表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック ブック  作者: さだきち
炭鉱の町と虚飾の領主

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/31

序章:鋼鉄の残響


街の連絡所に漂う空気は、重苦しく淀んでいた。

張り出された「黒本党」の賞金首リストを眺める行列の中に、その男はいた。短髪の頭に黒い布を巻き、右目には漆黒の眼帯。周囲の喧騒を拒絶するかのような静寂を纏ったその男、カイエンの名が窓口から呼ばれた。


「カイエンさん、報酬の受け取りですね」


事務的な声に応じ、カイエンは窓口へ向かう。差し出された報酬の革袋が3つ、カウンターに置かれた。そのうちの一つがわずかに傾き、一発の銃弾がこぼれ落ちて、乾いた音を立てて転がった。


「お……落ちましたよ?」


後ろに並んでいた男が、弾丸の放つ奇妙な熱量に気圧されながらも、恐る恐るそれを拾い上げカイエンに手渡した。

カイエンは感情の読めない瞳でそれを受け取ると、

「どうも」

と短く一言だけ残し、背を向けた。その足取りには、目的を失わぬ者特有の迷いのなさが宿っていた。


---


馬車の発着所には、炭鉱へと向かう屈強な男たちが集まっていた。

「早く乗れ! 時間がねえんだ!」

御者の怒鳴り声に促され、カイエンを含めた4人の男たちが狭い車内へと乗り込む。揺れる馬車の中、男たちは互いに口を利くこともなく、ただ自身のつるはしや荷物を握りしめていた。


その静寂を破ったのは、唐突な衝撃だった。

凄まじい轟音と共に馬車が大きく横転する。カイエン以外の男たちは無様に外へと放り出された。


「ひいいいっ!」


一人の男が悲鳴を上げ、倒れた馬車の傍らを見た。そこには、喉元を一本の矢で貫かれた御者の死体が転がっていた。

男が反射的に走り出した瞬間、どこからか冷徹な指示が飛ぶ。


「逃がすな」


放たれた矢は正確に男の背中を捉え、その命を地面へと縫い付けた。

現れたのは3人組の強盗だった。残された2人の炭鉱夫がつるはしを構え、死に物狂いで反撃を試みる。だが、リーダー格の男は鼻で笑うと、流れるような剣さばきでつるはしの一撃を弾き、一呼吸のうちに二人の胸を切り裂いた。


「けっ、惨めなもんだな」


リーダーが顎で倒れた馬車を指す。

「おい、ほろの中を見てこい。まだ鼠が潜んでいるようだ」


手下の一人が剣を構え、もぞもぞと動く幌に顔を近づけた。

その時だった。


ズドン!


爆発的な音と共に、幌を突き破って鋭利な剣先が飛び出した。

「がっ……!?」

回避する間もなかった。剣先は手下の顔面を真っ向から貫き、男は叫ぶ暇もなく絶命した。


「何だぁっ!?」


もう一人の手下が弓を捨て、抜刀する。

引き裂かれた幌の中から、黒い眼帯の男――カイエンが、低く這い出るようにして姿を現した。


「野郎、死ねえ!」


男がまだ立ち上がりきっていないカイエンに斬りかかる。

だが、その白刃を受け止めたのは剣ではなかった。鈍い金属音を立てて、鋼鉄の義手が男の剣をガシッと掴み取ったのである。


義手の隙間から、リボルバーのような回転機構が覗く。

「な、何だこの腕は……!」

男が戦慄に顔を歪めた瞬間、カイエンは義手に込めた力で剣を乱暴に突き放した。バランスを崩し、無防備に晒された男の胴体。

カイエンの振るった刃が、鮮やかな一文字を空に描く。男は音もなく崩れ落ち、赤黒い液体が乾いた土に吸い込まれていった。


残されたのはリーダー格の男一人。彼は、部下が瞬時に屠られた光景に呆然と立ち尽くしていた。

カイエンは静かに、一歩ずつ歩み寄る。そして、右手に握ったレプリカの剣を男の鼻先に突きつけた。


「お前……この剣に見覚えがあるか?」


その声は低く、地を這うような冷たさを帯びていた。

リーダーの男は恐怖を塗りつぶすように怒声を上げた。

「知るかよ、そんななまくら! くたばれっ!」


死に物狂いの横なぎ。

だが、カイエンはそれを見ることさえせず、最小限の動きで弾き飛ばした。

直後、銀光が走る。

リーダーの首は、自分が何をされたのか理解する間もなく、宙を舞った。


静寂が戻った荒野。

カイエンは遠く、地平線に滲む街の灯りを見つめた。

「街は向こうか……」


倒れた馬車の残骸から、自身の報酬が入った革袋を回収する。

鋼鉄の指で革袋を握り直し、カイエンは再び、たった一人の旅路へと歩みを進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