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異世界に行ける可能性は微粒子レベルで存在している  作者: Lemuria


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19/66

出てきたら五連敗

【称号】

二条院優介:芸能オンチ

京山緑:芹香釣り名人 

水島芹香:ちょろいねっ

 

「……せりかちゃん先でいいよ?」

「ふん。後悔しても知らないから。」


 強気な口ぶりとは裏腹に、芹香がリバーシをちゃんと理解しているかはやや怪しい。


 挟んでひっくり返すだけの単純なルール。けれど、先行譲られてる時点で勝負は見えた気がした。

 けれど本人はまったく意に介さない様子で、石を一つ、盤上に置いた。


 序盤――芹香はわりと互角に渡り合っていた。だが、中盤に差し掛かる頃には明らかに差がつき始める。

 緑は無邪気に石を置きながら、じりじりと盤面を制圧していく。対して芹香は、選べる手がどんどん限られていき、気づけばほとんど打つ手がなくなっていた。


「……は?」


 そのひと言が出た時には、すでに勝負はついていた。


「はい、緑の勝ち〜!」


 明るく宣言された敗北。芹香は無言で盤を睨みつける。


「もう一回よ!次は勝つわ!」


 その声には、思った以上の熱がこもっていた。

 石を並べ直している最中、隣に座っていた優介が、何気なく言葉を投げた。


「さっき部屋から出てきた時、勝って当然って顔してたよな。」


 芹香は石をつまんだまま、ぴたりと動きを止める。


「……してない。」


「してた。“私がこんな子に負けるわけない”みたいな顔だった。」


「思ってない。」


「じゃあ今、その顔は何?」


「……見ないで。」


「見てないと面白くないだろ。」


 芹香はふてくされたように石を置いた。その手つきは妙に力が入っていて――そして、どこか悔しそうでもあった。


「……やっぱ負けず嫌いだな。」 


「ちがう。」


「そうか、違ったか。……でも、勝ちたいんだろ。」


「…………うん。」


 その返事は、小さくて、けれど確かな音で優介の胸に届いた。

 ――少しだけ、距離が縮まった気がした。



 盤上に、硬い音を響かせて白石が一つ、置かれた。その指先には迷いがなく、表情は真剣そのもの。

 芹香はリバーシの石の裏表を、睨みつけるように見つめていた。

 そんな彼女に向けて、優介はふと口を開いた。


「……今まで部屋に閉じこもってまで、何をそんなに警戒してたんだ?」


 唐突な問いかけに、芹香は眉ひとつ動かさないまま、手元の石をつまみ上げる。


「するに決まってるでしょ、こんな状況で。」


「まあ….たしかにな。最初は俺も、天井に手を向けてステータスオープンって言ってたぞ。」


「それ、笑うところ?」


「いや、悲しい現実として共有しようかと。」


 石を置く音が、ぴたりと盤面に響いた。


「誰が仕組んだのかもわからない、閉ざされた場所。お金代わりの金貨だの、自販機だの……妙にシステムだけ整ってるのも不気味。バカでも“まともじゃない”ってわかるようにできてるわ。」


