表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/66

憧れと決意

【称号】

二条院優介:託す者

京山緑:託された者

 コンコン、と控えめなノックの音。


 優介が顔を上げるより早く、扉がわずかに開いて、緑が顔を覗かせた。


「入るわよ」


 断りというより確認に近い口調だった。緑は躊躇なく部屋に入り、ベッドの芹香と優介の距離感を一瞥する。


「……上手くできたみたいね」


「まあな。今は深く入ってる。完全に催眠中だ」


 優介が立ち上がり、ベッドから半歩ほど距離を取る。その態度に、緑はふうん、と気の抜けた声を漏らしてから、わざとらしく片眉を上げた。


「一応、聞くけど。芹香ちゃんに変なことしてないでしょうね?」


「催眠かけたからって、変なことなんてできないって前も言っただろ」


「本人が望んでないことは、って言ってたわよ。じゃあ……芹香ちゃんが望んでたら? それでもできないのかしら?」


「それはっ……で、できる……かもしれないけど……」


 その言葉に、優介は不意を突かれたように口をつぐむ。少しして、目を逸らしながらぼそりと返した。


「はい、ギルティ」


 ぴしり、と指を立てる仕草とともに、緑が断罪の言葉を告げる。


「やめろやめろ! ギルティじゃねぇよ! なんで俺が悪いことしたみたいな感じになってんだ……!」


 慌てて手を振る優介を見て、緑はくすっと笑った。だが、その瞳の奥には、ふと憂いのような影が差した。


「実際そうでしょ。これ、思い出したら芹香ちゃん泣くわよ?」


「……」


 優介は返す言葉を失い、視線を逸らすしかなかった。



「ゆみさんの方はどうだったんだ?」


「左の半貨よ。私たちと同じ。……とりあえず、元の場所に戻しておいたわ」


「そうか……」


 沈黙が流れる。部屋に満ちる静かな照明が、かえって二人の思考を際立たせた。


「さて、これからどうするか、ね」


「……そうだな」


 緑が、まっすぐに優介を見つめた。その瞳は、子どもらしさを一切消し去った冷たい光を湛えている。


「優介、正直に答えて。誰かを犠牲にしてでも、脱出する気はある?」


「……」


 しばらくの沈黙の後――


「私は、あるわ」


 言い切った緑の声は、いつになく静かで、しかし鋭利だった。


「トリアージって言ったわよね? 私の優先順位は、私と優介。……これ以上は、私の手に余る」


 それは、はっきりとした宣言だった。

 他の命を切り捨てる覚悟。犠牲の上に、自分たち二人を乗せるという決意。


「それ以外の人は……私の敵よ。」


 優介は、まっすぐ緑の目を見返す。何も誤魔化せないその視線の中に、揺らぎはなかった。


 一瞬の静寂のあと、優介はふっと小さく笑った。


「優秀な……後輩だな」


「……当然でしょ」


 その声には、わずかな誇らしさと、どうしようもない寂しさが混ざっていた。


「私が……やるわ。優介は、何も心配しないで待ってて」


 そう言いながら、緑はぬいぐるみの首根っこを軽く抱き直す。

 その瞳には、もはや迷いはなかった。ただ、恐ろしいほどに澄んだ覚悟だけが宿っていた。


「そういうわけにはいかない」


「いいの。私のわがままだもの」


「正直……優介は甘いと思うわ。自己犠牲だなんて、本当にバカみたい。そんなこと、私にはできない」


 一度だけ目を伏せてから、緑はまっすぐ彼を見た。

 その声は、どこまでも静かで、どこまでも強かった。


「だからこそ――優介は、私の憧れのままでいて」

【獲得称号】

二条院優介:ギルティ ← NEW

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