意外とあいつ強かったよ。
「ところでさ、会いに行くのはいいけど、会ったら何がしたいんだ?」
「!!」
目的地を目指す俺たちは他愛もない話をしていた。
特に長政と武流は一晩でかなり親しくなったようで
傍から見たら兄弟のように見えた。
「確かに、それはちょっと気になる」
「いや~それは別にいいじゃないか…」
「いやいやいや(笑)ここまできたら教えろよ~!」
「う、うるさい!」
武流は楽しそうに長政にちょっかいをかけている。
俺には兄弟がいないけれど、もしいたらこんな感じなのだろうか…
「全く…若いもんは騒がしいな」
「その見た目で言われても説得力ないぞ」
「なんだと!?大体お前はなーー」
こっちはこっちで、肩に乗っている清正が
でかい声で耳元にガミガミ文句を言い始めた。
そんな中、武流がクルッとこちらに振り向き、
道を聞いてきた。
「なぁ、もうそろそろ着く頃か?」
「ん?あぁ…そうだな。あの信号を曲がった先がーーげっ!?」
少し先にある信号を右に曲がれば撮影場所となっている。そう伝えようとしたけれど、俺はその光景に驚愕した。
「なんだ、あの人集りは…」
撮影現場付近には多くの人だかりがあったのだ。
それも目印の信号のところまで溢れている。
こんなに人がいるとは想定していなかったな…
「うわ~…こりゃ怪しまれるどうこう言ってる場合じゃないな。」
「そう…だな。」
あの道を行かないと確かめられない。
けれど、あまりの人の多さに行くのを躊躇ってしまう…
けれどーーー
「それでも行く。」
「……!」
立ち止まっている俺たちの前を出た長政。
暴走することはなく、真っ直ぐに前を向いて
ゆっくり歩き出したのだ。
「…ま、そうだろうと思った。長政、俺も一緒に行くぜ!」
「ありがとう、武流くん。」
「……」
きっと、何とかなる。
そう背中で言ってるかのように2人は先に行ってしまった。
一瞬…ほんの一瞬だけ、2人の背中が逞しく見えた。
「陽介、行くぞ。」
「あ、あぁ…」
「……お前のようにどうするかを考えてから行動する者もいる。だがな、時にはあの者たちのように、己の信じた道を頼りに一歩を踏み出す強さも必要なのだ。」
「……」
ずっと面倒を避けたくて効率ばかりを考えていた俺とは反対に、勢いとノリで何とかしていた武流。
性格は正反対だけど、だからこそ俺は武流といると面白くて、楽しくて、新鮮だった。
「……ははっ、あいつらしいな。」
俺も二人のあとを追おうと足を踏み出した、その時だった。
――ヒュルルルル……。
耳をかすめる不吉な音に思わず顔を上げる。
チュドーーーン!!!
「!?」
爆炎が地面を揺らし、視界が白く弾け飛んだ。
周囲にいた人達は突然の爆発音に驚き、パニックが起きていた。
「な、なんだ今の!?」
「警戒しろ陽介!ほかの武将が暴れてるやもしれん!」
「……わかった!」
爆発は1回だけでなく、2回3回と何度も起きている。
爆風と砂埃が肌を叩きつけ、肺の奥まで煙が流れ込む。
逃げ惑う人集りは俺たちのいるところにまで流れ着いてきていた。
「邪魔だ!どけ!」
「早く早く!死にたくない!!」
警戒しろって言われてもこれは……流石にキツイ!
近くに武将がいるかもしれないけれど、逃げ惑う人たちと何度もぶつかり、集中できない。
「そうだ……武流は無事か!!」
先に進んでいた武流と長政の姿が見えない。
俺は逃げる人たちとは反対に、爆発音のする方へと進んだ。
「武流!どこにいる!武流ー!!」
「陽介~!こっちだ~!」
「!!」
俺を呼ぶ叫び声と共に手を振る武流の姿を見つけた。俺は急いで武流のもとに向かい、何とか合流できた。
「武流、無事でよかった。」
「俺は大丈夫!それより……」
「ん?そういえば長政はどこに行った?」
「あそこにいる」
武流が指をさした方向には、長政の姿があった。
けれど、なんだか様子がおかしい。
煙の向こう側を睨みつけ、何かを警戒しているようだった。
「どうしたんだ…?」
「……はっ!陽介、数珠は反応しておるか!?」
「え!?あ……いや、何も反応がない」
数珠が光らないってことは、この騒動は武将のせいではないのか?じゃあ一体誰がこんな事を……
「……”また”お前たちか」
「”また”?」
今、”また”って言ってたけれど、煙の先にいるのは
長政の知り合いなのか?
