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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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日常という抵抗

【称号】

二条院優介:泣きつき依頼人

京山緑:盤面制圧幼女

佐伯蓮:透華と煙友

天ヶ瀬ゆみ:静寂を破りし者

真田一馬:アル中ギャンブラー

クリスティアーナ:宗教ガチ勢

「優介くん、すまないが……天ヶ瀬くんを部屋まで送ってやってくれないか」


 佐伯が穏やかに言った。


 優介は黙って頷いた。ゆみの手を軽く取り、彼女が歩調を合わせやすいようにゆっくりと歩き出す。


 途中、ゆみが何かを言いかけては飲み込むような仕草を繰り返したが、優介はそれを急かさず、ただ彼女の足取りに合わせて寄り添い続けた。


 部屋に辿り着くと、ゆみはベッドに腰を下ろし、小さく息を吐く。まだ顔色は悪かったが、体を起こしていられるだけの余裕は戻ってきたようだった。


「……ごめんなさい、優介くん。ちょっと……一人でいるのは、まだ…。」


 弱々しい声に、優介は「わかった」と一言だけ返し、彼女が落ち着くまで隣で静かに付き添った。




 やがて、ゆみがベッドに体を預け、眠りに落ちるように目を閉じたのを確認してから、優介は部屋を後にした。


 食堂へと戻ると、すでに全員が揃っていた。


 緑が心配そうにこちらへ顔を向ける。


「……お姉ちゃん、大丈夫?」


「ああ、だいぶ落ち着いたよ。今は部屋で休んでる」


 優介がそう答えると、緑はほっとしたように胸に手を当てた。


 その場には、優介の見覚えのない人物が一人いた。


 整った顔立ちに、どこか醒めたような眼差しの女。赤みのある長い髪が特徴的で、場の空気に馴染んでいないのに、どこか堂々としていた。


(……あれが、長月紅葉か)


 自己紹介の場にも姿を見せなかった二人のうちの最後の一人。ようやくその全貌が明らかになった、ということらしい。


 佐伯は一同を見渡しながら、静かに口を開いた。


「……集まってもらってすまない。だが、これは全員で共有しておかなくてはならないことだ」


 その声は低く落ち着いていたが、空気の温度を確かに変える重さを含んでいた。


「私たちは、ここに閉じ込められて三日目になる。これまでに、ここにいる九人と、今は部屋で休んでいる天ヶ瀬くん——あわせて十人と私は会ったことがある。だが、もう一人、鍵がかかった部屋から一度も出てこない人物がいた」


 佐伯はそこで一度区切り、言葉を選ぶように息をついた。


「流石に三日間まったく反応がないのは異常だ。そこで、透華くんに頼み、七番の部屋の鍵を開けてもらった」


 その言葉に、数人の視線が透華へと流れる。


「中にはやはり、人がいた。だが——生きてはいなかった」


 ほんのわずかな間を置く。場の空気が、さらに緊張を増した。


「それ以上に問題なのは、その人物が、おそらく“殺されていた”ということだ。詳しい状態については、優介くんに見てもらったが……外傷の状況などから見て、事故や病死の可能性は低い。明確に他者の手が加わっていたと考えていいだろう」


 静かに報告を聞いていたクリスティアーナが、そっと眉を寄せた。


「……殺された、というのは……本当、なんですか?」


 声は小さく、だが言葉を選ぶように慎重だった。


「そんな……ここで、誰かが誰かの命を……」


 視線が宙をさまよい、クリスティアーナは無意識に胸元の十字架を指先でなぞった。


 その祈るような仕草に、場の空気が一瞬だけ張り詰める。


 だが次の瞬間、真田がぽつりと呟く。


「でもよ。どんな奴だったかも知らねーし。

 死んでたんなら、もう終わったことじゃん?」


 あまりにあっけらかんとした口調に、クリスの眉がぴくりと動いた。


「……終わったこと、ですか? 命が奪われたんです。それを“終わったこと”で済ませるなんて……あまりにも、軽すぎます」


 言葉を選びながらも、その声は静かな怒りを孕んでいた。

 誰もすぐには反論できず、短い沈黙が落ちる。


「……いや。言い方はともかくとして、私も真田くんの意見には一理あると思っている」


 視線を全員に巡らせ、佐伯は続ける。


「そもそも私たちは、何者かによってここに監禁されている。

 言ってみれば――全員が、同じ境遇の“被害者”だ。

 そんな中で、仲間同士が疑心暗鬼になり、争い合うのは得策ではない。

 犯人探しを始めるべきではないと、私は思っている」



「それでは……どうするのですか?」


 クリスが口を開いた。

 その声は小さく震えていたが、迷いのない響きを持っていた。

 彼女は両手を膝の上にきちんと揃え、目だけを佐伯に向けている。


 彼女の指先は無意識に胸元の十字架を握りしめている。


 少しの間、誰も答えなかった。


 やがて、佐伯が静かに口を開く。


「……どうもしないさ」


 佐伯は両手を組んでテーブルに置いたまま、身体を少し前に倒すようにして周囲を見回した。


「そもそも、殺人があったかどうかにかかわらず、私たちが置かれている状況自体が“異常”だ。

 ……だからこそ、今みたいなときに一番やってはいけないのは、私たちが冷静さを失うことなんじゃないかと思う」


 佐伯は、落ち着いた口調で続ける。

 一つひとつ言葉を確かめるように、ゆっくりと。


「私は日常を続けたい。

 起きて、食べて、眠り、顔を合わせて雑談をしながら過ごす――その繰り返しこそが、私たちを守ると信じてる」

【獲得称号】

なし

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