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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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真田戦・その後

【称号】

二条院優介:読心無双

青峰透華:兼業ディーラー

真田一馬:スッカラカン

水島芹香:スッカラカン

長月紅葉:護衛騎士

佐伯蓮:常識人

「てんめぇぇぇえええ!!」


 これ以上ないほどの怒号が、食堂に響き渡る。

 真田が顔を真っ赤にし、優介へと殴りかかろうと詰め寄る。


 だが――その前に、透華がスッと立ちはだかった。


「やめとけよ、真田」


 声は低いが、強い力を帯びていた。


「誰がどう見たって、お前の負けだわ」


「ふざけんじゃねぇ……! おい!! 紅葉! こいつら全員、ぶっ殺せ!!」


 歯を剥き出しにして叫ぶ真田に、紅葉は静かに応じる。


「私が依頼を受けたのは“護衛”。それは契約外ね」


 きっぱりと、首を横に振る。


 その様子を見て、透華は肩をすくめた。


「紅葉、こいつ連れて帰ってくんねぇ? 襲ってくるなら、こっちも反撃しなきゃいけないんだわ」


 透華が皮肉混じりの口調で言えば、紅葉は少しだけ瞼を伏せて――


「……そうね。そうするわ」


 即答だった。


 次の瞬間には、紅葉の手が真田の腕を取り、ぐいとねじ伏せる。


「ぐっ……な、なんだよ、てめぇ……っ!」


 抵抗らしい抵抗も許さず、真田はそのまま食堂から連れ去られていった。


 静けさが戻った食堂で、優介は先ほど大量に獲得したばかりの銀貨を、一枚拾い上げる。


 指先で弾き、それを軽やかに投げると――


「ありがとう、助かった」


 透華の胸元へ、銀貨が吸い込まれる。


「っと」


 片手でキャッチした透華は、にっこりと笑った。


「いやー、すっごかったな! 特等席でいいもん見させてもらったわー! これは役得ってやつだな!」


 上機嫌な様子で、優介の背中をバシバシと叩いてくる。


「……ちょ、痛いって」


 小さく息を漏らしながら、優介は椅子から立ち上がる。


「緑、芹香の銀貨って何枚あったんだ?」


「えっと……ぜんぶで三十七枚。」


「そっか」


 優介は無言のまま、銀貨を自分の前で数える。

 三十七枚をきっちり取り分けてから、ぽん、と三枚足して四十枚にする。


 それをまとめて芹香の前に置いた後、元々自分のだった銀貨を三十五枚を横に寄せ、残った銀貨を纏めつつ、視線を佐伯へ向けた。


「悪いんだけど、佐伯さん。これ、預かっててもらえないか? さすがに真田を餓死させるわけにもいかないし……都度、必要なぶんだけ渡してくれると助かる」


 真顔で言いながらも、どこか疲れの滲む声音だった。


 佐伯はほんのわずかだけ目を見開いて、それから頷いた。


「ああ。了解した。……何もできなかった分、それくらいは協力させてくれ」


 そう言って銀貨の束を丁寧に受け取り、懐に収めた。


 勝負が終わり、ざわめきが落ち着いた食堂の隅で、俺は芹香の元へ向かう。


 手に残った銀貨のうち、彼女の分──四十枚をそっと差し出した。


「……全部、取り返したぞ。増えた三枚は、謝罪が聞けなかった分ってことで。」


 芹香はしばらく動かないまま、俺の手元を見つめていた。

 その目が、わずかに震えていた。


「……俺のために怒ってくれたんだってな。ありがとう」


 そう言って、そっと芹香の頭に手を置き、軽くぽんぽんと叩く。


 その瞬間だった。


「……っ、ばかっ……!」


 芹香の口から絞り出されたのは、涙に濡れたかすれ声。

 そのまま、言葉にならない嗚咽が喉の奥から噴き出してくる。


 芹香は突如として崩れ落ちるように膝をつき、顔を覆って、大きく泣き出した。


「ご、ごめ……なさい……っ、ごめん……っ」


 嗚咽と一緒に、詰まったような「ごめんなさい」が何度も漏れる。

 まるで抑え込んでいた何もかもが、今になって堰を切ったかのようだった。


 その肩は細く、小刻みに震えていて――

 俺はそっと、彼女のそばにしゃがみ込んだ。


「……もう大丈夫だ」


 そう声をかけると、芹香はしゃくり上げながら小さく頷いた。涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すようにして、震える肩を俺の胸元に押しつける。


