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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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VS長月紅葉(決着)

【称号】

二条院優介:身体強化魔法の使い手

京山緑:狙われた幼女 

真田一馬:略奪者 

長月紅葉:護衛騎士 

「……あなた、何者なの?」


 紅葉がたまらず、息を詰めたように問いかける。

 さっきまでとは真逆の展開に、わずかに焦りの色が滲んでいた。


 優介は、肩越しにちらりと視線を寄越す。


「大した者でもないさ。ちょっと格闘技をかじっただけの、一般人だよ」


 皮肉たっぷりの口ぶりだったが、紅葉にとってはタチの悪い冗談でしかなかった。

 すでに幾度も紅葉の防御を破り、確実にダメージを蓄積させている。

 一方で、紅葉の攻撃は一度も優介に届いていない。


「……そんな一般人がいたら商売上がったりなのだけど。」


 紅葉の声に、わずかな苛立ちが混じる。


 優介は静かに、しかし冷ややかに言い放つ。


「文句があるなら、クライアントに言ってくれ。

 ――俺の大事な存在に手を出さなければ、こんなことにはならなかったんだ」



 紅葉は呆けたように戦いを見つめる真田をちらりと見やり、苛立たしげに前髪をかき上げた。


「……さあ、決着をつけるぞ。」


 低く、静かな決意の声。

 次の瞬間――紅葉の空気が変わった。


 呼吸をひとつ沈め、重心がわずかに傾く。

 全身の筋肉が一斉に張り詰め、まるで弓を引き絞るように、しなやかな緊張を帯びていく。


 一歩。

 それは踏み込みというより、獣が距離を喰らうための跳躍だった。

 無駄のない動線、最短距離。

 視線は一点を射抜き、体ごと一直線に、優介の急所を貫く軌道を描く。


 ――本気だった。迷いも加減も一切ない。

 あらゆる感情を排した、純粋な殺意と技術の塊。

 任務のために、確実に仕留めるつもりの、戦場に生きる者の動きだった。


 だが――


「ようやく護衛を忘れたな。」


 優介は、それをまるで最初から知っていたかのように、半歩、静かに身を引いた。

 その動きには焦りも防御の意思もない。ただ、そこに攻撃が届くことを最初から否定するような自然さ。


 そしてそのまま、真田の方へと一気に距離を詰める。


「っ!?」


 反応する暇もなく、真田の手にあったスタンガンを、優介は正確に蹴り上げた。

 弧を描いて宙を舞うスタンガン。紅葉も真田も、呆然と見上げるしかなかった。


 優介は、最初から紅葉の護衛の意識を逸らさせることが目的だった。


 宙を舞うスタンガンを片手でキャッチし、そのまま真田の胸を蹴り上げて紅葉の方へと吹き飛ばす。

 紅葉は咄嗟に身を翻して真田の衝突を受け流した――が、その真田の影から、優介がすでに迫っていた。


「――!」


 回避が間に合わない。

 紅葉の身体に、容赦のない電撃が叩き込まれた。


「……ッああっ!」


 紅葉が短く叫び、膝をつく。

 もう、疑いようもなかった。勝敗は、完全に決していた。


 優介は、わずかに息を吐いて言った。


「さすがだな。意識はあるか」


「……訓練……してたからね。でも……麻痺は取れないわ」


 紅葉は歯を食いしばり、なおも立とうとしたが、脚が言うことを聞かない。


 優介は冷たい声で言い放つ。


「俺は今から、こいつに危害を加える。――お前の護衛任務は、失敗だ」


「……そう、ね」


 紅葉は静かに目を伏せる。


「今のうちに報酬を返して、契約解除した方がいいんじゃないか?今までの分は、タダ働きになるけどな」


 紅葉は、苦笑にも似た吐息をもらした。


「失敗して、命があるだけでもありがたいわ。……そうする」


 一拍の沈黙。

 その場にいた誰よりも状況を理解していない男が、ようやく言葉を発した。


「お、おい、紅葉……! なに言って――おいっ!」


 真田が半歩前に出ようとしたその瞬間、

 優介は無言のままスタンガンを構えた。軽く一振り、警告のように空を裂く。


「紅葉は契約を解除するそうだが……次は、お前が相手するか?」


「ヒィッ……や、やめろ! やめてくれ! お、俺は何も、ただ、言われただけで、そんなつもりじゃ……!」


 言い訳にもならない声で、真田が崩れ落ちる。足元がもつれて転げるように後退した。


 その哀れな姿に、優介は一切の情を見せず、ただ冷たく言い放った。


「ふざけるな」


 言葉は淡々としていた。

 けれど、その声音には氷のような殺気が滲んでいた。


「よくも緑を泣かせたな。」


 言い終えると同時に、優介は真田の髪を乱暴に掴み上げる。

 悲鳴すら上げきれないまま、無様に顔を引きつらせる真田の額に、スタンガンの先端が突きつけられる。


 次の瞬間、乾いた音とともに、紫電が弾けた。


 ビクリと全身を跳ねさせた真田の目が、白く反転する。

 膝から崩れ落ち、その体は地面に沈むように倒れ込んだ。


 口元には泡が滲み、四肢は痙攣しながらも、すぐにピクリとも動かなくなる。


 気絶。完全に意識を手放していた。


 優介は無言のまま、スタンガンを一度見下ろしてから、それを手の中で静かに下ろした。


「殺さないの?」


 紅葉が、低く尋ねる。


「ああ。……緑に顔向けできなくなるからな」


 それだけ言って、紅葉の方へ一歩近づく。


「ひとつだけ、聞かせてくれ。武器は持ってなかったのか?」


「ないわ。私が開けた箱に入ってたのは、白金貨の入手方法と、全員の白金貨の情報よ」


「……それを、真田に共有したのか?」


「してない。どこからか情報手に入れたみたいね」


 それを聞いて優介は一息つく。

 視線の先には、まだ床に倒れたままの少女がいた。

 その小さな体は震えていて、今にも壊れてしまいそうに見えた。


 優介は、迷わず彼女に歩み寄る。


 そっと膝をつき、倒れている緑の身体を両腕で抱きかかえる。

 痩せた体は驚くほど軽く、けれどその重みに、彼は現実を強く感じた。


「……ごめんな、遅くなった」


 声はかすれていた。

 けれど緑は、微かに笑って頷いた。


 そのまま、優介は緑を胸に抱え直し、ゆっくりと立ち上がった。

 緑の体はほとんど力が入っておらず、腕の中で静かに息をしているだけだった。


「ふふ……」


「どうした?」


「“よくも緑を泣かせたな”って――どの口が言ってるのかと思ったのよ」


「……そのわりには、嬉しそうじゃないか」


「嬉しかったもの」


「……そうか」


「ねぇ……優介」 


「なんだ」


「“大事な存在”って、もう一回言って」


「……もう言わない」


「なんでよ、ケチ」


「……忘れないんだから。一度言えば、十分だろ」


「そういう問題じゃないの。女心、わかってないでしょ?」


「うるさい」


 部屋の扉が静かに閉じられる。

 優介はそのまま緑をベッドまで運び、ゆっくりと寝かせた。


 ぬいぐるみを抱きしめたままのその腕をそっと直し、毛布をかける。


「……お疲れさま」


 言葉に応える声はなかった。けれど、緑の表情はどこか穏やかで、夢の中にいるようだった。


 優介は、一度だけその頭を撫でてから、そっと背を向ける。


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真田一馬:因果応報 ← NEW

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