VS真田一馬(後編)
【称号】
二条院優介:セクハラ大魔神
真田一馬:勝ち組ギャンブラー
青峰透華:兼業ディーラー
京山緑:処刑は得意
【11ラウンド目】
「よし、それじゃあ第11ラウンド。アンティ1、ブラインド1枚ずつね。ディールいくよー」
透華がディーラー席で腰を伸ばした、その瞬間。
「なあ、真田」
優介の声が空気を切る。
透華の手がカードに伸びたまま、一瞬だけ止まる。だが真田は返事をせず、睨むように視線を向けた。
「お前、金貨一枚の箱を開けてたな。中に何が入ってたんだ?」
「……テメェに言う必要なんか無いって言っただろ。」
「そうか。じゃあ、これは俺の妄想ってことで聞いてくれ」
透華が少しだけ苦笑しつつ、カードをシャッフルしてディールを始める。
「たとえば──中に“トランプ”が入ってたとしたら面白いな」
配られるカード。テーブルに、優介の前に1枚ずつ、真田の前にも1枚ずつ並べられていく。
「しかも、ただのトランプじゃなかったりしてな。それに他にも入ってるものがあったんじゃ無いか?ほら、サイコロとか……あとは例えば」
「両面表、両面裏の金貨とか。」
真田が動いた。配られた5枚のカードに触れることなく、横目で優介を睨む。
その視線が、自分の手札から外れた──その瞬間だった。
優介は手元のカードをサッと確認し、即座に束ねて伏せ、上から静かに手を添える。
その動きに、無駄はない。
場に緊張が走る。
「──カードから視線を外すなんてな。ペラペラ喋ってて気が散らないのかって言ったろ?」
「……てめぇ」
「さあ、勝負はここからだ。俺のこの手は──ツーペアだ。お前のそのワンペアじゃ勝てない。降りとけ」
「ふざけんな……!」
挑発とも取れるその言葉に、真田の口角が引きつるが、それを尻目に透華は淡々と、場を進める。
「……優介から。ドローは?」
「ノーチェンジで」
優介のノーチェンジという一言を聞いて、真田は優介に食ってかかる。
「はあ?テメェ今ツーペアって言ってただろうが。」
「それがどうした?交換しなきゃいけないなんてルールないだろ?」
透華は笑いを堪えるように、真田に問う。
「…真田は?」
「……3枚だ」
真田はカードを3枚捨て、新たに3枚を受け取る。その目はすでに優介に向いたままだった。
「ポストドロー。ベットどうぞ」
「……3枚」
優介がチップを差し出す。緑がその手をぎゅっと握りしめて見つめていた。
「……ジャック、クイーン、キング……」
優介が呟く。真田の手札を読んだような声色に、観客がざわめく。
「ジャックのワンペアか。ドローしても揃わなかったのか、残念だな。やっぱり降りとけよ。」
「レイズ3枚だ。降りる気なんざねぇ」
「そうか。じゃあ──オールインだ」
銀貨10枚すべてを、優介が音を立ててテーブル中央に送る。
「上等だ……! コールだよ、コール!」
銀貨が山となって積まれた。透華が淡々と頷く。
「ショウダウン」
カードが開かれる。
真田の手札:
♠J ♣J ♦7 ♥3 ♠5(ワンペア)
優介の手札:
♥10 ♠10 ♣4 ♦4 ♣6(ツーペア)
「っ……」
真田の喉が詰まる音が聞こえた。
「言ったろ。ワンペアじゃ勝てないって。」
[優介20枚・真田77枚]
【12ラウンド】
「アンティ1、ブラインド1ね。第12ラウンド、ディールいくよ」
透華の声が響くよりも一瞬早く、優介が真田へと声をかけた。
「なあ真田、パームって知ってるか?」
真田の目がすっと細められ、睨むように振り返る。
「……何が言いてぇんだ」
「技法の話だよ。手品とか、そっち系のな」
優介は肩を竦め、軽く笑う。
「今回のポーカーはさ、ワンデック――つまり1組のカードを使い回してるだろ? 仮にの話だけど、カードの回収時に1枚だけ抜いて手に隠しておくとする。それを次の勝負で使えば、実質6枚でプレイしてるようなもんだよなーって」
透華が苦笑しながらも、配る手は止めない。カードが静かにテーブルへ滑っていく。
「テメェ、俺がそれをやったって言いてぇのか!?」
真田が声を荒げ、拳をテーブルに叩きつける寸前の勢いで前のめりになる。
「証拠はあんのか、証拠はよ!」
だが優介は眉ひとつ動かさず、淡々と答える。
「いやいや、例えばの話って言ったろ。真剣勝負でそんなことするわけないよな」
配り終えられたカードが各自の前に揃った。
「……お前、ギャンブラーなんだろ? もしそういうことやって、それがバレたら──その世界では、どうなるんだ?」
少しの間を置いて、真田が低く呟く。
「……潰される。よくて二度と賭場に立てねぇ」
「まあ、そうなるよな」
優介の視線が、ちらりと真田の背後に立つ紅葉へと流れる。
「でもさ。今は後ろに“怖いお姉さん”がついてるんだよな? それってちょっとずるくないか?」
「……何が言いてぇんだ」
真田が静かに唸る。優介は言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。
