先輩と後輩
【称号】
二条院優介:緑の理解者
京山緑:行動力カンスト幼女
六日目
昨晩、小江が死亡したことを、優介はまず佐伯に報告した。
事情を聞いた佐伯は無言で頷き、すぐに衣服を整えると、手分けして他の参加者へ伝えることを申し出た。
驚愕、沈黙、戸惑い、そして無関心――反応は様々だったが、いずれも短く、深くは踏み込まなかった。
誰もがそれ以上を問うことなく、ただ「死」という出来事を、またひとつこの館の“日常”として受け入れていった。
静かだった。
叫び声も、嗚咽もなかった。
夜の廊下に響いたのは、ただ歩く足音と、閉じられる扉の音だけ。
報告を終えた優介は、自室に戻り、鍵をかけて壁にもたれた。
考えても答えは出ない。答えを持ってるやつは居なくなってしまった。
いつの間にか、そのまま意識が途切れた。目を覚ましたときには、すでに朝になっていた。
コンコン、と控えめなノック音が響く。
「優介……起きてる?」
寝ぼけた頭に、聞き慣れた声が染み込む。時計を見れば、朝の6時50分。まだ眠気の残る脳に、その声がじわじわと現実を引き戻す。
「……ああ。入っていいぞ」
鍵を外し、扉を開けると、緑が小さな体でひょこりと顔をのぞかせた。
「お邪魔するわ……って、どうしたの? ひどい顔ね」
「……いや、ちょっとな。色々考えてて、ろくに眠れなかった。さすがに今回は……こたえた」
優介が乾いた笑いを浮かべながらベッドに腰を下ろすと、緑は遠慮なく部屋に入り、椅子にちょこんと座った。
「……あなたでもそんなふうになること、あるのね」
「自分でも意外だったな。」
「何がそんなにショックだったの?」
「なんだろうな……目の前で死なれたこと、助けられなかったこと、脱出の手がかりも消えたこともだけど……」
言葉を選ぶように、優介がゆっくりと呟いた。
「たぶん一番こたえてるのは……自分の無力さだ。もし、どこかで選択を間違えていなければ、こんな結果にはならなかったんじゃないかって……そう思ってしまってな。」
すると、緑が小さく鼻を鳴らして言った。
「……あなた、自分を神様かなんかと思ってるの?選択を間違えない人間なんて、いるわけないでしょう?」
「頭ではわかってるさ」
「心は神様なのね。クリスに神様に会えたって伝えとくわ。」
緑は肩をすくめて、呆れたような声音で言った。
優介が苦笑したのを見て、緑は静かに立ち上がると、隣にそっと腰を下ろした。沈黙がひと呼吸置かれたあと、小さな声が続いた。
「私……今まで、生きるのに精一杯だったの」
ぽつりと、緑が言った。声は小さく、けれどはっきりと耳に届く。
「先のことなんて、ほとんど考えられなかった。今日をどうやって乗り切るか、それだけで手一杯だったから……」
ふと、視線が宙を漂う。どこか遠く、過去を見つめるように。
「信じられる人も、導いてくれる人も――誰も、いなかったもの。でも……」
しばしの沈黙。
やがて緑は、ほんのわずか、唇の端を持ち上
げ、ごく自然に、年相応に幼く笑った。
「でもね、昨日の優介、ちょっとカッコよかった。……すごいなって思ったんだ。私も……そうなりたいなって。」
膝の上に置いたぬいぐるみが、ぎゅっと抱きしめられる。
「小江さん、結局助けられなかったけど、あれだけ必死に救おうとして……もし、自分が死にそうになった時、これだけ頑張って助けようとしてくれたら、嬉しいだろうなって……」
ぬいぐるみを抱きしめる手にさらに力が入り、
声のトーンも大きさも上がっていく。
「人を殺してきた私でも……もしかしたら、誰かの役に立てるのかなって。手を汚した分、誰か助けるのもいいかもって!……優介を見て、そう思えたんだ。」
そこで言葉が途切れた。緑は一度自分を落ち着かせるように深呼吸をした。
「……励ましてくれてるのか?」
優介が、そっと言葉をこぼす。
問いかけると、緑は一拍置いてから、ふいと目をそらした。
「……さぁね」
肩をすくめて、小さく息をつく。そして、もう一度ゆっくりと、今度は真正面から優介を見た。
「でも――」
少しだけ首を傾けて、目を細める。
「優介は、信じてもいいかなって。……そう思ったよ」
どこまでもまっすぐで、純粋で、透き通るような視線で、優介を見て言った。
しばらく沈黙が流れて、優介はふっと笑って緑に告げる。
「俺の後輩になるのか。徹底的に指導してやるから覚悟しろよ?」
「その時はお手柔らかに頼むわ。」
緑はいつもの調子に戻り、軽く大人びた笑みを浮かべて返事をした。
「……ありがとう、緑。お前が相棒で良かった。」
「……すぐそういうこと言う。私も攻略対象にしてるんじゃないでしょうね?」
「そういうセリフは出るとこ出てから言うんだな。」
「いつもの調子出てきたじゃないの、このセクハラたらし大魔人」
優介の足をゲシって蹴って、ベッドをぴょんと降りる。
「これからの方針を決めましょう。」
「ああ。」
【獲得称号】
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