周囲に緊張が走る中、長政の前に立ち込めていた煙が風で流れていき、視界が広くなってきた。
そして、それと同時に長政は刀を出現させ、その場で構える。
「武流くん、陽介くん危険だから少し離れていなさい。」
「あ、あぁ…」
「わかった!」
俺たちは言われた通り、長政から少し距離を取る。
ようやく視界がはっきり見え、犯人の姿が顕になった時、俺たちは驚愕した。
「え、清正…あれってーー」
「あぁ。まさかあやつらと”また”再会するとはな。」
そこにいたのは、骨が露出するほど皮膚が腐り、腐臭を漂わせながらボロボロの甲冑姿を纏った化け物。
「”くちびと”……」
暴れ回っていた人物の正体はこいつらだったのか。
ざっと見ても数十体はいるな……
くちびとは、両手に爆発物を所持しており、
今もなお無造作に爆弾を投げていた。
くちびとに意思はない。
何者かが命令をして、動かす人形みたいなもの。
だからきっと近くに武将がいるはずなんだ。
こいつらを動かす主犯格がーー
「どこだ!数珠の方は……反応無しか。」
「陽介、落ち着け。ここで変に目立ってしまってはほかの武将たちに勘づかれるぞ。それに……どうやら”あのくちびと”は、他の者とは違うようだ。」
「え?」
清正が指さした方向に視線を向けると、
そこにいたのは他のくちびとよりも
ひと回り……いや、ふた回り大きく、
甲冑も位が高い質のいい物を身につけ、
太い槍を片手に仁王立ちしていた。
なんだ…あいつは?
明らかに只者じゃない空気感が漂っている。
しかもそれだけではない。
「あれ…?」
「どうした、陽介?」
「あいつ…魂が、ある」
「なんだと!?」
俺自身も驚いている。
あいつの胸元辺りにボワッと緑色の火の玉が浮遊していたのだ。
「馬鹿な!くちびとに魂などありえん!」
「いや、でも視えたんだよ緑色の魂が!……けど、なんでーー」
「恐らく呪術師の仕業だ。」
俺たちの会話に割り込んできたのは
鋭い目付きでくちびとを睨んでいた長政だった。
「呪術師?」
「あぁ、呪符を身体に貼り付け、偽りの魂を宿したんだ。本来ただの人形にすぎないんだけど、呪符の力で意思を持つかのように強さを増す。」
「まじかよ…一体誰がそんなことを!」
「説明したいのは山々なのだが、そろそろあやつらをどうにかしないと。」
あ、そうか!ハッとしたのもつかの間、
数体のくちびとが長政に向かって攻撃してきた。
「長政!!」
危ねぇ!俺は反射的に長政のもとへ駆け寄ろうとした。
その時ーーー
「お前らに構っている暇などない。」
ズバァァァッ!
「!!」
たった一振でくちびとを数体倒した……
その後も長政は容赦なく刀を振り、次々と容易に倒していった。
「すげぇ……」
「長政って強かったんだな。俺、完全になめてた。」
長政の戦いぶりに唖然としていると
様子を見に来た武流が隣に立っていた。
たしかに、初めて見た長政は情けなく泣き叫んでいて、本当に武将なのか?と疑っていたけれど、今の長政は別人のように変わっていた。
振り上げられた槍を半身でかわし、その隙に斬り伏せる。冷静で淀みない動きは、まさに武将そのものだった。
「まぁ、あんなやつでも我と同じで戦国を生きた男だ。こんな雑魚との戦いなど造作もないだろう。」
「雑魚……」
「あとは、あの巨大なくちびとをどう対処するか……見物だな。」
呑気に解説してるけど、大丈夫なのか?
