表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/66

あり得ない

【称号】

二条院優介:セクハラたらし大魔神

京山緑:優介の理解者

 優介の部屋に倒れ込むように戻ってきたふたりは、しばらくのあいだ、声も出せずに沈黙を保っていた。


 重く沈んだ空気が、言葉を押し殺している。何かを言おうとして、けれど声にはならず、喉の奥で言葉が霧散する。呼吸は浅く、心音だけが耳の内側で響いていた。


 どれくらい経ったのか。ようやく鼓動が落ち着きを取り戻し始めたころ、緑がぽつりと口を開いた。


「……私、もう二度とホラー映画見れないわ」


 その声には、乾いた震えが残っていた。

 優介はわずかに目を細めて、息をつく。


「安心しろ。俺もだ」


 ほんの少しだけ、空気が緩む。

 優介の声を聞いて、緑は少しだけ心が安らいだ気がした。


「……今日ほど、自分の記憶力が恨めしくなった日はないわよ」


 緑が、皮肉めいた口調で言う。

 優介も、どこか虚ろな笑みを浮かべて応じた。


「それは…心底同情する。……俺はもう、医学の概念が頭の中で壊れたぞ」


 静かな間。

 再び、緑の視線が揺れる。


「……一体、なんだったの? あれ」


 その問いに、優介はただ首を横に振った。


「わからない。ただ――はっきりしてるのは、“あり得ない”ってことだけだ」


 理屈じゃない。生物学でも、化学でも、常識でも届かない。

 この世界のどこにも属していない“何か”だった。


「アンデッドとか、ゾンビって……火が弱点なんだっけ?」


 緑の声に、わずかな震えと冗談めいた響きが混じる。優介も応じるように肩をすくめた。


「あとヘッドショット、な。でも……この館の中で火気は勘弁してくれ」


 ふたりの間に、ようやく“会話”が戻ってきた。


「……とにかく、これは一旦保留にしましょう。ちょっと、もう一度あの部屋に近づくのは……私は遠慮したいわ」


「お前の部屋の隣だけどな」


「ご希望なら、いつでも部屋交換してあげるけど?」


 緑がジト目で優介を睨む。

 それを受け流すように、優介は小さく笑った。


「幸い、小江さんの部屋の鍵だけは回収できたわ。もう少しだけ落ち着いたら、中を確認しましょう」


 そう言って、緑はそっと鍵をテーブルに置く。


「……先に食堂、行かない? 奢ってくれるって言ったわよね?」


「覚えてたのか」


「一度見聞きしたことは忘れないって、言ってるでしょ。あの部屋に近づきたくないのよ……察してくれる?」


 言葉とは裏腹に、緑の表情にはようやくほんの少しの色が戻っていた。



「ごちそうさま」


 緑の声が、空になったトレイの上にぽとりと落ちた。

 その言葉に優介も黙って頷き、手元のスプーンを静かにトレイへ戻す。


 食堂には、まだ朝の残り香のような空気が漂っていた。

 だが二人の間には、先ほど七番の部屋で触れた”何か”の気配が、いまだうっすらと貼りついたままだ。


 音を立てずに椅子を引いて立ち上がった緑が、ふう、と小さく息を吐いた。


「……少しは、マシになったかも」


 その言葉の端には、震えとともに、どこか”平常”へ戻ろうとする意志が感じられた。

 心の底に沈殿した何かを、それでも受け入れて前に進もうとする、幼くも強い意思。


「……そうだな」


 優介は短く返し、空の弁当箱を緑の分とまとめてダストシュートに持っていく。

 手元の動作は普段通りのはずなのに、なぜか少しだけ力が入っていた。


 二人の間に、言葉はしばらく降りてこなかった。

 やがて、その沈黙を破るように、緑が両手で頬をパンと叩いて言った。


「……行こう。小江さんの部屋」


 優介が、わずかに目を細めて彼女を見た。


「大丈夫か?」


 緑は無言で頷いた。顔色はまだ完全には戻っていない。

 だが、その目だけははっきりと前を向いていた。


「ほら。さっき言ってたでしょ? 箱を開けたかもしれないって。だったら、見に行かないと」


「わかった。」

【獲得称号】

二条院優介:医学とは ← NEW

京山緑:ホラー映画苦手 ← NEW

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