優介と緑の扉開けチャレンジ
【称号】
二条院優介:芸能オンチ
京山緑:テレビっ子幼女
水島芹香:勝手に入られた人
朝の気配で目を覚ました。一瞬、ここがどこかを忘れる――そんな感覚も、もう薄れてきた。時計を見れば、午前九時過ぎ。大体昨日と同じような時間に、目が覚めてしまった。
起き上がり、寝ぼけた頭で身支度を始める。昨日まで使っていなかったユニットバスのシャワーを、初めてちゃんと使ってみた。蛇口からは意外にも温かい湯が出た。
水圧は低い。ホテルならクレームものだ。
鏡の前で軽く髪を整え、歯を磨き、顔を洗う。
どこかで“生活する”という感覚が、もう当たり前になりかけている……そんな自分に気づく。
着替えを終えながら、ここまでの二日間を思い返す。
少しずつだが、関係性は築けてきた。
ゆみさん、緑、佐伯さん、晃。
接点がある者たちとは、それなりに言葉を交わせるようになってきている。
ただ、全員と話せているわけじゃない。
――もう三日目だというのに、顔すら合わせていない人物が二人いる。
これはそろそろ、さすがに問題かもしれない。
少しずつでも情報を集めていかないと、状況が掴めなくなる。
相手が何を考え、どんな動きをしているのか。
今後不測の事態に備えるために最も必要なのはそういう情報だ。
とはいえ、その前に話しておきたい相手がひとり。
芹香。
透華との口論以降、ずっと部屋に籠もったままの彼女と、ちゃんと話をしておきたい。
彼女にとってもこのままずっと孤立しているのは非常に良くないと思う。
ただ、問題は…。
あの引きこもりっぷりでは、こちらから話しかけに行ったところで門前払いになるのがオチだろう。
「どうしたもんかな……」
そんなことを考えながらドアを開けた瞬間だった。
「あっ、おはよー、お兄ちゃん!」
「――うわ」
目の前にいたのは緑だった。思わず反射的に声が出た。
緑はぱっと笑い、軽く手を振る。その元気で明るい声が、ぼんやりしていた頭を少しだけ覚ましてくれた。
「今日も探検か?」
「うん。今日は遊戯室をもう一回探検しようと思ってたんだ!」
優介は小さく頷くと、明朗快活な緑の笑顔をみて、ふと閃いた。
「なあ、緑。」
「ん?」
「一緒に芹香に会いに行かないか。」
緑は少しだけ目を丸くした。
「……お兄ちゃんが、芹香ちゃんに?」
「いや……ちょっと、気になっててな。話がしたいけど、俺ひとりで行ってもたぶん開けてくれないだろ。緑が一緒なら、少しは違うかなって。」
「へえー、お兄ちゃん、芹香ちゃんのこと、ちょっと気になってるんだ?」
「別に変な意味じゃない。ただ、せっかくこうして一緒に過ごすことになったんだし、少しくらい話せたほうがいい。」
「ふーん、ふーん、なるほどねぇ~。」
緑は意味ありげにニヤニヤしながらこちらを見上げてくる。
「……何。」
「んーん、なんでもない。いいよ、一緒に行こう!あ、そのあと、緑と遊んでくれるよね?」
「何して?」
「リバーシ!」
「断ったらどうなる?」
「泣く!」
「それは面倒だな……わかった、やるよ。」
「やった!」
緑は軽やかに踵を返し、すぐに歩き出す。
「芹香ちゃんの部屋、こっちだったよね。」
「よく覚えてるな。」
ふたり並んで歩く廊下は静かで、足音だけが軽く響く。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「なんだ。」
「お兄ちゃん、芹香ちゃんのこと、可愛いって思ってる?」
「……どうでもいいだろ、それは。」
「ふふ、照れてるー。」
「別に。」
そんなやりとりを続けながら、ふたりは芹香の部屋の前にたどり着いた。
「じゃあ、緑が呼んでくるね。」
「頼んだ。」
軽く頷くと、緑は扉をトントンと小さく叩き、優介の隣でにこにこと笑い続けていた。
「せりかちゃーん、あーそーぼー!」
反応はない。それでもめげる様子もなく、もう一度、トントンと軽くノック。
「せりかちゃーん、いるんでしょー? 遊ぼうよー!」
三度目のノックのあと、ようやく内側から声が返ってきた。
「……遊ばない。帰って。」
ピシャリとした短い返答に、少しだけ空気が冷える。
「お兄ちゃんが話したいってー!」
緑が突然こちらに振ってくる。完全な無茶振りだった。
「……あー、うん。まぁ、ちょっとだけでも話してもらえたら嬉しいかな。」
苦笑しつつ、便乗する形で声をかける。だが、返ってきた声は冷淡だった。
「話す気ないって言ってるでしょ。」
言葉の切れ味は鋭い。緑はまったく気にした様子もなく、すぐに切り返す。
「じゃあ、緑だけでもいい!」
譲歩しているようで、まったく譲歩していない提案だ。
「……興味ない。」
再びピシャリ。
しばらく沈黙が流れる。それでも緑はめげず、変わらない調子で扉をトントンと叩きながら、明るく声をかけた。
「お昼ごはん、一緒に食べよー?」
「いらない。」
「じゃあ、リバーシで勝負しよ! 緑が勝ったら、一緒にごはん食べて!」
「……扉越しにどうやってやるのよ。」
冷静なツッコミが返ってくる。至極もっともだ。
「じゃあ、出てきて!」
「出ないって言ってるでしょ!」
芹香の声が少しだけ強くなる。優介は肩をすくめつつ、口を挟んだ。
「まあまあ、そこまで拒否しなくてもいいだろ。たまには身体も動かしたほうが、気も晴れるんじゃないか?」
緑がすかさず、とんでもないことを言い出した。
「お兄ちゃんがね、閉じこもってばっかりだと胸がしぼむかもしれないって!」
「いやいやいや、言ってない。俺そんなこと一言も言ってないから!」
すかさず否定したが、扉の向こうから黒い気配のようなものが伝わってくる。おそらく、芹香の機嫌は今のひと言で一段階悪化した。
「じゃあせめて、リバーシしよ!」
「出ないって言ってるでしょ!」
「負けるの怖いの?」
言葉を切るタイミングすら与えず、緑はじわじわと煽っていく。
「は? 別に……怖くなんかないし。」
芹香の反応が、やや食いつき気味になる。
「じゃあ勝負しよ? 負けたら一緒にごはん!」
「……意味わかんない。」
「ねえお兄ちゃん、せりかちゃん、もしかして弱いのかなぁ?」
緑がわざとらしく振ってくるので、優介も合わせてやる。
「んー、出てこないってことは……やっぱり、負けるのが怖いのかもなあ。」
「うわ、はっきり言っちゃった」
その瞬間――
「はぁ!? 負けないから!!」
叫ぶような声とともに、扉がバンッと開いた。
開いた扉の先に立っていた芹香は、顔を真っ赤にしながら睨みつけてきた。
優介は視線を逸らさず、ぽつりと呟いた。
「……ちょろいな。」
「ちょろいねっ。」
隣で緑がにっこり笑って、うんうんと頷いた。
【獲得称号】
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