白金の選択
【称号】
二条院優介:医学とは
京山緑:探索マニア
緑の部屋の金庫にも、まったく同じ仕掛けがあった。
優介と同じように、奥の壁の一部に質感の異なる小さな扉。その表面に指を添えると――「ピッ」と電子音が鳴り、カチリという解錠音とともにスライドして開く。
中には、透明のケースに収められた“半貨”がひとつ。形状は優介のと同じ、左半分の白金貨だった。
「……これ、良いことなのかしらね?」
緑が、微妙な顔でつぶやく。
「さあな。ただ、少なくとも――どちらかが譲って一枚を完成させるって手段は潰えたな」
白金貨──二つの半貨がぴたりと合わさったそれを、優介は天井の照明にかざして改めて見つめた。
今までに見たことのない“完全な円形”だった。小江の部屋にあったメモ、そして館の一角に設置された端末の形状。偶然とは思えなかった。
これが意味するところを、考えてみる。
それに、もし全員がこの貨幣を持っているなら、なぜあえて“半分”ずつなのか。
この貨幣を完成させた者だけが、どこかへ進める扉があると言う事。
コインの縁が光を弾き、精緻な文様が浮かび上がる。
「……俺があいつの部屋に入ること、わかっててやったんだよな。これ。」
「少なくとも、あなたが何か動くって想定はしてたんでしょ。」
緑はそれ以上言わなかった。ただ、視線がわずかに揺れていた。
「……これ、お前が持っててくれないか」
優介の声は低かったが、どこか決意のようなものが滲んでいた。
緑はその言葉に、顔をこわばらせ、優介の顔を真っ直ぐに正面から見据えた。
「なんで? あなたがもらったものでしょ?」
「そうかもしれないが……念のため、な」
「嫌よ」
即答だった。語気に、はっきりとした拒絶がこもる。
「これ、どう考えても脱出に関係あるもの。そんなの預かりたくない。別の手段で探すわ。」
「……お前もわかってるんだろ? これの意味」
「……だからこそよ。あなたの分がなくなるかもしれないじゃない。そんなの、絶対に嫌。」
緑の声が震えていた。それは怒りのような悲しみのような、それでいて不安と拒絶が入り混じったものだった。
「……なあ、お前、俺に借りがあったよな。芹香を助けた時、貸しにしておいてって言ってただろ」
「いらないって、あなたは言ったわよ」
「やっぱり……返してもらいたい」
緑がぴくりと肩を震わせる。
「ふざけないでよ……っ!」
初めて、声を荒げた。
「私一人で帰れって言うの? そんなの嫌に決まってるでしょ……!」
目元が潤む。怒りと悲しみが一気に噴き出したようだった。
「約束したじゃない……スイーツバイキング連れてってくれるって。先輩として指導してくれるって。いっぱい話して、遊びに行って……」
拳をぎゅっと握りしめる。
「反故にするつもりなの!? 勝手に“覚悟”みたいな顔しないでよ!!」
優介は答えなかった。ただ静かに、彼女の視線を受け止めていた。
「……違う。ただ、とりあえず持っててくれ、ってだけだ」
「嫌だって言ってるでしょ……。あなた、何をしようとしてるか、わかるもの……」
緑の声はもう震えていた。小さくて、幼いのに、大人のような強さで拒み続けていた。
「じゃあ先輩として、ひとつお前に指導してやろう。トリアージって知ってるか?」
「なんの話よ…」
「災害の現場ではな、重症や助かる可能性が高い患者を優先して治療に当たることがあるんだ。」
「だから、なんの話よ!」
「俺にだってな、助けたい命があるんだ。それこそ、自分より優先してでも。」
「やめてよ!!私がそれ受け取ったら、芹香ちゃんに残りの半分渡す気でしょ!
脱出チケットだとしたら、二人に一人しか使えないって事なのよ!?」
「ここに残ったって、死ぬとは限らないだろ?」
「……死なないんなら、最初から半分になんてなってないわよ」
緑の声が低く、怒気と絶望を孕んで震えた。
「こんなもの……“殺してでも奪え”って言ってるようなものじゃない……」
その場に落ちる静寂が、二人の呼吸だけを際立たせた。
「全員が無理なら……せめて、俺にも“選ばせて”くれないか」
優介の声は、あくまで静かだった。
「もちろん、俺だって諦める気なんてない。最後の最後まで足掻いてやるつもりだ」
言いながら、そっと緑の頭に手を置いて、ポンポンと優しく叩いた。
「……これ、預かってくれ」
右手に握られていた“半貨”が差し出される。
緑は、ぽろぽろと涙をこぼしながら、それを震える手で受け取った。
「……優介が手に入れられなかったら……私が、殺してでも奪って来てやるんだから……」
「お前には、これ以上背負わせたくないな」
優介が苦笑混じりにそう言うと、緑は涙目のまま彼を睨みつけ、鼻をすすりながら小さく言った。
「……バカ」
【獲得称号】
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