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ちょっと、ヤバいかも?

「弁当、教科書、財布、スマホ……っと。」



月曜日、俺は学校に行く支度をしていた。

この土日で色々あったせいで、全然休めなかったなぁ…



『臨時ニュースをお伝えします。

本日未明、滋賀県近江八幡市にて、

突如として“安土城”と見られる巨大な建造物が出現。

さらには、建設にかかった時間は、わずか“1週間”だったという驚きの事実が判明しましたーー』


「うわ~…むちゃくちゃだな。」




相変わらず武将関連のニュースが話題だ。

はぁと溜息をつき、朝のニュースを横目に、

リュックを背負って玄関に向かった。




「さて、行くか」


「おう!参ろう参ろう!」


「………なんでリュックに入ってんだぁ?」




今までのくだりからどうやって入ってきたんだよ!?

清正はリュックの口から顔を出し、

ワクワクした様子で短いしっぽを振っていた。




「お主が厠に入っていた間にだなーー?」


「そうじゃない。なんで一緒についてこようとした?」


「いや~現代の生活はどんなものか知りたくてな?

邪魔はしないから、安心せい!」


「ぜっっったいダメ!!!」




リュックに手を突っ込み、清正を引っ張り上げた。




「いいか?お前はここにいろ!もし学校にお前を連れてって、知り合いにバレたらどうなると思う!?」


「だから動かないようにーーー」


「学校にぬいぐるみを持ってくる痛いヤツって思われるんだよ!!」




俺は平穏な学校生活を望んでいるんだ。

だから、こいつの妨害は何としても阻止したい!


だが、そんな俺の思いとは裏腹に

清正はぽかんとして首を傾げた。




「痛いヤツとは、何のことか?」


「そこかよ!?……え~っと、つまり周りから変に思われるって意味で――」


「ほぉ、陽介は人の目など気にしているのか?」


「えっ?」


「己のやりたいことをして何が悪い。言いたい奴には言わせておけばいいだけだろ?もしそれで気に入らん奴は斬ればよいだけだ。」


「お前……それ現代じゃアウトなんだよ!?」




うわ~こんなところでジェネレーションギャップが出てくるのかよ!


何とか説得しようと思ったけれどスマホに表示された時計を見て、時間が無いことに気付いた。




「やべっ!遅刻する!とりあえず、清正はここにいろよ!いいな!」


「あ、こら陽介!」




ピシャッ!!




何とか無理やり言いくるめて、玄関を出た。

全く…朝から疲れるよ。

俺は学校に向かって走り出した。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




キーン、コーン、カーン、コーン




「ま、間に合った…」




息を切らしながら何とか教室に着いた俺は

自分の席に座って一息ついた。




「おう、陽介!珍しいな~お前がギリギリで来るんなんて」


「武流か、まぁ色々あってな。」




俺に話しかけてきたこいつは、比留間(ひるま) 武流(たける)


