深夜の調査
二条院優介:ナンパ撃沈中
部屋に戻ると、優介は扉を閉め、背を預けるようにして壁にもたれた。
思考の渦が、ゆっくりと巡り始める。
静寂が心地よい。誰の声もない空間は、かえって現実を強く意識させる。
――三日目。
目を覚ましてから、もうそんなに経ったのか。太陽の光がないこの空間では、時間の感覚すら曖昧になっていく。
外界と遮断されたこの館。窓ひとつなく、外に続くと思われるドアも全て施錠され、自由な出入りは叶わない。
強制的に与えられた生活空間は、きれいに整ってはいるが、その整い方が逆に不自然だった。人間を“管理”するために用意された部屋。そう言っても差し支えない。
さらに“謎の箱”――金貨で開ける仕組みの木箱には、それぞれに縁ある物が入っていた。箱はゲームなのか、それとも何かの選別装置なのか。意味はわからないが、確実に“意図されたもの”だ。
銀貨の残りは、あと――数えて、何枚だったか。
ちらりと確認した限りでは、残りは50枚を割っている。人によって残りに違いはあるだろう。
そして、ここには十二人の人間がいる。
――今となっては、“いた”とすべきかもしれない。
あの七番の部屋で見つかった死体。肥満体型で髪が薄く、不潔な印象を残した男。名前すら知らないその人物が、首を裂かれた状態で発見された。
明らかに、事故ではない。他殺だ。
誰かが――この十一人の中の“誰か”が、その命を奪ったということだ。
無論、全員が口を閉ざしている。あるいは、本当に何も知らないのかもしれない。
けれど、そうでない可能性も……。
優介は目を閉じ、静かに息を吐いた。
時計の針はすでに深夜二時を回っていた。
静まり返った廊下を、一歩ずつ確かめるように進む。目的地は七番の部屋。緑の部屋を挟んで隣。昼間、死体が見つかった部屋だ。
誰にも告げずに、優介はひとり館内を移動していた。
夜更けの廊下に、足音だけが薄く響く。
館全体が静まり返っているこの時間、耳に届く音は、自分の呼吸と足音だけだった。
……どうしても、確認しておきたいことがあった。
あの部屋の鍵は、発見時すでにかかっていた。
最初は中からかけられていたのかと思ったが、
殺されているとなると話が違う。
誰かが部屋から出る際に、鍵をかけたのだ。
という事は鍵は誰かが持って行っていたのか?
それともうひとつ、あの部屋の金庫に残された貨幣はどうなっているのか――。
扉の前に立つと、少しだけ息を整えてから、静かにノブを回した。
中は変わらず、重い空気が支配していた。
換気扇があるおかげで匂いは幾分か薄れてはいたが、それでも微かに、死の気配が残っている。
ベッドには白い布団がかぶせられ、その下に横たわる人の輪郭が浮かんでいた。
佐伯と共に、床から慎重に持ち上げて移した男の遺体は、ベッドで乱れることなく静かに眠っているようだった。
目的は、部屋の鍵の所在。
死体が見つかったとき、この部屋は施錠されていた。だが、ではその鍵は今どこにあるのか――。
自室と同じ構造の引き出し。優介はその最上段を静かに引く。
中には、見慣れた形の金属鍵がひとつ。小さな番号札に「7」と刻まれている。
これは…どういう事だろうか。
優介は思案する。
――死体の発見時、鍵が扉に使われていたのに、今ここにあるのはなぜか。
もうひとつ確認しておきたいことがあった。
優介は金庫へと視線を移す。
金庫は、彼の部屋にあるものと同じ形式だった。
7番の鍵の隣にある備え付けの金庫の鍵で開けると、金属の蓋がわずかに軋む。
中には、数枚の貨幣が整然と並べられていた。
金貨――なし。
銀貨――ざっと見て五十枚ほど。
銅貨――十四枚。
少ない。
初期状態に比べて、明らかに銀貨の数が減っている。
金貨は生前にこの部屋の主が使った可能性もあるが、正確な使用履歴などわかるはずもない。
ただ銀貨に関しては、誰かが“意図して”持ち出したとしか思えない減り方だった。
こうして貨幣が目減りしているという事実が、強い異常感として胸に残った。
優介は、金庫を静かに閉じた。
そして、もう一度だけベッドの方向へ目をやる。
白布の下の膨らみは、まるでそこに「人」という概念だけを置いたようだった。
声も表情もなく、ただ無言で空気を支配している存在。
何も語らないまま、何かを問いかけてくるような静けさだった。
優介はゆっくりと部屋を後にする。
廊下へ出て、扉を閉じるそのとき――背後に残ったあの部屋の空気が、わずかに肌を撫でた気がした。
【獲得称号】
なし