「もしもの話だ。お前がイカサマをして、それがバレた場合──その時は“護衛の対象外”にしてくれないか?」
テーブルに緊張が走る。
「……なんだと……?」
「いや、だってさ。イカサマなんてするわけないんだろ? これから先もしないんだろ? だったら何の問題もないじゃないか」
優介は軽く息を吸って、わずかに溜めた後、
まるで諭すように真田に向かって告げた。
「"次のラウンドから"でいいからさ」
真田の顔に一瞬だけ逡巡が走り、そして舌打ち。
「……チッ。わかったよ。紅葉、もし俺がイカサマをしてバレたら、その時は護衛対象外でいい」
紅葉は無感情な声で、ただ一言だけ返した。
「……わかったわ」
そのやり取りを横目に、透華がディーラーとしてカードの確認に入る。
「チェック、チェック。じゃ、ドローいくよ。優介から」
「……ノーチェンジで」
優介は配られたカードをまとめて見もせず言う。真田は何か言いたげに顰めっ面を優介にむける。
「真田は?」
「…1枚チェンジだ」
ドローが終わると、ポストドローのベットフェーズ。だが──
「……フォールドだ」
優介がカードにも触れず。銀貨を一枚差し出した。
真田がガタリと椅子を蹴るように身を乗り出した。
「……はぁ? 何やってんだテメェ!」
「ん? 何って、フォールドだよ。別にルール違反はしてないだろ?」
まるで悪びれる様子もなく、優介は真田の怒りを軽く受け流す。
真田の拳が震える。だが、ここで怒鳴りたいのを我慢して、席に座り直す。
透華がポットを回収し、真田の前に1枚を置いた。
「ポット1枚、真田の勝ち」
静かに、次のラウンドの準備が進められる。
[優介19枚・真田78枚]
【13ラウンド目】
13回目のディールが始まる直前、優介がまたしても話しかけてきた。
「なあ、真田」
「なんなんだよ、テメェは!!」
苛立ちを隠さず睨み返すが、優介はどこ吹く風といった調子だった。
「そんな熱くなるなよ。お前の、その配られた一番左のカード……ちょっと、傷ついてないか?」
何を言ってやがると、真田は思わず視線を落とす。カードの角を軽く撫でる。見た目に異常はない。
「……何にもついてねぇじゃねえか」
「いや、ついてるって。それ絵札だろ? あと……これが7で、そっちが8。そうじゃないか?」
「なんっ……で…」
声にならない声を絞り出し、真田の指がピクリと止まる。
「だからさっき言っただろ。俺には“傷が見える”んだよ。お前には見えないのか?」
透華の手が止まりかけたが、無言で再開する。カードはすでに5枚ずつ、配り終えている。
(……マジかよ)
不意に、背筋が冷えた。
そのカードは、見ただけでは判別できないイカサマデック。特殊なインクで印刷された、背面の一部が、角度によってかすかに光沢が浮き上がってみえるものだ。
(あの位置……12時の方向にうっすら光が……。ってことは──12。隣は七時、つまり7。そっちが……8時で8か)
光の位置は、まるで時計の文字盤。1時=1、2時=2……という具合に、表の数字を指し示している。中央が光れば──それは13。キングの合図。
(クソ……気づいてる。完全にバレてやがる)
この特殊デックではマークまではわからない。だが、それでも十分すぎる。ほとんどの手役を裏から光ってる位置を見るだけで看破できるのだ。
(俺の手札は、ぱっと見ただのブタに見えるが……実際はスペードが四枚。今、俺の手の内にあるのは──)
真田の手札:
❤︎3、♠7、♠8、♠10、♠k。
(あと1枚、スペードがくれば……フラッシュが完成する)
この勝負、勝てる。勝って、黙らせる。──このガキを。
優介は、それでもカードを1枚も見ようとはしなかった。何を考えているのか、何を見ているのか、まるでわからない。
(このクソガキ、完全に俺をおちょくってる。舐めやがって…)
「お前の手、悪そうだけど……このまま続けて良いのか? ドローしちゃうと、もう取り消せないんだろ?」
「もし──“お前がたまたまもう1デック持ってる”なら、今のうちに交換しといた方が良いんじゃないかって言ってるだけさ」
「……テンメェ……」
明らかに、このガキは仕掛けに気付いて、ノーマルデッキに戻せと言っている。
真田は射殺さんばかりの勢いで優介の目を睨みつけた。
だが、優介はまるで相手にしていないかのように、配られた瞬間から自分のカードの表面を一切見ることなく、一束にまとめて1番上を手で隠して、真田の返答を待っている。
クソ、今回も見逃した。間違いなく配る瞬間を狙って話しかけてきやがる。
だが今回は3枚は確認できた。
2.2.9 確実にワンペアにはなっている。
確かにワンペアでもブタに見える手相手なら見なくても十分勝てる公算は高い。
こいつはそれをわかってやってるんだ。
「ワンドローだ!」
「良いんだな?じゃしょうがない。俺もワンドローだ。」
優介が心底仕方なさそうに透華から1枚カードを受け取る。
「──な!?」
「な…ってそりゃ交換するだろ、ポーカーなんだから。」
どこまでもふざけやがってこのガキ……っ!
