憧れと決意
【称号】
二条院優介:託す者
京山緑:託された者
コンコン、と控えめなノックの音。
優介が顔を上げるより早く、扉がわずかに開いて、緑が顔を覗かせた。
「入るわよ」
断りというより確認に近い口調だった。緑は躊躇なく部屋に入り、ベッドの芹香と優介の距離感を一瞥する。
「……上手くできたみたいね」
「まあな。今は深く入ってる。完全に催眠中だ」
優介が立ち上がり、ベッドから半歩ほど距離を取る。その態度に、緑はふうん、と気の抜けた声を漏らしてから、わざとらしく片眉を上げた。
「一応、聞くけど。芹香ちゃんに変なことしてないでしょうね?」
「催眠かけたからって、変なことなんてできないって前も言っただろ」
「本人が望んでないことは、って言ってたわよ。じゃあ……芹香ちゃんが望んでたら? それでもできないのかしら?」
「それはっ……で、できる……かもしれないけど……」
その言葉に、優介は不意を突かれたように口をつぐむ。少しして、目を逸らしながらぼそりと返した。
「はい、ギルティ」
ぴしり、と指を立てる仕草とともに、緑が断罪の言葉を告げる。
「やめろやめろ! ギルティじゃねぇよ! なんで俺が悪いことしたみたいな感じになってんだ……!」
慌てて手を振る優介を見て、緑はくすっと笑った。だが、その瞳の奥には、ふと憂いのような影が差した。
「実際そうでしょ。これ、思い出したら芹香ちゃん泣くわよ?」
「……」
優介は返す言葉を失い、視線を逸らすしかなかった。
「ゆみさんの方はどうだったんだ?」
「左の半貨よ。私たちと同じ。……とりあえず、元の場所に戻しておいたわ」
「そうか……」
沈黙が流れる。部屋に満ちる静かな照明が、かえって二人の思考を際立たせた。
「さて、これからどうするか、ね」
「……そうだな」
緑が、まっすぐに優介を見つめた。その瞳は、子どもらしさを一切消し去った冷たい光を湛えている。
「優介、正直に答えて。誰かを犠牲にしてでも、脱出する気はある?」
「……」
しばらくの沈黙の後――
「私は、あるわ」
言い切った緑の声は、いつになく静かで、しかし鋭利だった。
「トリアージって言ったわよね? 私の優先順位は、私と優介。……これ以上は、私の手に余る」
それは、はっきりとした宣言だった。
他の命を切り捨てる覚悟。犠牲の上に、自分たち二人を乗せるという決意。
「それ以外の人は……私の敵よ。」
優介は、まっすぐ緑の目を見返す。何も誤魔化せないその視線の中に、揺らぎはなかった。
一瞬の静寂のあと、優介はふっと小さく笑った。
「優秀な……後輩だな」
「……当然でしょ」
その声には、わずかな誇らしさと、どうしようもない寂しさが混ざっていた。
「私が……やるわ。優介は、何も心配しないで待ってて」
そう言いながら、緑はぬいぐるみの首根っこを軽く抱き直す。
その瞳には、もはや迷いはなかった。ただ、恐ろしいほどに澄んだ覚悟だけが宿っていた。
「そういうわけにはいかない」
「いいの。私のわがままだもの」
「正直……優介は甘いと思うわ。自己犠牲だなんて、本当にバカみたい。そんなこと、私にはできない」
一度だけ目を伏せてから、緑はまっすぐ彼を見た。
その声は、どこまでも静かで、どこまでも強かった。
「だからこそ――優介は、私の憧れのままでいて」
【獲得称号】
二条院優介:ギルティ ← NEW