 芹香は少しばかり声を荒げ、一息に捲し立てる。


「まあ、俺も最初は似たようなこと思った。というか今も思ってるけど、なんか……だいぶ慣れたな。」


「それが一番危ないって言ってるの。」


 すぐさま返ってきた言葉に、優介は軽く眉を上げた。


「危ない?」


「理不尽に慣れるってことは、判断力を捨てるってこと。思考停止して、“そんなもんか”で済ませるようになったら終わりよ。」


「……なるほど。」


 素直に肯定しながらも、優介はその冷静さに少しだけ感心する。


 だが芹香の視線は、依然として盤上から動かない。


「ちゃんと勝負には全力なんだな。」


「……当然でしょ。」


「遊びだし、力抜いても――」


「手を抜かれるのが一番ムカつくの。」


 きっぱりと断ち切るような口調。

 だが、そこにはただの負けず嫌い以上に、礼を持って勝負に臨む姿勢が垣間見えた。


 優介は少しだけ口元を緩めた。


「じゃあ、もし緑に二連敗したら、どうする?」


「……する前提で話さないで。」


「いや、もうこれ勝ち目ないし。」


「うるさい。」


 そう言いつつも、芹香の口元にはごくわずかな、柔らかな線が浮かんでいた。


 そのまま石を一つ置き、手を止めずにぽつりと続ける。

「……出てきたのは、緑がしつこかったから。それだけ。」


「でも、話すのは拒まなかったな。」


「……返事くらいはするわよ。礼儀として。」


「じゃあ俺もその“礼儀”に預かってる感じか?」


「さあ。あなたの分までは、サービスかもね。」


 けれどその言葉の先には、わずかな冗談の響きが混じっていた。


 優介は改めて、盤面を眺めた。緑の指が軽やかに盤を支配していく様子に、芹香はほんの僅かに眉を寄せた。


「……もう一戦。次は負けない。」


 言葉の端に、静かな闘志が滲む。





「……なんで勝てないのよ。」


 緑の5連勝がかかった勝負の結果は、見事に今回もほとんど黒に覆われている。


「五連勝ーっ! えへへっ!」


 盤の向こう側で、緑が無邪気に笑っている。


 対戦するたびに勝ち続けている彼女は、そのたびに嬉しそうに笑っていた。素直な感情表現に優介は苦笑しながら視線を横に移す。


 芹香は納得いかない様子で、リバーシなんて角を取れば勝てるゲームでしょとかブツブツ呟いている。


(まあ、今のままじゃ勝てる見込みはなぁ…,)


「じゃあ、次はお兄ちゃんの番だよね?」


 緑がくるりと振り返ると、いたずらっぽく笑い、芹香を蹂躙したその矛先を優介に向けてきた。


「ああ、そうだな。さっきそう約束したっけな。」


「ふふ、緑とした約束、ちゃんと守ってくれるんだね。えらーい!」


「……いや、なんだその褒め方。」


 軽口を交わしながら席に着くと、手元にあった石を指先で弄ぶ。


 ――どうするか。


 本当なら緑に勝ちを譲って、場を和ませるくらいがちょうどいいのかもしれない。

 純粋に楽しんでるみたいだし、そこに水を差すのも悪い気はする。


(……)


 ふと、芹香の方に視線を向けると、彼女は裕介の隣に立ってこちらをじっと見ていた。


 ――「手を抜かれるのが一番ムカつくの。」


 先ほどの芹香の言葉が優介の脳裏に浮かぶ。


「じゃあ、いくよ?」 


「ああ。……芹香の敵討ちでもしてやるか。」


「え?」


「さ、はじめるぞ。」


 緑が不思議そうに首をかしげた。

 白と黒の石が交互に置かれていく。





「……う、うそ。負けた……?」


 緑は素直に目を丸くして、優介を見上げていた。


「まあ、こんなもんだな。」


「お兄ちゃん、強い……ずるい……!」


「ずるくないだろ。」


 優介が笑うと、そのやり取りの横から、ふっと小さな吐息が聞こえた。


「……やるじゃない。」 


 隣で盤面を見つめたままの芹香が、少しだけ目を細めて言った。皮肉交じりに響くその声に、優介は肩をすくめて返す。


「手抜きされると嫌って言う人がいたからな。」


「殊勝な心がけね。」


「うぅ〜……緑、絶対リベンジする……! 明日までにめちゃくちゃ勉強するから!」


 緑はくやしそうに唇を尖らせて、もう一度盤面を見つめていた。その横で、優介が石を戻そうとしたとき、芹香がぽつりと声を落とした。


 そのとき、不意に芹香が口を開いた。


「……あんた、あとで少し時間ある?」


「ん? まあ、特に予定はないけど。」


「……このゲーム、ちょっとだけ教えて。あたしにも。」


 優介は少しだけ意外そうな顔をし、それからにやりと笑った。


「お、素直に頼ることもできるんだな。」


「頼ってるわけじゃない。……自分で勝てるようにしたいだけ。」


 芹香は顔を背けながら言った。けれどその声は、さっきまでのピリついた調子とは少し違って、どこか柔らかかった。

【獲得称号】

二条院優介:幼女キラー ← NEW

京山緑:盤面制圧幼女 ← NEW

水島芹香:5連敗ガール ← NEW

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