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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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28/66

仮初めの日常

【称号】

二条院優介:ナンパ撃沈中

京山緑:盤面制圧幼女

水島芹香:デカ乳嬢ちゃん

 四日目



 コン、コン。


 軽いノック音と同時に、外から控えめな声がして、優介は目を覚ました。


「優介、わたしよ。」


 優介は小さく眉をひそめ、時計を確認する。その声に聞き覚えがある。扉を開けると、そこには芹香と緑が並んで立っていた。


「お兄ちゃんっ!」


 先に飛び込んできたのは緑だった。ぱっと笑顔を浮かべ、優介の腕にぴとっとくっつく。


「やっと出てきたー。ずっとお部屋にいたでしょ? ごはん食べてないんじゃない?」


 ーーああ、そういえば。


 一日中考え事をしていて、食事するのも忘れていた。


「……ちょっと考え事してただけだ。そんなに心配するようなことでもない」


「あんなことがあったあとに、部屋に引きこもってたら誰だって心配すると思うけど?」


 芹香はややそっぽを向いたまま、腕を組んでツンとした声で言った。


「心配してくれたってことか?」


「べ、別にあんたのことなんて、心配してたわけじゃ──」


「芹香ちゃんが、お兄ちゃんの部屋の前を三回くらいウロウロしてたんだよ?」


「こら緑! 余計なこと言わない!」


 顔を赤らめて小さく怒る芹香の様子に、優介はほんの少しだけ口元を緩めた。


「……で、何の用だ?」


「何の用って……様子見に来ただけよ。あんたが部屋から出てこないから、緑が落ち着かなくて。ついでに私が付き添ってあげたの。こんな小さな子心配させるなんて何考えてるんだか。」


 そう言いながらも、芹香の視線はちらりと優介の顔をうかがっていた。表情に疲れが見えないか、何か異常がないか――それなりに気にしているのが伝わってくる。


「悪かったな。でも別に、ショックを受けたわけでも、落ち込んでたわけでもない。考えることが、少しあっただけだ」


 優介がそう言うと、芹香は小さく鼻を鳴らした。


「ふうん……ま、元気なら、それでいいけど。」





 ご飯をひと口食べながら、芹香が不意に視線を寄越す。


「……それで? 一日こもって何か考えてたって言ってたけど。何か、わかったわけ?」


 優介は箸を止め、少しだけ視線を横にずらした。


「気になることが多すぎてな。考えてたら、逆にわからなくなった気もする」


「は? 意味わかんないんだけど」


 芹香があきれたように眉をひそめる。


 優介は軽く咳払いをして、話題を切り替える。


「……それより、リバーシ。一度くらい緑に勝てたのか?」


 優介の問いに、向かいに座っていた緑がパッと顔を輝かせる。


「えへへ、三戦三勝だよ! せりかちゃん、全然勝てないの!」


 得意げに胸を張るその姿に、芹香は少しむくれたように目を細めた。


「練習に付き合ってくれるって言ったじゃない。自分はずっと部屋に引きこもってたくせに」


「悪かったよ……でも、練習してたら勝てるようになるのか?」


「なってみせるわよ。」


「そうか。」


 芹香が赤くなって緑を軽く睨みつけ、緑がケラケラと笑いながらご飯を頬張る。そのやり取りを眺めていた優介から笑みが溢れ、心の中に柔らかなものが灯った。


 今、目の前にある光景は、ひどく他愛ないものだ。言ってしまえば、ただの食事の場の雑談。けれど、こうした当たり前が、どれだけ薄い氷の上にあるものか、優介は理解していた。


 笑える時間は、いつ終わるかわからない。誰が、いつ、どこで、どんな風に歪んでいくかもわからない。


 優介はふと、想いを馳せる。


(……戻らないとな。)


 唐突に、けれど抗いがたいほど自然に、そう思った。

 本当の日常に。

 こんなふうに笑い合える時間を、当たり前に過ごせる場所へ。


 優介は手元の箸を置き、小さく息をついた。


 状況は停滞しているようで、確実に進んでいる。


 だからこそ、自分が何もしなければ、きっとこの笑い声も、優介の取り戻したい日常も、手のひらから零れ落ちてしまう。


 優介が決意を固めたその時、


「……その顔、もう心配いらなさそうね」


 優介は苦笑を浮かべた。


「悪かったな。余計な心配かけて」


 芹香は一度だけ肩をすくめ、それから小さく鼻を鳴らした。


「ま、なんかあったら手伝ってあげるから。あんた一人じゃ心もとないしね」


 その言葉とは裏腹に、口調はどこかそっけなく、けれどほんの少しだけ、柔らかさが混じっていた。


 優介はふっと笑い、短く頷いた。


「ありがとう、芹香。」

【獲得称号】

京山緑:芹香の暴露スピーカー ← NEW

水島芹香:テンプレツンデレ ← NEW

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