カードが入れ替えられる。ディーラーである透華の手際に迷いはない。
(よし……♠5、来た!)
真田の心臓が跳ねた。スペード5──これでフラッシュ成立だ。
真田の手札:
♠7、♠8、♠10、♠K、♠5。
完璧なフラッシュ。これ以上ない勝ち筋。優介がワンペア以上とはいえ、フラッシュに敵うはずがない。
真田は深く息を吐き、顔の筋肉を緩めた。
(こいつには見えてない。デックに気づいたとはいえ、まさか何が来たかまでは読めまい)
そのくせ、またもカードを見ていない素振りのまま、優介は淡々とした声で言う。
「……手、悪いんだから降りた方が良いぞ?」
その一言に、真田の目が細くなる。
(こいつ、ブタに見えてやがるな。だから強気で出たってか? じゃあ──)
真田は、わざと鼻で笑ってから、ゆっくりと銀貨を3枚、中央に滑らせた。
「レイズだ。3枚追加してやるよ」
場にさっと緊張が走る。
が──優介は眉一つ動かさず、無言で、残っていたすべての銀貨を中央に押し出した。
「全く…良いんだな?オールインするぞ?」
一拍置いて、周囲がざわめく。緑が思わず息を呑み、透華がゆっくりとその手を止める。
「……おいおい、マジかよ。そこまで張るか」
真田は肩をすくめてから、口元を歪めて笑った。
「乗ってやるよ。──コールだ!」
ショウダウン。
まず真田が、自信たっぷりにカードを広げる。
真田の手札:
♠7、♠8、♠10、♠K、♠5(フラッシュ)
「──フラッシュだ。どうだ、お坊ちゃん」
盤上にフラッシュが煌めく。間違いなく強手だ。誰もが、真田の勝ちを確信した──その瞬間。
優介は、伏せていた手札をゆっくりと広げた。
優介の手札:
♣2 ♦2 ♥9 ♠9 ♣9(フルハウス)
「──フルハウスだ」
静寂。
目を見開いた真田の口元から、言葉が滑り落ちない。
「──な……」
誰かが小さく呻いた。だが、それは真田ではなかった。空気が、一瞬止まったように感じられる。
「だから言っただろ。"俺より"手が悪いんだから、降りた方が良いぞって」
優介は、あからさまに呆れた顔を真田に向ける。だが、口調は相変わらず淡々としていた。まるで、勝敗すら興味がないかのように。
真田の手が、テーブルの下で震えていた。
[優介38枚・真田59枚]
【14ラウンド目】
ここまで……ここまで圧倒的なの……。
私は、優介の“読心術”とやらの話を、最初は半分くらいしか信じてなかった。
ちょっと表情とか空気に敏い人なんだろうな、ぐらい。嘘を見抜くくらいはできるのかもしれない。
でも、まさか、こんなことが……。
13回目の勝負、あれを境に空気が一変した。真田が見せたあの顔――悔しさでも怒りでもない、純然たる恐怖。あれはもう、優介を得体の知れない化け物みたいに見てる目だ。
14回目。カードが配られる前、真田はディーラーの透華に小さく何かを囁いた。
彼女は一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、何も言わずに頷いて、デックを交換した。たぶん……仕込みのない、普通のカードに。
(もう、完全に手玉なんだ……)
場が静まる。誰もが息を呑んでいる。
仕込みがあってすら勝てないのに、普通のカードで勝てるわけなんかない。
ドロー後、真田が真剣な顔で20枚もの銀貨を積み上げた時、私は少しだけ驚いた。まだやるつもりなんだ、って。
けれど……優介が何事もないようにレイズした後、
真田はその目をしばらく睨んでいたが、やがて彼はフォールドした。叩きつけるようにカードを伏せて、椅子に背中を預けた。
(……降りた)
優介は、カードを一切見てない。無表情のまま、配られた五枚を重ねて、その上に手を置いている。
対して真田は――
──スリーカードだった。
手札を伏せる寸前カードがちらっと見えた。私にはわかる。彼の指先がほんの少し震えていた。
負けるって、思ったんだ。
優介の幻影に怯えたんだ。
勝てるはずの手で、逃げた。
(すごい……もう、誰が見ても、勝負になってない)
カードを見なくても、勝つ。
そんなの、もうギャンブルじゃない。
優介は、ただ黙って、次のカードを待っている。まるで、勝利という結果が最初から決まっているかのように。
[優介58枚・真田39枚]
【獲得称号】
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