仮初めの日常
【称号】
二条院優介:ナンパ撃沈中
京山緑:盤面制圧幼女
水島芹香:デカ乳嬢ちゃん
四日目
コン、コン。
軽いノック音と同時に、外から控えめな声がして、優介は目を覚ました。
「優介、わたしよ。」
優介は小さく眉をひそめ、時計を確認する。その声に聞き覚えがある。扉を開けると、そこには芹香と緑が並んで立っていた。
「お兄ちゃんっ!」
先に飛び込んできたのは緑だった。ぱっと笑顔を浮かべ、優介の腕にぴとっとくっつく。
「やっと出てきたー。ずっとお部屋にいたでしょ? ごはん食べてないんじゃない?」
ーーああ、そういえば。
一日中考え事をしていて、食事するのも忘れていた。
「……ちょっと考え事してただけだ。そんなに心配するようなことでもない」
「あんなことがあったあとに、部屋に引きこもってたら誰だって心配すると思うけど?」
芹香はややそっぽを向いたまま、腕を組んでツンとした声で言った。
「心配してくれたってことか?」
「べ、別にあんたのことなんて、心配してたわけじゃ──」
「芹香ちゃんが、お兄ちゃんの部屋の前を三回くらいウロウロしてたんだよ?」
「こら緑! 余計なこと言わない!」
顔を赤らめて小さく怒る芹香の様子に、優介はほんの少しだけ口元を緩めた。
「……で、何の用だ?」
「何の用って……様子見に来ただけよ。あんたが部屋から出てこないから、緑が落ち着かなくて。ついでに私が付き添ってあげたの。こんな小さな子心配させるなんて何考えてるんだか。」
そう言いながらも、芹香の視線はちらりと優介の顔をうかがっていた。表情に疲れが見えないか、何か異常がないか――それなりに気にしているのが伝わってくる。
「悪かったな。でも別に、ショックを受けたわけでも、落ち込んでたわけでもない。考えることが、少しあっただけだ」
優介がそう言うと、芹香は小さく鼻を鳴らした。
「ふうん……ま、元気なら、それでいいけど。」
ご飯をひと口食べながら、芹香が不意に視線を寄越す。
「……それで? 一日こもって何か考えてたって言ってたけど。何か、わかったわけ?」
優介は箸を止め、少しだけ視線を横にずらした。
「気になることが多すぎてな。考えてたら、逆にわからなくなった気もする」
「は? 意味わかんないんだけど」
芹香があきれたように眉をひそめる。
優介は軽く咳払いをして、話題を切り替える。
「……それより、リバーシ。一度くらい緑に勝てたのか?」
優介の問いに、向かいに座っていた緑がパッと顔を輝かせる。
「えへへ、三戦三勝だよ! せりかちゃん、全然勝てないの!」
得意げに胸を張るその姿に、芹香は少しむくれたように目を細めた。
「練習に付き合ってくれるって言ったじゃない。自分はずっと部屋に引きこもってたくせに」
「悪かったよ……でも、練習してたら勝てるようになるのか?」
「なってみせるわよ。」
「そうか。」
芹香が赤くなって緑を軽く睨みつけ、緑がケラケラと笑いながらご飯を頬張る。そのやり取りを眺めていた優介から笑みが溢れ、心の中に柔らかなものが灯った。
今、目の前にある光景は、ひどく他愛ないものだ。言ってしまえば、ただの食事の場の雑談。けれど、こうした当たり前が、どれだけ薄い氷の上にあるものか、優介は理解していた。
笑える時間は、いつ終わるかわからない。誰が、いつ、どこで、どんな風に歪んでいくかもわからない。
優介はふと、想いを馳せる。
(……戻らないとな。)
唐突に、けれど抗いがたいほど自然に、そう思った。
本当の日常に。
こんなふうに笑い合える時間を、当たり前に過ごせる場所へ。
優介は手元の箸を置き、小さく息をついた。
状況は停滞しているようで、確実に進んでいる。
だからこそ、自分が何もしなければ、きっとこの笑い声も、優介の取り戻したい日常も、手のひらから零れ落ちてしまう。
優介が決意を固めたその時、
「……その顔、もう心配いらなさそうね」
優介は苦笑を浮かべた。
「悪かったな。余計な心配かけて」
芹香は一度だけ肩をすくめ、それから小さく鼻を鳴らした。
「ま、なんかあったら手伝ってあげるから。あんた一人じゃ心もとないしね」
その言葉とは裏腹に、口調はどこかそっけなく、けれどほんの少しだけ、柔らかさが混じっていた。
優介はふっと笑い、短く頷いた。
「ありがとう、芹香。」
【獲得称号】
京山緑:芹香の暴露スピーカー ← NEW
水島芹香:テンプレツンデレ ← NEW