俺のクラスメイトで中学からの友人。

一言で言うとノリだけで生きている男。

まぁでも良い奴だから俺もよくつるんでいる。




「ところでさ!ニュース見たか!?なんか武将?が暴れてるらしいよな!」


「うん、どのニュースのことを言ってるか分からん。」


「全部だよ全部!すげぇよな~転生ってマジであるんだからさ、漫画みたいな感じだよな!」



「まぁ…そう、だな」




その転生させた張本人が俺のじいちゃんだとは

絶対に言えない…!俺は冷や汗をかきながら、

武流の話を聞いていた。




「なぁそういえば隣クラスの村上って知ってる?」


「ん?あぁ、1年の時一緒のクラスメイトだった村上だろ?あいつがどうした?」


「なんか、あいつの親父が働いてる会社が、その武将に襲撃されたらしくて、村上の親父さんが重症らしいぜ?」


「え!?そう、なのか?」


「結構酷かったって聞いた…ニュースにも出てたし、村上のやつも父親が心配だからって暫く欠席するらしい……」




俺は、武将が襲撃した話を聞いて複雑な気持ちになった。




村上こと、村上優馬(むらかみ ゆうま)は1年の頃、

席が近かった事もあって、よく話しかけていた。

特に村上とはアニメとか漫画の好みが似ていたから、

いつもその話で盛り上がっていた。



根は良い奴だけど、引っ込み思案の性格のせいで、

カースト上位の奴らにいじめられていたことがある。



靴や教科書を隠されたり、荷物を持たされたり、

酷い時は体育館裏に呼び出されて殴られていたこともあった。



しかも見えないところを目掛けて殴ってきたこともあって

だいぶ悪質ないじめを受けていた…。



まぁそれを目撃したら都度、俺と武流で止めてたり、

チクっていたから幸いにもいじめはそこまで

長く続かず、次第になくなっていった。



2年でクラスが離れたことで、最近は交流がガクンと減っていたけれど、時々会うと1年の頃のように、アニメの話をしていたから元気そうだなと安心していた。




その村上のお父さんが、じいちゃんの禁術のせいで、

酷い怪我をして、村上を傷つけてしまったんだ。

じいちゃんのせいとは言え、対処できるのが

俺しかいないから、どのみち俺の責任でもある。



他人事じゃ…ないんだ。



こんな身近なところにまで武将の脅威と危機が

迫っているんだと改めて罪悪感を感じだ。




「陽介?どうした?」


「いや…なんでもない。そろそろHR始まるぞ。」


「うわ!やべっじゃあまた後でな!」




武流はそう言うと自分の席に戻っていった。




「…………」





ーーーーーーーーーーーーーーー




カリカリ……カッカッ




教室に静かに響くチョークの音。


先生の手元だけが黒板の上をすべるように動いている中、俺は村上の両親が被害にあった事件のニュース動画を字幕付きで見ながら考え事をしていた。




『○○県△△市にて、また武将の仕業と思われる事件が発生。この事件で少なくとも5人が死亡。30人以上が負傷したとの情報が入りました。』


『爆発のような音と逃げる人の悲鳴がたくさん響いていたから何事かと思ったら、まるでテロだよ…』


『今後どうなってしまうのか不安です……』




「………」




俺があいつらに対抗するためには

魂を鎮める力を身につけないといけない…

けれど、どうすればその力を出せるんだ?



これまで魂は時々視えてたとしても

近寄らないようにしてただけで、

それをどうするかとか考えたこともなかった。


………待てよ?これまで悪霊や魂の変化には

俺が”意図的”に避けてきていたんだ。


てことは逆に、”意識的に向き合う”ことで

きっかけを作れば……!



バシッ!



「いてっ!」


「水紋、授業中にスマホを見るなよ~はい、没収な。」


「あ……すんません。」




気が付くと担任の原田先生が俺の横に立っていた。

くそ~!考えがまとまりそうだったのにミスった…


原田に教科書で殴られたことで、

クラスの奴らにクスクスと笑われている中、

渋々スマホを原田に渡した。




「そうだ!水紋、あとで職員室来いよ」


「えぇ~、俺何もやらかしてないですよ?」


「たった今やらかしたがな?とにかく授業が終わったら必ず来いよ。」




め、めんどくせぇ~!てか、なんで俺だけ?

少し離れたところで武尊がニヤニヤしながら

口パクで”ドンマイ”と言っているのが伝わった。


あいつ~あとで覚えとけよっ!