「立てるか?」


 問いかけると、かすかに「うん」と返ってくる。俺は彼女の肩にそっと手を添え、ゆっくりと立ち上がらせた。


 そのまま、片手で芹香の背を支えながら歩き出す。泣き疲れたせいか、彼女はほとんど身を預けるように寄り添ってきた。


 食堂を出ると、廊下はしんと静まり返っていた。重い足取りで、ゆっくりと部屋へと向かう。途中、誰ともすれ違うことはなかった。


 部屋の前に着くと、俺はノブを回し、そっと扉を開ける。


「入れるか?」


 芹香は小さく頷いた。そのまま、俺の支えを借りて中に足を踏み入れる。扉を閉めかけたところで、彼女の手がそっと俺の服の袖をつまんだ。


「……来て、くれる?」


 か細い声だった。


 俺は無言のまま頷き、部屋の中へと入った。


 部屋に足を踏み入れた瞬間、それまでなんとか堪えていたものが緩んだのか──芹香は再び、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。


 扉を閉め、ベッドの縁に腰を下ろす。俺も隣に座ると、彼女は袖で目元をぬぐいながら、しゃくり上げるようにして言った。


 芹香は、ぽつりと呟いた。


「……私、友達、いないの」


 その言葉のあと、また小さく肩が震える。俯いたままの顔は見えないが、落ちる涙の粒が静かに床を濡らしていた。


「こんな性格だし……誰とも深く関われなくて……ずっと、ずーっと、ひとりで……」


 ひと息ついて、震える声を押し出す。


「『別に友達なんかいらない』って……ずっと強がってた。でも、本当はずっと、憧れてたの。誰かと一緒にご飯食べたり、笑い合ったり、そういうの……」


 言葉が詰まり、しばしの沈黙のあと──声が一気に泣き声に変わる。


「だから……だから優介が、ご飯に誘ってくれたの……うれしくて……ホントに、ほんっとうにうれしくて!!」


 芹香は膝の上で握り締めた拳を震わせ、顔を伏せたまま声を張り上げる。


「夢だったの! ずっと夢だったのよ! なのに……素直になれなくて……バカみたいに断って……自分がホントに嫌で……!」


 涙声のまま、言葉が次々とこぼれていく。


「でも、そんな私なのに、また誘ってくれて……あんなふうに、みんなでゲームして……誰かと一緒にいられるなんて、本当に夢みたいで……!」


 呼吸が乱し、嗚咽を押し殺しながら、それでも言葉は止まらない。


「ホントに楽しかったの……優介にも、緑にも……心の中じゃちゃんと感謝してたのよ……!」


 芹香は顔を上げ、潤んだ瞳でこちらを見る。


「だから、優介が……バカにされたのが、本当に悔しくて! 絶対に、絶対に許せなくて……!」


 吐き出すように叫んだその後、再び言葉が詰まった。


「……でも、結果的に、優介に迷惑かけて……危ない目にまで、合わせて……」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔が、さらに歪む。


「それなのに……それなのに……こんな私のために……怒ってくれたのが……どうしようもなく、うれしかっった……!」


 声はもう崩れていた。言葉にならない嗚咽の合間から、必死に言葉を紡ぐ。


「ほんっとに……私、最低……っ」


 それ以上、言葉は出なかった。

 芹香はただ、震える肩を抱え込むようにして、静かに泣き続けた。


【獲得称号】

真田一馬:逆ギレ撤収者 ← NEW

水島芹香:孤独と恩返し ← NEW

長月紅葉:戦犯回収係 ← NEW

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