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ビンタはとっても痛いんです。

俺と武流はいま、甲冑姿の兵士に追われていた。



「なんなんだよあれ、誰かっ……!!」


「いったァァ!? ぐっ……!」



学校中に響き渡る悲鳴と怒号。

そして、その中には斬られて

苦しんでいる人の声も、聞こえていた。



「なぁ、どうする?このまま走っても意味ねぇぞ!」


「はぁ…はぁ…とりあえず、裏門の方に行こう!それで、警察にーーー」


「たす…けて……!」


「「!?」」



走っていた前方に、血だらけで倒れている女子生徒が、泣きながら俺らに気付いて助けを求めていた。


まずい、ここで立ち止まったら3人とも殺られる…っ!


どうしようと焦る武流に俺は走りながら背中を押した。



「武流!俺が囮になるから、あの子を頼む!」


「え!?お、おい陽介!!」


「おい!こっちだ!!」



俺は武流に視線が向かないよう、走ってくる兵士の正面に立ち、声を上げて誘導した。 すると、たまたま走ってくる兵士の兜が傾いて、その素顔が露わになった。



「え!?」



こいつ・・・よく見たら、人間じゃない!

教室から見たときは、甲冑の兜を深くかぶっていたせいで気が付かなかった。


でも、今は違う。

甲冑の隙間から、黒く変色した肉と、覗く骨、両目は眼球をくり抜かれていて、空っぽだ…


見た目からしてゾンビのような兵士だった。



「ゾンビのくせに、走ってくるとかアリかよ!!」



けれど、そんなことを言ってる場合じゃない。 俺はゾンビ兵に向かって声を上げ、何とかこっちに視線を向けさせようとした。

すると、さっきまでたた追っているだけだったゾンビ兵士が、少し立っている位置をずらしてみると、こちらに向かって進路を変えてきたのだ。


よし、来た……!


俺は深呼吸をして、ゾンビ兵の動きを見計らいながら

一気に、身体を左の通路に方向を変えた。


金属が軋むような足音が遠ざかっていくのを背中に感じつつ、俺はがむしゃらに走る。あのゾンビ兵、確かに進路を変えた……!


よし、このまま距離を取って、あとはどこか隠れる場所はーーー


俺は曲がり角まで来たところで、ある教室に目が向いた。

その教室に急いで入り、身体を小さく屈めて呼吸を整えた。


はぁ…はぁ…くそ……っ、心臓の音がうるせぇ


壁に耳をすまして、遠くから甲冑が擦れるような音が

どんどん近くまで聞こえてきていた。


大丈夫…距離は取っていたし、ここに居ることは気づいていない。


俺が入ったのは写真部の暗室。

幸いにも鍵が空いていたおかげで暗室に入り、

黒いカーテンで身を隠していた。



ガシャン…ガシャン…ガシャン…



……行った、か?

足音が去っていったのを確認し、

壁に寄りかかって深く息を吐いた。



「はぁぁぁ〜…武流は上手く逃げられたかな?」



不安はあるが、あいつは運動神経抜群だから

きっとあの女の子を連れて上手く逃げ切れていると信じたい。


俺は…ここから出て、村上と話さないと。

ゾンビ兵士の足音は消えたみたいだし、

今なら出ても大丈夫だろう…


俺は暗室の扉に手を掛け、ゆっくり開けたーー



「おぉ、陽介!ようやく見つけたぞ!!」


「&@‘!#(\☆{:!?」



あまりに突然のことで言葉が出なかった。

俺の目の前に、マーモットこと清正が現れたのだ。



「………はっ!ちょ、こっちこい!」


「おぉ!なんだなんだ!」



ピシャッ!

清正を鷲掴みして、暗室の扉を閉めた。



「なんであんたがここにいるんだ!?」


「なんでって…陽介、鍵を閉め忘れて行っただろ?」


「………へぁ?」


「あ、代わりに我が戸締まりしておいたから安心せい!」


「そういう問題じゃねぇ!!! 」



俺は清正の登場にさっきまでの緊張感が抜けたせいででかい声を出してしまった。



「やばっ……!」



咄嗟に口を押さえ、再度壁に耳をすました。



「安心せい。ここにはおらんよ。」


「清正、分かるのか?」


「あぁ、あやつらは気配を隠す術を持たないからな。すぐに分かる。」



すげぇ、そんなことが分かるんだ。

ちょっとだけ見直した。



「なぁ、あのゾンビ兵何者なんだ?あれも転生した武将なのか?」


「いいや、あれらは”くちびと”だ」


「”くちびと”?」


「あぁ…あれらには意思や魂などない。死してもなおただ動き回る人外だ。力の強い者は自らの力を使って、くちびとを支配下に置くのだ。」



本当にゾンビみたいだな。

そんなヤバい奴らを村上が操ってるのか……。



「くちびとを止める手段は、ただ一つ。」


「なんだ?」


「操っている首謀者を倒すことだ」


「それって……」


「武将の魂を鎮めるのだ」



俺の手で……村上を……


さっきまで村上を見つけて、

会って話しをしたいとは思っていた。

けれど…まだ鎮め方も知らない俺に何が出来る?

じいちゃんだったら?じいちゃんのせいでーーー



バチンッ!!!