キーン、コーン、カーン、コーン




武流に中指立ててたら授業が終わった。

号令が終わったあと、原田に手招きされて

俺は仕方なく重い腰を上げて、教室を出た。



職員室は教室を出て、階段を降りて少し進んだ先にある。

普段は数分で着くけど、こういう時に限ってやたら

遠く感じるのはなんなんだろうな……。


職員室の戸を開けると、ムワッと広がる

コーヒーの香り、古いプリントのインク、

そしてなぜか漂うちょっと湿ったような空気。

職員室は今日も「先生たちの領域」って感じがする。




「そんで?話ってなんすか?」



ダルそうに椅子にもたれかかり、

腕を組んだ原田が呼び出した理由を話した。




「お前、進路どうするんだ?」


「え?………あっ!」




そういえばこの間、進路希望調査?を

やってたような…すっかり忘れてた。



俺の書いた進路が原田の机に置かれていて、

その内容を見ながら原田が進路について聞いてきた。




「お前、進学は考えねぇの?」


「いや~厳しいっすね。金もないし、親もいないし、

別に就職でいいかなって思ってました。」


「そうか……いや、お前の成績ならある程度、上の大学に行けそうだなって思ってたんだが。」




進路の紙を見ながら少し残念そうに原田は話していた。


まぁ俺自身、進学でも就職でもどちらでも良いって

思ってたからあんまり深くは考えたことはなかったな。

でも原田がそこまで考えていたなんてちょっと意外。




「そういや、あれから生活は大丈夫なのか?」


「まぁそれなりに何とかやってます。」


「そか…ま、なんかあったら言えよ。とりあえず話くらいは聞いてやる。」


「随分上からっすね(笑)でも、あざす。」


「おう。あ、もう戻っていいぞ~」




そう言われて、俺は職員室を出た。

進路か…俺何になりたいんだろうな~

けれど、それより今は別の問題もあるから

そっちが先だな……



考え事をしながら廊下を歩いていると、

反対側から小走りでくる誰かの足音が聞こえてきた。

顔を上げると、目が合い、相手はそわそわとした

仕草を見せていた。




「あっ……水紋くん!」


「芦屋さん?」





声をかけてきたのは、芦屋翔花(あしや しょうか)さん。同じクラスの女子生徒だけど、あんまり話したことはない。

男子の中では芦屋さんを可愛いと言うやつは結構いた。




「あ、あの!さっき先生に呼ばれてたから、どうしたのかなって……!」


「え?あぁ、進路のことで聞かれただけだよ。」


「あ!そ、そうなんだ!水紋君は…進路どうするの?」


「俺は就職かな~、芦屋さんは進学希望だったよね?」


「え!おおお覚えててくれたの!?」


「え?お、おう…前話してた気がしたから」




なんか、顔赤いけど大丈夫か?

ふわふわとした見た目だし、

目の前でオドオドしてて、小動物みたいだな~。


あんまり女子と話したことないけど、

女子ってみんなこんな感じだっけ?

よく知らないけどーーー




「あ、呼び止めちゃってごめんね!私も職員室に用があったんだった!」


「全然大丈夫だよ(笑)じゃあまた!」


「う、うん!またね!」




手に持っていたノートを両手で握りしめながら

また小走りで職員室へ向かっていった。

最後、笑顔で走ってったな。

よく分かんないけど嬉しいことでもあったのかな?


俺は芦屋さんとは逆方向に背を向けて

再び教室へ戻ろうと足を踏み出したーーー





ピンポンパンポーン!




『全校生徒に緊急連絡です!校門付近に複数の不審者が出現しました。全生徒は直ちに教室へ戻り、ドアと窓を閉めてください。絶対に外へ出ないように!繰り返しますーーー』




なんだ!?何があった?

校内放送で、一瞬、廊下の空気が凍りついたような気がした。




「なになに?避難訓練?」


「おい、外見てみようぜ(笑)」


「不審者って言ってなかった……?」



『絶対に外に出ないでください!!』




今も校内放送で先生が注意喚起を促している。

マイク越しに伝わる緊張感が余計に生徒たちを

不安にさせていた。




「不審者って……まさか……」



何だこの胸騒ぎ……嫌な予感がする。

俺は鳴り響く放送を背に、急いで教室へ向かった。


途中、他の生徒たちもザワザワと動き出していて、教室の扉の前にはすでに何人かのクラスメイトが集まり始めていた。



「あ、陽介!見ろよあれ!校門前に変な奴らがいるぞ!」




教室に戻ると武流が手を振って俺を呼んだ。

武流や他の生徒は窓ガラス越しに外の様子を見ていた。

呼ばれた俺も一緒に校門前に視線を向けた。




「なんだよ……あれ。」




校門前にいたのは黒の甲冑で身をまとい、

刀や槍を持っている兵士たちが

一列に立ち並んでいたのだ。


しかも、よく見ると兵士たちからは

黒い煙のようなものが漂っている。



あいつら、何者なんだ?

これもひょっとして、武将達の仕業…なのか?




「10人、いや15人くらいいるぞ!?」


「何あれ…怖すぎるんだけどっ」


「あ、おい!誰か校門前に向かって歩いてきたぞ!」



その声に、俺も目を凝らしてみる。



黒煙をまとった兵士たちの後ろ――その奥から、ひとり、ゆっくりと歩いてくる影が見えた。



学生服……?


いや、あの髪、あの背格好――



「……村上?」



気付いた時には、口に出していた。


兵士たちは村上の姿を確認すると、

横一列に並んでいた隊形を縦に変え、一斉に跪いた。


その中央をまっすぐに進むその姿は、

まるで“指揮官”のような風格を漂わせていた。



けれど、それだけじゃない。




「え?え?あれって村上じゃね?」



クラスメイトの誰かが声を上げる。



「……違う」


「おい……陽介?どうした?」


「なんでだよ…どういう事だよ!」



確かに見た目は、いつもの村上ではある。

それはそうなんだけれと……


でも……”視えてしまった”んだ



そこに映っていたのは、村上の魂が酷く濁り、

怒りと憎悪にまみれた村上だった。


村上が……武将の子孫だったなんてーーー


あの様子だと、武将が身体を乗っ取って

村上の魂が消滅しかけてるってことか……




「くそっ!!!」




俺は怒りが抑えられず、

反射的に窓のフレームを殴っていた。


なんでだよ!なんで村上が……っ!