そうこうしているうちに、周囲で暴れていたくちびとが長政によって倒されていた。
「残るはこいつ……さて、どうしたものか。」
巨大なくちびとは持っていた槍を狂ったように
振り回し、挑発していた。その様子を、長政は黙って様子を見ている。
「来るならさっさと来い。私はとても忙しいんだ。」
「……」
いや、長政も挑発したらやばいだろ!
すると案の定、巨大なくちびとが
振り回していた槍を止めて、持ち方を変え、
大きく振りかぶってきた。
ズドーーーンッ!!
「長政ぁぁ!!」
叩き落とされた槍は地面を割り、地響きが鳴っていた。
たった一撃でこの威力……やっぱり只者じゃない。
長政は無事か?
「大振りすぎる。隙だらけだぞ。」
「!!」
砂埃の中から姿を現した長政は
巨大なくちびとの背後を取っていた。
振り向く間もなく、刀に力を込めた長政が
くちびとに向かって飛びかかった。
「浅井家3代目当主、浅井長政。お前に掛られた呪いを私が断ち切る!」
くちびとは咄嗟に槍を構え直していたが、それはもう完全に手遅れだった。
「散華ノ太刀」
ジャキーンッ
振り下ろした刀からは桜の花びらが出現し、
巨大なくちびとを頭から一刀両断した。
「……」
ズシーーーンッ
真っ二つになったくちびとはゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「……」
「すっげぇぇ!かっけぇよ長政!!」
呆然としている俺とは反対に、長政の勝利を
まるで自分事のように喜んでいた武流は
駆け足で長政のもとに向かって行った。
「待て、武流!」
「武流くん!?まだ危ないから離れてて!」
「でも倒したんだろ?すげぇよ!長政ってめっちゃ強かったんだな!」
「いや、そんなことはないさ…それよりもこいつに貼られているはずの呪符が完全に切れているか確認しないと。」
武流がはしゃいでいる間、長政は倒したくちびとに
まだ警戒しているようだった。
清正は満足そうに腕を組んで、長政を褒めた。
「うーむ…なかなかやるな。我もこの姿でなければ、一度手合わせをしたかったものだ。」
そう言って俺の肩から降りた清正は2人のいる場所へ走っていった。
「どうした陽介?こっちへ来い!」
俺がついてこないのに気が付き、手招きをしている。
けれど、俺は動かなかった。
いや、”動いたらダメだと思った”。
「まだだ……」
「なに?」
「まだ魂が消えていない!!」
「「!?」」
次の瞬間、真っ二つに切られたくちびとの身体が動き出したのだ。
飛び散った破片や折れた槍が徐々に集まっていき、
そして再び元の姿に戻ってしまったのだ。
「武流くん!こっちへ!」
長政は咄嗟に武流の手を引き、急いでその場から離れた。
清正も俺が叫んだ瞬間、クルッと方向を変えてダッシュで肩に戻ってきた。
「陽介!お主、消えてないと申したな?奴の魂はどこにあるのだ!」
「さっきは胸の中心辺りかと思ったけれど、よく見たら違ってたんだ!」
真っ二つになった時、俺が見た魂の位置と被っていたから消滅したと思い込んでいた。
……けれど、それは間違っていた。
「なに!?では何処に!!」
「あいつの魂は……心臓の辺にある!」
胸にあると思っていたが、実際はもっと奥……心臓のあたりに魂があった。
復活したくちびとの魂は、さっきまで鮮やかな緑色に
燃えていたが、赤黒くドロドロとしたものに
包まれてしまい、暴走し始めたのだ。
「なるほど…心臓部にあったか。トドメを刺したつもりだったが、少しズレてしまったか……」
「長政……やべぇって!早く逃げよう!」
なんとかくちびとから距離を離した長政と武流。
武流が安全な場所へ非難させようと手を引いた。
けれどーーー
パシッ
「すまない、武流くん。私はここを離れるわけにはいかないんだ」
「あ!待てよ!!」
長政が武流の手を振り払うと、暴走するくちびとの方へと走って行った。
ガァァァァァァ!!!
