共通点
【称号】
二条院優介:緑の理解者
京山緑:切り開いた人
天ヶ瀬ゆみ:操られし者
「――さて、本題に戻るわよ」
ぬいぐるみを胸に引き寄せたまま、緑が静かに口を開く。
その声音には、無邪気さはなく、裏モードに切り替わったのがすぐにわかった。
「今回は失敗したけど……次は、二十時ね。」
告げられた時刻に、優介はわずかに眉をひそめた。
「部屋に直接行った方がいいんじゃないか?食堂待ちはリスキーすぎると思うぞ。」
緑は、そんな優介を一瞥し、鼻を鳴らした。
「あなた、中に入れてもらえると思ってるの?」
優介はわずかに口の端を引きつらせて、苦笑を浮かべる。
「まあ……俺は無理だろうが。お前でも無理か?」
「多分、無理じゃないかしらね」
緑は小さく肩をすくめる。
「ちょっとあなたと一緒にいるところ、見られすぎてる。……催眠のことまで知ってるなら、あなたが誰かを使って動くぐらい、簡単に想像できるわ。」
言いながら、緑は手元のぬいぐるみの背を指先でなぞった。
優介は、息をつくように呟く。
「……まあ、そうか」
「だから当初の計画通りにするしかないわよ。」
「……クリスにでも見られたら、また“穢れ”を祓われるかな。」
優介の皮肉に、緑はふんっと鼻を鳴らして腕を組む。
「バレても謝ればいいんでしょ? ……便利な神様じゃない」
ツンとそっぽを向いた緑。どうやら緑のクリスへの印象は中々に悪そうだ。
だが、次の瞬間には、ぴたりと表情を変える。真面目な顔で、視線を落とした。
「……どうした?」
優介が問いかけると、緑はしばし黙り、考えるように唇を噛んだ。
「ちょっと気になる事があるの…。」
ちらっと優介を見上げ、探るような視線で問う。
「あなた……人を殺したこと、ある?」
唐突な内容に、優介は顔をしかめたが、意図を問い返すことなく答えた。
「あるわけない、とは……お前の前では言えないか。殺人の定義によるな」
「忖度はいらないわ。聞いてるのは、自分の手で誰かの命を奪ったことがあるかどうか。それだけ」
優介は、ほんのわずか考えたあと、静かに首を振った。
「そういう意味なら、俺はない」
緑はその顔をしばらく見つめたあと、小さく息を吐いた。
「……本当に?」
「ああ」
短く答えると、緑はふたたび黙り込む。そしてぬいぐるみに視線を落としたまま、ぽつりと呟く。
「……それじゃ、気のせい? いや、でも……」
「何が気になってるんだ?」
問うと、緑は目を伏せたまま言った。
「ここにいる人たちの共通点よ」
「共通点?」
「私、佐伯さん、クリス――三人とも、過去に人を殺してる。私の知る限りね。……こんな偶然、あると思う?」
その言葉に、優介は言葉を失った。
緑は続ける。
「例えば、手術を失敗したとか、助けられるのに助けなかったとか……そういう形だったらどう?」
優介は一度目を伏せてから、静かに口を開いた。
「まだ、命に関わる手術ができる立場じゃないからな…。だけど"そういう形"でなら、心当たりがないわけではない。他人の死の因果の一端にはなった事がある。」
「……回りくどい言い方ね」
「まあな。だが、それがどこまで“殺した”に含まれるかはわからない」
緑はしばし考え込むように沈黙したが、やがて決意を固めたように顔を上げた。
「……もう少し、検証したいの。あまり気は進まないけど」
「どうするんだ?」
「今日もゆみさんのところ行くのよね?連れてってくれる?」
「構わないが…聞いてみるのか?」
「ええ。聞きにくい内容だから、催眠状態の時がいいわ。今から行くわよ。」
「お前の行動力のステータスカンストしてるだろ。」
「現状を変えたければ、自分で切り開くのよ。」
緑はぬいぐるみを抱いたまま、すたすたと廊下に出ていく。
その背中を追いながら、優介は小さくため息をついた。
