【京山緑】夢の中で
初めて見たときは、「あ、普通の人だな」って思った。
背は高いし、顔だって悪くない。けど、それだけ。特に目立つわけじゃないし、華があるタイプでもない。
なのに、なぜか話しかけやすそうな空気だけはあった。別に優しそうとか、柔らかそうって感じじゃないんだけど。なんとなく。
自己紹介が終わった後、周りの反応を見てすぐに気づいた。
――ああ、この人、たぶん住む世界が違うんだって。
苦労を知らない感じ。いや、実際は違うのかもしれないけど、そう見えた。
品があるっていうか、余裕があるっていうか……なんだか、私の知らない“普通の幸せ”を全部持ってる人みたいだった。
この人は、ここから出たってきっと何も変わらないんだろうな。どこにいても、何をしてても、ちゃんと生きていけるんだろうなって。
それがちょっと、うらやましくて。
ちょっと、ずるいなって思った。
芸能人も知らない優介が、芹香ちゃんと話したいなんて言ったときは、ちょっと驚いた。
……あ、そういう子がタイプなんだ、って。
なんか意外。別に、芹香ちゃんが悪いってわけじゃない。むしろいい子そうだし、可愛いし、誰かが気になるのもわかるけど……でも、あんなわかりやすく近づく?
もしかして胸が大きいから? それならそれで、なんか呑気だなぁって思った。いや、別に嫉妬してるわけじゃない。私はこれからだし。うん、これからなんだから。
でも、あのときのリバーシは楽しかったな。
ルールは簡単だし、ずっと前にテレビで見たリバーシチャンピオンの打ち方を真似して、ずっと1人で頭の中で回して遊んでたこと、思い出した。あの頃は、それぐらいしか楽しみがなかったし。できることもなかった。
それで、実物のリバーシが目の前にあって、ちょっとだけ、感動した。
芹香ちゃんと遊んでたけど、誰かと遊ぶのって楽しんだな、って思った。
私が芹香ちゃんに連勝して優介の番になって、「仇討ちだ」なんて言って。
で、負けた。
は? ってなった。え、こども相手に本気出す? 私だって初心者なんだけど。大人げないにもほどがあるでしょ。
しかもすごいドヤ顔で。なんか……ちょっと、腹が立った。
だから、誰か告げ口してやろうって思って、小江さんに言ったら案の定やり込められてて──あれは、ちょっとスッキリしたな。
そう。そして…
優介との関係が大きく変わったのは、あの時だ。
「殺したのお前か?」
バレてない自信はあった。
子供の見た目って便利で、疑われることなんてまずない。
それなのに優介は確信めいた目で言い当てた。
この人なんなんだろう?
「俺と組まないか?」
ますますわけがわからない。
心が読めるとか変なことを言い出した挙句、
小江さんの事を探ってこいとか言う。
殺人を見抜かれた手前断るわけにもいかず引き受けたけど、そのあとのハイタッチには思わず呆れた。
……けど、なんかちょっとだけ――ワクワクした。
そこから先、優介との密談が始まった。
素の自分をさらけ出せるのは、結構心地よかった。
今思うとさ、私が演技してたのなんて、最初からバレてたんだろうなって思う。
……でね、芹香ちゃんを助けてくれた、あの時。
あれで、初めて優介のこと、本当にすごいって思った。
お腹すくって、ほんとに辛いんだよ。
私、昔のことを思い出して、もうダメだった。
芹香ちゃんまであんな目に遭うなんて……って思ったら、止まらなくなって。
気づいたら、優介に「助けて」って言ってた。
そしたらさ、優介、すっごく普通の顔して「任せとけ」って。
あの男、何の迷いもなくボッコボコにしてくれた。
たぶん、私が頼まなくたって、優介なら助けてたと思う。
でも――その時、胸の奥がざわついたんだよね。
芹香ちゃんが助かってホッとしたし、頼みを聞いてくれて嬉しかったのに、なんだか苦しくて、ちょっとだけ悔しくて。
自分でも、どうしてそんな気持ちになったのか、すぐにはわからなかった。
でも、小江さんを助けようとしてる優介を見てて、ようやく気づいた。
――私も、本当は助けてほしかったんだ。
自分でやってきたことを、間違いだったとは思ってない。
だけど、ずっと、誰かに手を伸ばしてほしいって、心のどこかで思ってたんだと思う。
もし、優介があの頃そばにいてくれたなら、きっと助けてくれてた。
なんでもっと早く会えなかったんだろう……って、そんなことを思った。
その時の優介の姿が、あまりも鮮烈で、眩しくて。
どうしようもなく目が離せなくて。
心の中で弾けそうな衝動を抑えきれなくて。
鼓動が頭の中に鳴り響いて。
そして――
ずっと一緒にいたい、って。自然に、でも強烈に、そう思った。