激しく暴れるくちびとは槍を振り回し、
近くの建物を次々と破壊していった。
キーンッ、ズバッ
「くそっ!これでは狙いが定まらない!」
長政が距離を保ちながらくちびとを攻撃するも、
呪符がある心臓部には届かない様子だった。
それにあのくちびと、長政の”攻撃を見て防いでいる”。
以前見たくちびとはただ無造作に攻撃するだけで
相手の様子を伺うようなことはしなかった。
でも今回は違う。
魂を授かった事で”意思”を持ったんだ。
たから相手を見て、自分がどうすればいいのか
判断する”思考”を手に入れてしまったんだ。
「まずい状況になってしまったな。」
「清正…この場合どうすればいい?」
「確実に倒すのであれば、呪符を剥がすか、もしくは跡形もなく消せば鎮まるだろう。たが、この状況ではーー」
「……なぁ、”鎮まる”って言ったか?」
「ん?あぁ…っ!まさかお前!」
例え呪符で授かった偽物でも、魂は魂なんだ。
だから、ひょっとしたらーー
「俺の力で鎮られないか…?」
「馬鹿を言うな!危険だぞ!それに、本当にお主の力で鎮められるか分からんのだぞ!?」
「でも、このままにしてたら被害は大きくなる!それに長政がひとりで戦うのも時間の問題なんだ!」
実際、遠くにいても長政の体力が
消耗されているのが見てわかった。
目の前で必死に戦っているのに
何も出来ないなんて……俺は嫌だ!
「行こう清正!俺は”腰抜け”になりたくない!!」
「陽介……分かった!行こう!」
「武流!お前はほかの人たちを避難させてくれ!」
「おう、任せろ!」
武流に周囲の避難誘導を任せて、俺たちはくちびとの攻撃をかわしながら長政のもとへ向かった。
「きゃー!」
すると、向かう先でひとつの悲鳴が聞こえた。
「長政!無事か!?……長政?」
「あれは……!」
目を見開き、驚く長政。
その視線の先を見ると、そこにはくちびとから
逃げた人達が集まっていた。
その中に、”身に覚えのある人物”がいた。
「早く、逃げるぞ!」
「遥さん!急いで!!」
「……っ」
凛とした顔立ち。黒く艶やかな長い髪、
怯える瞳は翡翠の色をしている。
それは俺たちが雑誌を手がかりに、探していた人物。
「天月……遥?」
まさか、本当にいたなんて……!
けれど、くちびとが暴走したことで
撮影現場にも被害が出ていたらしく、
現場スタッフ達も慌てて避難していた。
女優の天月さんも避難しようとしていたが
よく見ると、足を怪我しているようだ。
「まずい!急いであの人をーー」
「お市ぃぃぃぃいぃ!!!」
俺の言葉を遮るように長政は天月遥の方へ
一直線に走って行った。
けれど、そんな簡単に行かせてもらえる訳もなく、
くちびとは容赦なく、天月遥を攻撃しようとしてきた。
ズドーーーンッ!!
激しい衝撃音と砂煙が周囲を覆った。
俺は清正がぶっ飛ばされないように
服の中に非難させ、長政の安否を確認した。
「ちょ……あいつまた勝手に、どこいった!?」
ギリギリッ
「くっ……!」
刃物が擦る音が聞こえ、音の方向に振り向くと、
くちびとの攻撃を片手に握った刀で受け、天月遥を
抱き寄せるように守る長政の姿があった。
「まずい……押されている!」
「陽介、もしやるなら今だぞ!」
「!!」
そうか……!今なら長政に敵意が向いている。
今の俺ならあいつの心臓部にこの力が届くかもしれない。
「行くぞ清正!」
「おう!術は覚えておるな?」
「無問題!」
思い出せ…俺が力を出したあの時のイメージをーー
深呼吸して、意識を集中しろ。
あの時の……村上を助けた時のように。
相手を殴るのではなく、相手の魂に”触れて”
俺があいつを還してあげるんだ!
ズン、と心臓が高鳴る。右手に熱が宿る。
次の瞬間、右手からボッと青い炎が噴き出した。
「でた!」
あとはあいつをーー!!
力を集中させるのに気を取られていた。
俺の目の前で、血だらけになっている長政がいた。
「長政!!」
片手ではやっぱり無理があったんだ!
くちびとの攻撃を完全には防御出来ず、
至る所に傷ができていた。
それでも、天月遥を守る手は絶対に離そうとしなかった。
「あの!私はいいからー!」
「大丈夫だ。」
「え……?」
傷だらけになりながらも天月遥に微笑み、優しく声をかけた。
「もう…君を一人にはさせない。」
「……」
急がないと!
