 面倒ねぇ」
女の魔物が不満げに鼻を鳴らす。
「じゃあ、俺らがここをやっとくから、お前らは倉庫の方へ行くか?」
「え? 倉庫?」
「さっきレイドール様から書簡が届いた。あの倉庫に『生命のしずく』ってやつがあるらしいぜ」
「倉庫を見てこいって? ……まあ、そういうことなら」
一人の魔物が死体を引きずろうとした時、鎧を着た女の魔物がふと耳を澄ませた。
「あ、ちょっと待って……また誰かここに来そうよ」
「ちっ……。もう、面倒くせえな」
彼らは吐き捨てるように言うと、四体の新鮮な死体を慌ただしく検問所の中へと運び込み、何事もなかったかのように再び門を閉ざした。




