クリスの迷探偵劇場
【称号】
二条院優介:看破せし者 ← NEW
クリスティアーナ:宗教ガチ勢 ← NEW
「優介さん、少しお時間、いただけますか」
食堂から戻る途中、クリスから急に声をかけられた。
その声音はいつになく慎重で、敬意を滲ませつつも、どこか覚悟めいた揺るぎを孕んでいた。
優介は歩みを止め、背後に気配がないことを確認してから頷く。
「……いいけど、どうしたんだ?話なら部屋で聞くぞ。」
「いえ、立ち話で構いません。長くはかかりませんので」
クリスはそう言って一歩前に出た。その眼差しは普段の柔らかいものとは違っていた。
胸元の十字架をギュッと握りしめて、体を固くしている。
「私……ずっと、迷っていました」
目を伏せ、少しだけ言葉を選ぶようにして、彼女は続けた。
「このままでいいのかなって、何度も思いました。あの部屋のことも、そこにあったものも――何もかも」
声には迷いがない。ただ、静かに、淡々と告白するように。
「でも、どうしても見過ごすことができなかったんです。どうしても。あの人が、あんなふうに殺されたことを……無かったことには、できませんでした」
優介は、ただ黙って耳を傾ける。
「……優介さん。――おかしいと思いませんか?まるで何もなかったようにするなんて。これでは殺された人があまりにも報われなさすぎます。」
「まあ、そうだな。」
なんとなく相槌を打ち、また優介は口を閉じる。
「だから、決めました」
クリスは顔を上げた。まっすぐに、優介を見据えて。
「私が。……犯人を、見つけます。探偵になります。」
「そ、そうか…。」
「優介さん…あなたしか頼める人がいないのです。……私の助手、やってくださいませんか?」
クリスは、まるで舞台にでも立つかのように手を胸元で組み、潤んだ瞳でこちらを見つめてきた。
「……いや、待て待て待て。今の流れ、どう考えてもおかしいだろ。俺、なんで助手になってんの?」
口調は穏やかだが、断る隙を与えない圧があった。
言い終えてから、クリスは微かに口元を引き結ぶ。彼女にしては珍しい、強い意志の表出だった。
そして、そのまま。
「では、助手さん。まずは状況の整理から始めましょう」
「ちょっと待て。俺、まだ引き受けて――」
「事件の第一報は、七番の部屋で遺体が発見されたこと。現場の状況は限られた人しか知りませんが、断片的な情報から仮説は立てられます」
聞いてない。完全に聞いてない。
優介が言葉を挟む暇もなく、クリスはどこからか空気を切り替えて、淡々と話し出す。
――始まってしまった。
まるで自分が主役の劇の台本でもあるかのように、クリスは滑らかに「迷探偵クリスティアーナ・レインズ」を演じはじめた。
クリスは一呼吸置いてから、優介に訊いた。
「優介さん、現場を確認されたんですよね。何か……違和感のようなものはありませんでしたか?」
眉根にしわを寄せながら、優介は渋々答える。
「違和感って言われてもな……あえて言うなら、ドアに無理やり押し入った形跡もなかったし、鍵を開けるまで静かなもんだったな」
「……押し入った?」
クリスがふと顔を上げた。目がすっと細くなる。
「今、“押し入る”と仰いましたよね?」
「いや、まあ、そう聞かれたから、そう答えたけど……?」
「やっぱり!」
クリスがぱんと手を打った。
「“押し入る”という言葉は、“外部からの侵入”を意味します。
しかしそれが“なかった”ということは――これは“内部犯”です! 館の中に、犯人がいます!」
「いや、最初から全員そうだろ。ここ閉鎖空間なんだから」
「いいえ、“押し入る”という単語を優介さんが無意識に使ったことが重要なんです!
つまり――潜在的に“外部犯の存在”を否定したい心理が働いていた。
これは、“犯人は仲間内にいるとわかっている人物”の反応――つまり、優介さん、あなたが――」
「待て待て待て待て!! 俺が犯人になるの!?」
優介の鋭いツッコミにも、クリスは悪びれる様子もなく、むしろ目を細めて頷いてみせた。
「落ち着いてください。まだ“確定”ではありません」
「その前提で話すのやめてくれ」
「ですが、優介さんが“怪しくないとも限らない”ということが分かったのは大きな進展です」
「いや、何一つ進展してないぞ?」
優介が半眼で返すのもお構いなしに、クリスはくるりと踵を返し、再び勝手に思索モードへと突入した。
クリスは指を唇に当て、何かを考え込むように目を細めた。
「それでは……次の仮説です。遺体は、靴を履いていましたか?」
「ん? ああ。履いたままだったな。倒れてたのは部屋の中央付近だったと思うけど」
「やっぱり!」
ぱん、とまた手を打つ。完全に来ている顔だ。
「靴を履いていたということは、犯人は“油断させた”のです」
「は?」
「人は、心を許している相手といるときほど、“靴を脱ごうか迷う”んです。
でも、脱がずにいたということは――直前まで“この人とどう接すべきか”を悩んでいたという証拠。
犯人は“警戒と好意のはざま”に立つ、絶妙な距離感を演出していたのです」
「……お前の中で、靴が心理戦の道具になってんのか?」
「はい。靴を履いたまま倒れていたという事実が、“緊張感のある会話があった”ことを裏付けています。
つまり――犯人は、口が上手いタイプです!」
「え、じゃあお前が怪しくないか?」
「ご冗談を。私はただの探偵です」
「自称な」
クリスは意にも介さず続ける。
「そして――動機の可能性についてですが、まだ証拠は不十分とはいえ、私はこう考えています」
わざとらしくあごを指で押さえながら、クリスは静かに口を開いた。
「被害者の外見は、中年で、恰幅があり、髪が薄い方だった、で間違いありませんね?」
「ああ、そうだが……」
「やっぱり!」
もういいってと思う優介に気がつく様子もなく、ぱん、と三度小気味よく手を打つ。
「そういう人物は大抵“好色家”と相場が決まってます。」
「……当たってるが、偏見がひどいな。」
しかし、クリスは構わず続ける。
「となれば、犯人の動機が“異性に対する暴行”だった場合、狙われるのは容姿に恵まれた人物――
つまり、私がターゲットになっていても不思議ではありません」
「……被害者なのに、犯人にされてるぞ、かわいそうに。あと、お前、自分で言うのかそれ」
優介が呆れ顔で返しても、クリスはまっすぐ彼を見据えた。
「優介さん、冷静に考えてください。私は、容姿端麗で、賢くて、敬虔で、そして何より目立ちます。
そんな私を、犯人が放っておくと思いますか?」
「……逆に、放っておいたかもしれないな」
優介の皮肉も通じていないのか、クリスは胸を張って宣言する。
「つまり、犯人は!」
一呼吸おいて──
「……誰でしょう?」
体中の息が抜け切るほどの深いため息を吐いて、優介は脱力した。
【獲得称号】
二条院優介:助手(無許可)
クリスティアーナ:名探偵(自称)