ほどなくして、二人はゆみの部屋の前に到着する。
ノックの音に応じるように、数秒後、内側から扉がわずかに開いた。
「あ……優介くんと、緑ちゃん?」
いつもと変わらぬ柔らかい声。警戒もなく、彼女はすぐに扉を開けてくれる。
「やっほー!ゆみお姉ちゃん!遊びに来たよ!」
「緑がどうしても一緒に来たいっていってな。」
ゆみが驚いたように目を瞬かせたが、やがて微笑みを浮かべてこくりとうなずいた。
「どうぞ、入って。」
部屋の中に入ると、優介は椅子を引き寄せ、ゆみの正面に座る。暗示に入ろうとした時、緑が前に出て、視線だけで優介を制した。
ーー私がやるわ。
緑が優介の前に割って入った。
「ゆみおねぇちゃん、ゆっくり緑の目を見て。」
優介がやったように、緑も正面からゆみの瞳の奥を覗き込む。
「深呼吸して、緑と同じリズムで。」
吸って、吐く。ゆっくりと呼吸を重ねるように。緑もタイミングを合わせる。
そのまま、まっすぐにゆみに向き直り、優介が使っているあの暗示コードを、まったく同じ抑揚で口にする。
「Code bestätigt……」
「Protocol Red」
コードの終わりとともに、ゆみの表情がふっと緩んで、意識が深く沈んでいくのがわかる。
「……すごいな。発音まで完璧だ」
優介が感嘆の声を漏らすと、緑は当然のように微笑んだ。
「一度見聞きしたら忘れないって、言ったでしょ?」
「もはやボイスレコーダーだな。」
「失礼ね。その程度の機械と一緒にしないで欲しいわ。」
そう言って再びゆみの正面に立ち目線を合わせる。
「……私の都合だからね、私が責任取りたかったの。ゆみお姉ちゃん、ひとつだけ教えて。人を殺したことって、ある?」
小さな問いかけに、数秒の沈黙ののち、ゆみは平坦な声で呟いた。
「……はい。あります」
一拍の間を置いて、ゆみは静かに口を開いた。声に抑揚は乏しいが、言葉の端々に、どこか沈殿した感情がにじむ。
「三年前……夫を、殺しました。家庭内暴力が、ひどくて……ずっと我慢してたんです。私ひとりなら、耐えられたと思う。でも……子供まで殴られて……」
言葉が少しだけ詰まる。だが、涙も叫びもなく、ゆみはただ、記憶をなぞるように続けた。
「――あの時、もう戻れないって、わかってた。でも……あのままじゃ、誰も生きられなかったから」
「……ゆみお姉ちゃん、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
緑はそう言って、そっと微笑みかけた。
ゆみの口元が、ゆっくりと閉じられた。
その言葉を最後に、再び静寂が訪れる。
催眠下のゆみは、感情を見せることなく、そのまま身じろぎもしない。
沈黙。
その余韻の中で、緑のまつ毛がわずかに震えた。
「……辛いこと、思い出させちゃったわね」
ぬいぐるみを胸元で抱きしめながら、緑はぼそりと呟く。
その声音は、いつになく低く、かすれていた。
「……ゆみさんにだったら殺されても文句言わないわ。」
静かに語られたその一言に、優介が目を細める。
「そんなもん背負わせるなよ。」
緑は一瞬だけ目を伏せ――そして、次の瞬間には、いつもの調子を取り戻していた。
「……偶然、てことはないわよね」
その声には、すでにいつもの調子が戻っていた。
ぬいぐるみの背中を指先で撫でながら、緑は優介に問いかける。
「そうだろうな」
優介もまた、簡潔にうなずく。
「小江さんも、かしら?」
「わからない。……可能性はあるな。」
緑はひとつ息を吐き、何かを整理するように瞬きをする。
「聞くこと、増えたわね」
「……ああ」
「今晩、ちゃんと成功させるわよ。……全部、終わりにするために」
優介もまた、真剣なまなざしで彼女を見つめ返す。
【獲得称号】
京山緑:行動力カンスト幼女 ← NEW




