共犯者
【称号】
二条院優介:悪い男
京山緑:セクハラリベンジャー
優介の部屋の扉が閉まると、緑は椅子に座って背もたれに体を預け、ふうっと長く息を吐いた。
「……やっと二人きりね。気を張り詰めてたから、少しだけ疲れちゃった」
そう言って、椅子を回転させ優介に向き直る。優介は無言でうなずき、ベッドに腰を下ろした。
「本題に入っていいかしら? 話しておきたいことが、いくつかあるの」
しばらく沈黙が流れたあと、緑が静かに切り出す。
「あなたの“催眠”の話なんだけど――芹香ちゃんには、かけられるってことでいいのかしら?」
唐突な問いかけに、優介はわずかに目を細めた。
「……まあ、そうだな。条件は満たしてる。かけようと思えば、できる。……必要なのか?」
「いえ、ただ……」
緑は一度言葉を濁し、考え込むように顎に指を添えたまま視線を落とす。
「やっぱり……小江さんは何かを知ってるって、私も思う。けど、あの人――警戒が異常に強い。心の中を見せようとしない。優介の“催眠”で探れないの?」
優介は、少し眉をしかめて首を横に振る。
「無理だ。心を開くどころか、俺に対しては最初からガードが振り切れてる。読心も効かない。ましてや催眠なんて――入る隙がない。」
緑はほんのわずか目を伏せたあと、今度は核心に踏み込む。
「……じゃあ、本人の意志を無視してでも、催眠をかける方法ってないの?」
「……どういう意味だ?」
声にわずかに鋭さが混じる。緑は臆することなく、そのまま見返した。
「言葉通りの意味よ。本当に、“どんな手段を使っても”無理なの?」
数秒の沈黙が落ちる。やがて、優介がゆっくりと息を吐いた。
「……ないことはない。」
「どんな方法?」
「……薬を使うんだ。完全にアウトな手段だけどな。チオペンタールとか、ミダゾラム、スコポラミン……要は脳の抑制系を操作して、暗示を受け入れやすくする。強い薬なら、意識があっても強力な暗示が通るようになる。だけど、そんなもの――」
そこまで言いかけて、優介ははっと何かに気づいたように、目を見開いた。
「……箱か!」
「そう」
緑は静かに頷いた。
……可能性はある。むしろ、高い。部屋にある箱は、本人に関連のあるものが入ってる傾向がある。俺の能力のことが知られてるなら、十分あり得る話だ。
優介の頭の中で仮説が急速に形を成していく。
だが、そこまで行ったところで、すぐに現実的な疑問が浮かんできた。
「いや、待て待て。そういう薬品は、基本的に静脈注射じゃないか。どうやって投与するつもりなんだよ。小江が大人しく腕を差し出すわけ、ないだろ? まさか……お前――」
緑はわずかに目を伏せ、そして小さく肩をすくめた。
「……あなたが想像している通り、かもね。」
静かに、しかし迷いのない口調だった。
「つまり――スタンガンで気絶させて、その隙に注射しろってことか。」
言葉にすると、想像以上に非道に聞こえる。優介は一瞬言葉を失い、若干緑から距離を取って言った。
「……お前、怖いな。正直、ちょっとドン引きだよ俺は。」
緑の肩がぴくりと揺れる。
「し、仕方ないでしょ……! 他に方法がないんだから。私だって、どうかと思うから今まで言わなかったのよ。でも、それでも……」
言い淀み、緑は視線を落とす。
ベッドの縁に座り、膝の上で小さな拳を握りしめた。
わずかに震える声が、次の言葉を紡ぐ。
「……私も、連れてってくれるんでしょ?」
ぽつりと、年相応の声色で呟く。
「私だって、行きたいよ……スイーツバイキングとか。ゲーセンとか。カラオケとか――」
その顔は伏せられ、表情は見えなかった。
けれど、その背中は、幼い子供が必死に背伸びしていたことを告白するように、小さく切なく揺れていた。
やがて、緑は小さく息を吸い込み、いつもの静かな調子に戻った声で続けた。
「とにかく。聞き出す手段は“なくはない”ってこと。……箱を開けて、中に入ってるならの話だけどね。どうするかは、優介次第よ。」
優介は頷きもせず、しばらく視線を伏せたまま黙っていた。
だが、その目にはすでに覚悟の色が灯っていた。
「……ああ。あと、問題は――どの箱に入ってるか、だな。」
「そうね。でも私は、最悪“全部”開ければいいと思ってるわ。」
さらりとした口調だったが、その言葉の重みは十分に伝わってきた。
「全部、って……」
「私の金貨があるもの。正確には、あの男の金貨だけど。6枚あれば、全部の箱を開けることはできるでしょ?」
緑は軽く肩をすくめてみせた。
「……それでいいのか?」
思わず問い返すと、緑はわずかに微笑む。
「暴行、拉致監禁、薬物投与の共犯者だもの。それくらい協力するのが筋ってものでしょ?」
静かながらも、どこか自嘲気味な口調だった。
優介は苦笑を浮かべながら、頭をかいた。
「……俺ら、極悪人だな。地獄に落ちるんじゃないか?」
それを聞いて、緑もまた小さく笑った。
「今さらね。……天国に行けるなんて、思ってもないわよ。」
あっさりとした口調に、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。
「わかった、箱を開けてみよう」
【獲得称号】
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