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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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友達

【称号】

二条院有介:読心無双

水島芹香:孤独と恩返し

京山緑:観客席代表

 それ以上、言葉は出なかった。

 芹香はただ、震える肩を抱え込むようにして、静かに泣き続けた。


 思いは言い尽くしたようだった。

 もう言葉はなく、ただ涙だけが喉を詰まらせ、途切れ途切れに呼吸を奪っていた。



「……俺は」


 ゆっくりと口を開く。


「お前のこと、もう“友達”だと思ってるよ」


 芹香の肩がぴくりと揺れた。

 だけどこちらを振り向くことはない。まだ、顔を上げられるほどには落ち着いていないらしい。


 俺は続ける。


「ここから出られたらさーーーお前と緑と、三人で、ゲーセンでも行こうぜ。でっかいマリカーの筐体並んでるとこ。あれ、たぶん緑がやたら操作上手くて、お前が毎回バナナで滑ってブチ切れてるの、見える気がする」



「『こんなの運ゲーじゃん!』って叫びながら、再戦要求して……また負けて、今度はガチで黙るだろ?可哀想だし後ろからアイス差し入れしてやるよ。」



 芹香は何も言わない。けれど、しゃくり上げる呼吸が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。



「で、そのあとUFOキャッチャー。俺、あれ苦手なんだよな。欲しくもないのに何百円も突っ込んで、全然取れなくてさ。後ろから緑に『無駄遣い』とか言われるんだろ?芹香に変わったら一発で取れたりしてな。ドヤ顔でぬいぐるみ見せて来るよな絶対。」



「そうしたら、休憩がてら甘いもんでも食いに行くか。遅めの時間でもやってるスイーツバイキングなんかいいんじゃないか?苺系ばっか選んでるお前と、チョコ系にこだわる緑と、俺は……ずっとパスタでも食ってることにする。緑は、あいつあんな体で結構食うぞ?」



 冗談混じりに言ってみせると、芹香の肩がほんの少しだけ震えた。



「カラオケも行くか?実は結構得意なんだよ、俺は。ああ見えて緑、歌とか上手そうだし。……芹香は? 今どきの曲とか知ってるのか?正直俺は知らない。緑の知らない曲ばかり歌ったらすごい不機嫌になりそうだな….その時はフォローよろしく。」



「俺は免許持ってるからな、暗くなったらドライブにでも連れてってやる。そうだな…海辺とかどうだ?そこなら花火もできる。緑は花火振り回してお前に危ない!とか怒られて、線香花火で最後締めかな。帰る時には緑はもう寝ちゃってるだろうけど。」



 ぽつぽつと投げる言葉は、どれも普通すぎる日常の光景。どこにでもある“当たり前の時間”を分け合うこと。


「……ほんとに、行けるの?」


 か細い声だった。涙混じりの鼻声で、でも確かに問いかけるように響いた。


 俺は少しだけ笑って、首をすくめてみせた。


「ああ。行くに決まってんだろ。嫌だって言っても連れてくからな。」


 それを聞いた芹香は、またぽろぽろと涙をこぼした。

 でも今度は、少しだけ表情が柔らかかった。

 泣き顔のまま、目元をぐしゃぐしゃにして、それでも笑ってるみたいな――そんな顔だった。


 芹香はひとしきり涙を流したあと、俺の肩にもたれかかるようにして、静かに呼吸を整えはじめた。


 そのまましばらく、何も言わずに座っていると、彼女の体の力が抜けていくのがわかる。やがて、寝息が聞こえてきた。


 泣き疲れて眠ったらしい。


 俺はそっと芹香の身体を横にして、ベッドに寝かせる。

 布団をかける手元を見つめながら、どこか胸の内に、懐かしさのようなものを感じていた。


 そのとき。


 カチャ、と静かにドアノブが回る音。


 俺が反応する前に、ドアはゆっくりと開いた。現れたのは、ぬいぐるみを片手に抱えた、緑だった。


「――攻略完了。……かしら?」


「…人聞き悪いな。聞いていたのか?」


「ええ、私も心配だったしね。だけど良い雰囲気だったから水を差すのも悪いと思ったのよ。」


 中に入って、芹香の寝顔を確認する。瞼は腫れているが、穏やかな顔をしているのをみて、緑は少し安堵したような笑みを浮かべる。  

 その後、優介に向き直り、イタズラっぽい表情で話し出す。


「心なんて読めない私にでもわかるわ。芹香ちゃん、あなたに惚れたわよ。」


「………」


「応える気はあるのかしら?」


「……聞くな。」


 優介がそっけなく言い捨てると、緑は小さく肩をすくめた。それを見て優介は視線を逸らしながら言う。


「……今はそれどころじゃないからな」


 言い訳のような、それでいてどこか焦ったような声音だった。


 緑は小さく息を吐くと、肩越しにベッドの方へ視線を向ける。芹香の寝顔はまだ穏やかで、時おり微かにまつげが震えている。


 しばし沈黙が落ちた。


「優介は……外に出たい理由があるの?」 


「……待ってる人がいる」


「女の子?」


「ああ」


 緑は、すぐには反応せず、手に持ったぬいぐるみに視線を落とした。


「……ふぅん」


 間延びした声。

 それは何気ないようでいて、何か含みを持たせた言い方のような感じでもあった。


 しばらくそのまま沈黙した後、緑が何気ない様子で言った。


「――で? 抱いたの?」


「……ゴホッ、ゴホッ! おい!」


 優介は思わずむせ返るように声を上げた。だが緑はどこ吹く風で、楽しげに唇を尖らせている。


「この前のお返しよ。……彼女さんなんでしょ?」


「……そんなんじゃないさ。」


 視線を逸らすこともなく、静かな口調で返した。


 緑は、その答えに満足したのか、少しだけ柔らかい表情を見せる。


「……そっか。芹香ちゃん、失恋か。悪い男に弄ばれたわね。それとも、“付き合ってないならまだチャンスある”って思うのかしら?」


「……聞くなって」


 緑は肩をすくめ、再度芹香の方を見やった。

 じっと見つめていたが、先ほどよりもずいぶん落とした声量でつぶやいた。


「……優介。芹香ちゃん助けてくれてありがとう。今はまだ何も返せないけど…貸しにしておいて。」


「要らないさ。俺がやりたくてやったことだ。」


 緑は少しだけ湿った目で優介を見た。


「……本当に、悪い男ね。」


 その言葉に含まれた感情の色は、どこかに温かさを滲ませていた。すぐに表情を引き締めると、背後の扉に目をやる。


「――ねえ、優介。少し、話したいことがあるの。場所を変えてもいい?」


 優介は一度、眠る芹香をちらと見やってから、軽く頷いた。


「……わかった。どこへ?」


「あなたの部屋に行ってもいい?」


「ああ。」


 2人はそれっきり黙ったまま、芹香の部屋を後にした

【獲得称号】

二条院優介:悪い男 ← NEW

水島芹香:満たされた心 ← NEW

京山緑:セクハラリベンジャー ← NEW

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