その時だったーーー




「皆さん、おはようございます。村上優馬です。」


「!!」




突然、村上の声が学校中に響き渡ったのだ。

そして表情を変えず、村上は衝撃的な事を口にした。




「突然ですが、僕はこの学校の生徒を全員排除します。」


「なっ!?」




何を言っているんだ?

俺を含め、クラスの皆も困惑していた。

それでも村上は気にも止めず話を続けた。




「僕はこの学校の生徒で、同じクラスの齋藤くん、中野くん、隣クラスの平田くん、山口くん、そして主犯格である井上くんにいじめられていました。」




村上の言葉から出た6人の生徒は

全員1年生の頃から村上をいじめていた奴らだ。

あいつら、まだあんなことをしてたのかーー!!




「お、おい…なんかやばくね?」


「は、ハッタリだろ?大丈夫だよ…」




そして俺の近くにいたのは名前を呼ばれた

いじめのメンバー、平田と山口。

いつもと違う村上と不審者に怯えているようだった。

結局、こいつらは威勢だけで他はポンコツかーーー



「それはそれは、とても酷いいじめでした。誰かに助けを求めても、誰も助けてくれない。先生も見て見ぬふり、両親にも相談しましたが、男らしくないと見捨てられました!」


「村上……」


「でも!!!」



村上はバッと手を広げ、何故か嬉しそうに顔を上げた。



「ある日、僕の身体に僕のご先祖様の魂が宿りました。ご先祖様はこんな僕の話を聞いてくれて、そして弱い僕に力を与えてくれたんです!」




なに……?

魂を侵食されずに力だけ貰ったってことか?

そんな事が出来るなんて……知らなかった。

じゃああそこにいる村上は”子孫のほうの村上”

ってことなのか?




「この力のおかげで僕は自信が付きました!とても心地が良くて力がどんどんみなぎってきます!なので、この心地いい状態でいじめた生徒、僕を無視した先生に復讐したいも思います!」




満面の笑みと、幸せそうにそして愛おしそうに

自分の胸元に手を当てて、容赦なく残酷なことを話す村上。



そんなこんなしていると職員室から

教頭やほかの先生達が走ってやってきた。




「はぁ…はぁ…村上くん!これはどういうことですか!?」



「どうもこうも、先ほどお伝えした通りです。

僕はこの学校の生徒や教員を全員殺します♪」



「村上くん…一度、話し合わないか?

君がされてきた事を全て話してくれ。

該当生徒や教員にも聞いて、もしこの話が

本当であれば厳しく処罰をーーー」




ザシュッ!!




それは一瞬のことだったーー




「「「きゃーーー!!!」」」



「うそ、だろう……」




村上が刀を取りだし、教頭を斬り裂いたのだ。

当然、斬られた教頭は血まみれになって倒れ、

それを見た生徒たちが悲鳴を上げてプチパニックになった。



「教頭先生…貴方も同じです。貴方も僕の話を聞こうとしなかったゴミクズ共と一緒ですよ…って、もう聞こえないか★」




あはははははははッ!!




こんなに大声で笑う村上を俺は見た事がない。

もしかしたら先祖の影響か?

いや……どっちにしたって、村上は人を殺してしまった。


取り返しのつかないことをしてしまったんだ。




「さて、これで分かっていただけたと思いますので、そろそろ本番と行きましょうか?」


「え、それって……」


「うそ…!」




村上は持っていた刀を真上に上げ、そしてーーー




「行け」




刀を振り下ろし、合図を送ると

跪いていた兵士たちが立ち上がり、

武器を構えて学校へ向かって走り出した。




「ぜ、全員…逃げろ~!!!!!!」




校庭にいた先生のひとりが叫ぶと、

クラスの生徒や他の教室にいる生徒が

騒ぎ出し、大混乱が起きてしまった。




「お、おい!陽介、逃げるぞ!!」


「……っ!」




大混乱の中、俺は何も出来ないまま

武流と教室を出た。






「さぁ、しっかり逃げてくださいね?ふふふ……っ」





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