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ブラック ブック  作者: さだきち
空虚なる琥珀の残影

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第一章:追跡の銃弾と緑の託宣


ローズタウンから始まった追跡行。カイエンは各地でレプリカの剣を見せ、エルムの足取りを追った。突如として現れた切り裂き魔が自害したという街にも辿り着いたが、そこにあったのは乾いた血痕と、数日前に少年が去ったという事実だけだった。


完全に手がかりを失ったカイエンは、一旦、魔法教会の連絡所がある町に立ち寄った。旧友のバレルから送られてくる物資を受け取り、同時に彼を通じて届く教会の指令を確認するためだ。

新たな標的は、黒本党の一派。カイエンは迷わず次の街へと足を踏み出した。


街道を歩くカイエンの視界に、珍しい一団が飛び込んできた。

旅行者に扮した貴族風の出で立ち。しかし、その身に纏う「気配」は人間のものではない。黒本党の幹部、レイドール率いる魔物の軍団だ。


「たまにはこちらから仕掛けてやる」

カイエンは義手の仕掛けを解き、躊躇なく引き金を引いた。


ドオン!


隊列の先頭を歩いていた男の頭部が、柘榴のように弾け飛んだ。

返り血を浴びても動じず、シックで上質な外套を羽織ったレイドールがゆっくりとカイエンを振り返る。その目は冷酷な光を湛えていたが、意外なことに彼は一瞥をくれただけで、部下たちに短く指示を出した。


「……逃げるだと?」

意表を突かれたカイエンの喉が鳴った。自分の首を狙っているはずの男が、交戦もせずに背を向けて走り出したのだ。

黒本党の幹部は貴重な情報源だ。カイエンは全速力でその後を追った。


しかし、彼らの動きは人間離れしていた。機能的に作られた衣服を翻し、地を滑るような素早さで距離を引き離していく。

「ちくしょう、速すぎる……!」

必死についていったが、深い森の入り口でついにその影を見失ってしまった。


苛立ちを抱えたまま、カイエンは夜道を歩き続けた。やがて前方に見えてきたのは、街の微かな灯り。腹を満たし、情報を整理するため、彼は一軒の酒場に飛び込んだ。


「何か適当に作ってくれ」

主人の勧めるまま、強い酒で喉を焼く。運ばれてきた料理をがっつきながら、店主にレプリカの剣を見せ、エルムの話を振ってみたが、やはり収穫はない。

だが、主人がふと思い出したように口を開いた。

「……そういや、さっき見慣れない男たちを見たな」

「どんな奴らだ」

「上等な格好をした観光客、ってとこかな。少し浮いてたぜ」


カイエンは食いかけのパンを皿に戻し、身を乗り出した。

「そいつらはどこへ行った!」

「ん? 確か、店を出て右に行ったところにある占い師の館に入っていったはずだが。緑の看板が目印だ」


カイエンは代金をカウンターに叩きつけ、酒場を飛び出した。

夜霧の中に浮かぶ緑の看板。扉を押し開けると、中には重苦しい香の煙が漂っていた。奥に座る占い師に、カイエンは鋭い声を浴びせる。

「先刻、ここへ来た男たちが何か言っていなかったか?」


占い師は品定めするような昏い目つきで、カイエンをじっと見つめた。

「……そうだな。『生命のしずく』について聞いていったよ」

「生命のしずく? 何だ、それは」

その言葉自体には聞き覚えがなかったが、カイエンの直感は何らかの重大な価値を察知した。

「私には、それが何であるかはわからぬ。だが、それが『ある場所』なら占える」


占い師がそっと手を差し出してきた。カイエンは無言で数枚の金貨をその掌に載せる。

「……まあ、いいだろう」

占い師は金貨の重さを確かめ、低く呟いた。

「場所はポルタという町だ。ここから西へ行ったところにある。その男たちにも、同じことを教えたよ」


「……助かった」

カイエンはそれだけ言うと、館を後にした。

レイドール、そして魔物たちが求めている「生命のしずく」。それが何であれ、彼らの手に渡すわけにはいかない。


カイエンは夜の街道を、西の空へ向かって力強く歩き始めた。


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