「しっかりせい!!」



パシンッと音がして、思わず目を見開いた。

清正は俺を睨みつけながら、一歩踏み出すように言葉を続けた。



「ウジウジ考えるな!陽介、確かにお前の祖父は禁忌を犯した。理不尽だと言うのも分かる……だがな!」



俺は……動物からビンタされた衝撃で思考が停止していた。けれど、それ以上に清正の眼差しが真剣で、真っすぐだった。



「お前の祖父がいない今、この状況を打破出来るのは、陽介……お前しかいないのだ!お前が動かなきゃ、皆死ぬんだぞ!!」



「!!」



そうだ……逃げても、誰も救えない。

話し合ったところで、その先を考えてなかった俺が甘かったんだ。



「ははっ……まさかマーモットに叩かれる日が来るなんてな…」


「だからまぁ〜もっとではーーー」


「ありがとう…清正。ちゃんとしないとな。」



俺は……”もう”誰も失いたくない。

こんな訳分からん事、さっさと終わらせてやる。


決心が付き、清正を抱き抱えながら立ち上がった。



「行くぞ!清正はしっかり掴まってろよ!」


「おう!援護は任せろ!」


「……いや、何もしなくていい。」


「なに!?」



俺は暗室の扉を開けて、走り出した。



「待ってろ村上……!必ずお前を助ける!」





ーーーーーーーーーーーーーーーー




その頃、村上はというとーーー




「あっはは♪」



逃げ惑う生徒たちを容赦なく斬りつけていた

狂気的に笑うその姿は、まるで壊れた人形のように感情が欠落していた。



『ユ……ウ、マ…(……ユウマ)』


「なんですか?せっかくいい気分なのに邪魔しないで貰えます?」



村上が話す相手は自身の先祖、村上義清だ。

しかし義清の姿は見当たらない。

どうやら、僅かな力を使って村上の中から

話しかけてきたようだった。



『ヤメロ…コレ、イジョウは…危、ケンだ…』


「も〜何言ってるかさっぱり分かりませんよ!」



すると、振り回していた刀を下ろし、

村上はため息をついた。



「しょうがないな〜少しだけですよ?」



そう言って村上は壁にもたれかかり、目を閉じた。

周囲の喧騒がふっと遠ざかる。

意識が深く沈んでいき、身体の感覚が霞む。



「ふう……」



――気がつくと、そこは薄く青白い光が差す空間。

視界の周囲には、白いカーテンのような半透明な布が風もないのにゆらゆらと揺れていた。



「ほら、ここに来てあげたんですから

さっさと話してください。」



静かで、冷たい…深海の底のような空間。

ここは、内に囚われた魂と向き合うための”幽縛(ゆうばく)”――

本来は、魂同士が対等でいられるはずの場所――

だが今、そこには力関係が明確に存在していた。



「くっ……ゆう、ま」



だがそこにいたのは、鎖に囚われ、

膝をついたボロボロの男――村上義清だった。



「お主、何をするつもりだ…!こんなこと……我は望んでーーー」


「貴方が望んでなくても、僕が望んだことだからいいじゃないですか。それに、貴方より僕の力の方が強いんだから黙って見ててくださいよ。」


「お前は…力の使い方を見失っている……こんなことのために、我の力を…授けたつもりは…ないっ!」


「”こんなこと”?」



村上はそう言うと、ゆらゆらと義清に近づき、そして義清の腹部を思い切り蹴飛ばしたのだ。



ドゴッ!


「がはっ!」



鈍い音が幽縛の空間に何度も響き渡る。

村上は表情を変えず、容赦なく義清を痛めつけた。



「なーにーがー”こんなこと”なんですかー?

僕のこと馬鹿にしてますー?自分が弱いからってーひがむんじゃねぇーよー!」


「ぐぁ…やめ、がぁ!」



口から吐血し、意識も朦朧としていた。

少し落ち着いた村上は蹴るのを止めて、

不意に頭上を見上げた。



「あ〜、なんか僕の周り騒がしくなったな。そろそろ行かないと。”あいつら”見つけてくれたかな〜?」



すると、村上の身体が下から光の粒のように徐々に消えていた。そして息をするのも限界な義清に笑顔で手を振った。



「じゃあまた…じゃないか。さよなら、僕のご先祖さま♪」



スっと消えて行った村上。

ガクンと頭を下げ、ポツリと呟いた。



「どうか…この身を消してくれ……」



義清の意識が闇に沈む中、村上は再び目を覚まし、

血に濡れた校舎を歩きだした。



「さて、再開しますか〜!」



その時、村上の背後から何人かの叫び声が聞こえた。



「武流!俺が囮になるから、あの子を頼む!」


「え!?お、おい陽介!!」


「あれは……」



振り向いた先には村上には馴染みのある二人の友人が走り回っていた。



「陽介くんと、武流くん?」



話しかけようとして、彼らの方へ向かおうとしたが、

既に遠くへ逃げていたため、少し残念そうにしながら

村上はふと、校門前から見た陽介を思い出していた。



「もしかして、陽介くんが僕の”救世主”……だったりして?」



クスッと笑い、何故か嬉しそうに死体の周りを踊っていた。



「陽介くんは生き残ってほしいな〜早く会いに来てよ……待ってるよ、陽介くん♪」





力を欲した少年と、力を託された少年。

その運命が交差するまで、あとわずかーーー





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