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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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表と裏(前編)

【称号】

二条院優介:小江にも撃沈中

京山緑:芹香の暴露スピーカー

 食堂には誰もいなかった。


 長いテーブルの端に座り、頬杖をついたまま、優介は静かに思考を巡らせていた。

 視線は一点を見つめているが、そこに意識はない。


 先ほどの小江との会話、今後の展開、アプローチ方法。それらを頭の中で組み立てては、壊していた。


「……お兄ちゃん、なんでそんな難しい顔してるの?」


 不意にかけられた声に、優介はわずかに目を細めた。

 気配もなく、緑がすぐ隣の席に腰かけていた。足をぶらぶらとさせ、にこにこと笑っている。


「別に。ちょっと考えごとしてただけだ」


「ふーん。でもね、眉間にしわ寄せてると、しわのクセついちゃうんだよ?」


 そう言って、緑は手を伸ばして優介の眉間をぐいっと押す。

 優介は少し顔をそらしながら、その指先を避けた。


「お前な……」


「ほら、怒ってる~。怒った顔も面白いけど、笑ってる方がいいな。お兄ちゃん、いつも真顔なんだもん」


 全く悪気のない口調。

 むしろただの遊びの延長のようにしか思っていないのだろう。


 その屈託のない笑顔に、優介はかすかに肩の力が抜けるのを感じた。


「……あんまりいじるな。脳がこぼれる」


「えっ、ほんとに? こぼれたらどうしよう。床に落ちた脳みそって、洗えば使えるのかな?」


「お前はゆで卵か何かと勘違いしてないか」


「でもね、お兄ちゃんの頭の中って、絶対ちょっと変わってると思うんだよね~。なんか難しいことぐるぐる考えてそう」


 茶化すように、けれどどこか本気でそう思っていそうな目をして、緑はにこにこと笑っている。


「褒めてないことだけは伝わった。」


「でもでも、頭が良くて、冷たそうに見えて、実は優しい……って、モテるタイプだよ?」


「お前が言うと、あんまり信用できないな」


「ひどいっ! 緑の言葉、重みあるよ? 10歳の人生経験、なめないでほしいなあ」


「10年でそこまで悟られたら、俺の立場がない」


「じゃあ私の弟になる?」


「どういう理屈だよ」


 緑は机に両手で頬杖をつきながら、いたずらっぽく小首を傾げる。


「うーん……じゃあ、ペット?」


「なんで格下げされるんだよ」


「だってお兄ちゃん、犬っぽい時あるし」


「……猫派なんだが」


「うわ、意外!」


 心底意外そうな顔をして、緑はけらけらと笑った。

 それにつられて、優介の口元にも、わずかながら笑みが浮かぶ。


 足をぶらつかせ、無邪気にこちらを見上げてくる。まっすぐで、屈託がない笑顔。


 軽やかに振る舞う緑を見て、優介も左手で頬杖をついたまま、ひとつ欠伸をしたあと、視線を元に戻す。


「なあ、緑」


「何、お兄ちゃん?」


「殺したの、お前か?」


 緑の動きがピタリと止まった。


 緑は一瞬、何かを探るように優介の顔を見つめ、やがて笑みを浮かべたまま問い返す。


「……何のこと?」


「七番の部屋の死体のことだよ」


 その言葉に、緑のまぶたがわずかに動いた。だがその表情には、まだ曇りひとつない。


「どうしてそれを、緑に聞こうって思ったの?」


「部屋を開けた時の反応で、おかしかったやつが三人いる。透華、小江……それと、お前だ」


 優介は淡々と続ける。


「この三人は、中に何があるかを知ってるやつの顔をしてた」


「それだけ? なら、緑とは限らないんじゃないの?」


「ああ、そうだな。だから、聞いたんだ」


 緑の視線が、ほんの少しだけ揺れた。だが、すぐに口元にまた笑みを戻して問いかける。


「でもなんか……確信してるみたいに聞こえたけど?」


「確信してるからな」


 どこか冗談めいた言い方だった

 優介は微笑さえ浮かべながら、軽く、しかし逃げ場のない一言を落とす。


