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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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表と裏(後編)

【称号】

二条院優介:看破せし者

京山緑:幼女詐欺

 

 優介は内心で「いい判断だ」と思う。状況の整理と先手の判断、緑の行動には理知的な冷静さがあった。


「鍵も戻したのか?」


「ええ。鍵なんて持ってたら、それこそ証拠そのものでしょ。誰も鍵の存在を確認してなかったから、後で引き出しに戻しておいたわ」


 あくまで淡々とした調子だった。だがその裏には、明確な計算と判断が透けて見える。


「だけど……透華さんだったのね。あの部屋に誰か入った形跡があるって気になってたのよ。ピッキングって、閉めることもできるなんて知らなかった。有益な情報ありがと。」


 優介はひとつ軽くため息をついてから、静かに言う。


「……じゃあお礼代わりにひとつ聞かせてくれ」


「いいわよ。内容によるけどね」


「お前……ほんとに10歳か? どっかで死んで記憶を持ったまま転生してきたりしてない?」


 緑はわずかに目を丸くしたあと、くすっと笑う。


「してないわよ。転生したわけでも、薬で小さくなったわけでもない。正真正銘、10歳の女の子だよ!お兄ちゃん!」


 わざとらしく表の顔で、にこっと優介に笑いかける。

 すぐさま感情を抜き、クールで妖艶な微笑を浮かべて、

「じゃ私からもひとつ質問。この話私にしてどうするつもり?

 私が殺人犯ですって言いふらしても誰も信じてもらえないと思うわよ?」


「まああえて言うなら、プレゼンかな。」


「プレゼン?」


「俺と組まないか、緑」


「ここを脱出するのに協力者が欲しい」


 緑が目を瞬かせた。ほんのわずかに首をかしげる。瞳の奥に浮かんだ光は、明らかに探るような色をしていた。


「……冗談じゃなさそうね。どうしてまた、私なの?」


 緑は眉をひとつ上げ、口元に笑みを浮かべる。

 そこにはわずかな好奇心が垣間見えた。


「お前が優秀だからだ」


「光栄ね。根拠を聞かせて貰えるかしら?」


「俺の部屋、見に来ただろ。それに、遊戯室も。芹香やゆみさん達ともうまく関係を築いてる。情報収集に余念がないし、脱出に前向きだ。それが行動に出てる」


「確かに、脱出したいとは思ってる。……ここの人たち、なんだかんだで状況を受け入れすぎてるもの。芹香ちゃんですら、危機感は持ってても、本当に帰りたいと思ってるのかは怪しいくらい」


 ふっと緑が肩をすくめる。


「それで? プレゼンはそれだけ? だったら、後日“お祈りメール”が届く未来が見えるわね」


「何が知りたい?」


「あなたの手の内。――“一緒に組む相手”に求めるのは、何ができるのか、よ」



 どう切り出すべきか、優介はしばし黙り込んだ。

 視線をわずかに落とし、緑の手元のぬいぐるみに目をやる。指先が、意味もなくその耳を撫でているのを目で追う。


 言うべきか。いや、いずれは話すつもりだった。

 だが、どの言葉から始めるのが最も適切か、それを探しているのだが、どう考えても上手く伝わる言葉が見つからない。


 諦めてそのまま目を閉じ、長く静かな息を吐く。


「……俺は、人の心が読めるんだ」


「へぇ、そう。」


「おい、何言ってんだこいつ、みたいな顔やめろ。」


 優介が肩をすくめて言うと、緑はくすっと笑いながら、今度はやや芝居がかった調子で言葉を続ける。


「あらすごい、ホントに読めるのね。」


「ちゃんと最後まで聞け」


 やれやれと首を横に振りながら、

 優介は淡々と説明を続ける。


「もちろん、思考が読めるわけじゃない。

 主に表情、その他の要素から、他人の心理を高精度で読み取ってるんだ。……“微表情”って、知ってるか?」


 問いかけに、緑は小さく頷いたあと、目を閉じ、こめかみのあたりを指先でトントンと叩く。


「FBAやCIAの情報機関でも訓練に使われている、人間の本心が一瞬だけ顔に表れる現象。

 たとえ嘘をついていても、怒り・恐怖・悲しみなどの感情は無意識に「0.05〜0.2秒」だけ表情に出てるため、これを読み取ることで、相手の隠された感情や嘘を見抜くことができる」


「……だったかしら?」


 優介は、わずかに目を見開いて言葉を探す。


「……お、おう」


 間の抜けた返事に、緑は肩をすくめて笑う。


「そんな本を読んだ記憶があったから、それを声に出しただけよ。ま、優介はそれが使えるって言いたいわけね。」


「…まあそうだ。だから、反応見ただけでお前がやったと言う確信は持てたんだ。」


「全てを話した様には見えないけど、一応、納得しといてあげる。それで、私には何をして欲しいの?」


 優介は少しだけ姿勢を正し、視線を緑に合わせる。


「小江を探ってほしい」


「小江さん? 探りたいなら、あなたのお得意の“読心術”とやらでやればいいじゃない」


 あっけらかんとした口調だったが、目だけが静かに揺れていた。


「……それができないから頼んでるんだ。あいつは間違いなく俺のことも、この能力のことも知ってる。だから、読み取れないように対策されてる」


「ふーん、意外と不便なのね。」


 緑はひとつ息を吐くと、ぬいぐるみの頭をぽんぽんと叩いた。


「……まあ、いいわ。とりあえず小江さんから情報を集めてくればいいのね?」


「ああ。ということは、俺は“合格”ってことでいいんだな?」


 からかうような問いかけに、緑はくすりと笑った。


「補欠よ。使えるところ、見せてくれるかしら?」


 その一言に、優介はわずかに笑みを返すと、 緑がひとつ大きく息を吐き、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ直した。そのまま少しだけ前かがみになって、優介をじっと見上げる。


 優介は黙って片手を上げた。掌を正面に向けて、すっと差し出す。


「……何その手?」


 訝しむように眉をひそめた緑に、優介は淡々と返す。


「ハイタッチだよ。学校で習わなかったか?」


「……幼稚ね」


「10歳に言われたくないな」


 口元にうっすら笑みを浮かべながら、緑は肩をすくめて、パシンとその手に自分の掌を重ねた。


 音は軽く、ほんのわずかに指先が跳ねるだけの接触だったが、その一瞬に、確かに小さな契約のようなものが交わされた気がした。


【獲得称号】

なし

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