くちびとに勘づかれないように背後から近づき、力を溜めた。
このまま気付かれずに心臓部までたどり着ければ
こいつを止められる!
……けれど、そんな思いも虚しく長政と目が合うと
驚いた表情で声が漏れていた。
「……!陽介くん、それって」
「やべっ!」
グルンッ!
声を聞いたくちびとがこっちに気が付き、
振り向き様に槍を振り回してきた。
「かがめ!陽介!」
「くっ!」
清正の声で反射的に地面にしゃがんだ。
そのタイミングで頭の上に槍が横切った。
「~っぶねぇ!」
「長政!お主のせいで鎮られなかっただろう!!」
「す、すまない!つい声が……それより、陽介くんのそれは?」
この力のことは長政に話したことがなかったな。
けれど、今はそれどころじゃない!
「悪い、あとで話す!」
ドカーーンッ
こいつ、力強すぎだろ!
大振りで襲ってくる槍は威力が強く、
でかいくせに反応速度が早い。
俺は避けるので必死なのに、よく長政は攻撃を防いでたな。
「まずい…隙が全くない。」
「え!どうすればいいんだ?」
「陽介くん!」
途方に暮れていると、長政が攻撃を避けながら俺たちのところへ走ってきた。
「その力……ひょっとして、あいつを止める算段があるのかい?」
「あ…あぁ、そうなんだ!あいつの心臓あたりに触れたいんだけど、なかなか近づけなくて……」い
「なら、私があいつの動きを一時的に止めてみせる!」
「え、出来るのか!?」
「安心しなさい。それに、あいつには少々腹が立っていたところだ。」
そう言うと、暴れているくちびとへ方向を変えて、刀を抜いて叫んだ。
「おい貴様!さっきは……よくも市を殺そうとしたな?俺の大切な……妻にっ!絶対に許さん!万死に値する!!ただで済むと思うなよク〇が!!」
うわ、めっちゃブチギレてる。
まぁ目の前で奥さん殺られそうになったら
そりゃ怒る気持ちも分かるけど…
ちょっと言い過ぎじゃね?
それでもくちびとは猛然と攻撃を繰り出す。罵声を言いながら長政はそれをいとも簡単にかわし、さらに低く身を沈めて刀を構えた。
「崩刃!!」
ズバーッ!
鋭い斬撃がくちびとの膝を裂き、その巨体を崩れさせた。
ズドーーーンッ!
「今だ!陽介くん!」
「あ、ありがとう!!」
俺は再び力を込め、ダッシュしてくちびとの方へ向かった。
けれど、くちびとも何とかして起き上がろうと、ジタバタともがいている。
「往生際が悪いぞ!」
ズバッ!
再び起き上がらないよう、長政が両腕を切断して、
動きを止めてくれた。
「私の手を取れ!」
「助かる!」
走っていた勢いのまま俺は長政の手をつかんだ。
その瞬間、長政が全身をひねり、俺の動きをさらに押し上げるように力いっぱいぶん投げる。
助走と投げが重なり、俺の身体は弾かれたように宙を舞った。
「うぉぉぉらぁ!!」
「うぉっ!?」
ブンっと投げられた俺は驚きつつも、
宙に浮きながらくちびとの魂を確認して術を唱えた。
「流るるは邪気、清めし心、理を外れしその魂よ、いまここに、迷いを解き放ち、静かなる帰還の時とせんーー」
浮いていた身体が重力で落ちていく。
術を唱えていると右手の炎は勢いを増し、
右手に熱が伝わるのを感じる。
「行けぇ!陽介!!!」
肩にしがみつきながら叫ぶ清正と一緒に落ち、
くちびとの心臓部に手を思い切り押し当てた。
「還魂ノ言!!」
次の瞬間、ブワッと青白い光が広がり、
くちびとの巨体を優しく包み込んだ。
「……」
そしてくちびとの赤黒く濁っていた魂が
新緑のように綺麗な緑色の魂へと変わり、
散り散りになって消えてしまった。
「止ま……った?」
こうして、俺たちは無事くちびとを”鎮めること”が出来たのだった。