「俺は探偵でもなければ、警察でもない。推理を披露する気もなければ、証拠をかき集める気もない」


「わかればそれでいい。そういうことだ」


「でもまだ緑だと確信した理由を聞かせてもらってないよ、お兄ちゃん。」


 そう言って、緑は相変わらず足をぶらつかせながら、こちらを見上げてくる。


 優介は少しだけ息を吐いた。


「そうだな……」


 言葉を選びながら、静かに言葉を続ける。


「小江は、中を“見た”のは初めてだと言っていた。俺は、その言葉に嘘はないと思ってる。あいつは、ああいう嘘のつき方はしない」


「透華は、鍵を使って部屋に入ったことがあるはずだ。あいつの性格を考えれば、おそらく全員分の部屋にこっそり入ってる。だったら、あの部屋にも当然、足を踏み入れたはずだ」


「たぶん死体を見つけて、驚いただろうな。それでも銀貨と金貨を少し抜いて、部屋を出る時に鍵を閉めた」


「鍵を閉めたのは……まあ、透華なりの善意だと思う。開いたままだとすぐ発見される。発見が早ければ、それだけ場が混乱する。あいつはそういう計算ができる奴だからな」


 そこまで淡々と述べると、優介は再び緑に視線を向ける。


 数秒の沈黙のあと顔を上げたその瞳には、無邪気さのかけらもなく、その顔には大人びた、とても十歳とは思えない妖艶な笑みが浮かんでいる。


「――違うわ。金貨を持って行ったのは、私よ」


 声の調子も、目の奥も、1人称も、いつもの緑とは違っていた。



「……そうだろうな」


 優介は、静かに言葉を継ぐ。


「死因は頸動脈を切られたことによる失血死。けど、その前にスタンガンのようなもので動きを封じられていたと思われる。そんな武器、最初から持っていたとは考えにくい。――箱に入ってたんだろう?」


「……なに、それ。わかってたの?」


 緑が、少しだけ目を見開いた。


「ああ。得意げに語った内容が間違っていたら、訂正したくなるのが人間の性だからな。早めに認めさせたかっただけさ」


「性格、悪いわね」


「否定はしない」


 優介がそう答えると、緑はわずかに肩をすくめて、口元だけで笑った。


「そうよ。私がーー殺したの」


 声に後悔や躊躇はない。ただ淡々と、まるで日常会話のように。


「言っておくけど、私は悪くないわよ。あいつが私を襲ってきたの。殺されかけて……だから、私は身を守っただけ」


「……何で襲われたんだ? 顔見知りなのか?」


「そんなわけないでしょ。知らない男よ。急に、私の部屋に入ってきて、私の顔を見た瞬間――目の色が変わった」


 緑の声は淡々としていた。過剰な怒りも恐怖も感じさせない。ただ、冷静に状況を説明するその姿に、逆に現実味が帯びていた。


「何も言わずに近づいてきて、腕を掴まれて、ベッドに押し倒された。首を絞められて、息ができなくて……それから、スカートをめくられて、下着を脱がされそうになった」


 優介は黙ってその言葉を聞いていた。


「……偶然、スタンガンを持ってたのか?」


「これよ」


 緑は手元の猫のぬいぐるみを軽く掲げて見せた。


「中には、特殊なスタンガンと、小型のナイフが一本入ってるわ」


 なんでそんなものーーそう言いかけた優介の言葉を遮るように、緑は続けた。


「金貨三枚の箱に入ってたの。あいつが来る少し前に、私の箱を開けたばかりだったのよ。この館に来る前からずっと、このぬいぐるみは持ち歩いてる。だから間違いなく私のもの、私のお守り。あれがなかったら、私はここにいなかったわ」


 優介は数秒間、言葉を失った。だがやがて、静かに一つ息を吐いて言う。


「……なるほど。それで、部屋を変えたのか」


「ええ、そう。あいつのポケットに入ってた鍵、6番だった。つまり隣室。すぐに気づいたわ」


 緑は目を伏せながら、平坦な口調で続ける。


「凶器を持ってたことも、箱を開けたことも、誰にも知られたくなかった。だから、最初から私は隣の部屋にいたことにしたの。幸い、誰にも言ってなかったから上手くいったわ。」


 部屋を交換したから、手付かずの貨幣がそのまま手に入ったのか。


【獲得称号】

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