あれ?いま数珠が反応した?
冬の空に輝く満天の星空の下、人気が少なくなった道を、彼は静かに歩いていた。
「……」
『守られるだけってのは、なんか……嫌なんです。
まだ全然、力も扱いきれてないけど、でも……俺なりに、戦えるようになってみせます。』
『謙信、俺は守られるのは好かん。俺は俺のやり方で戦う!そして、お前とならこの国をきっとーー』
「ふふ……」
何かを思い出し、思わず笑みがこぼれる。
それはとても嬉しそうで、そしてどこか”懐かしげ”な表情を浮かべながら、夜空を見上げた。
「本当に、そっくりなんだから……ねぇ”宗叡”」
「あれ、今日はあのおっさんいないんだ~!まぁ、どっちでもいいけど。」
「……」
突然、夜道に響いた活気のある声。
振り向くとそこには1人の少年がいた。
「やはり来ましたか……”真田”。」
「え、なんだ気付いてたのかよ。」
「だいたい予想はつきますよ。私に何か御用で?」
「それ言わせる?別にいいけどーー上杉謙信、お前を消しに来た。」
そう言うと、どこから出したのか、二本の十文字槍をブンブンと振り回しながら構える真田拓人と、
その様子を表情一つ変えずに眺めるの上杉謙信。
静まった夜道に向かい合う二人を数本の街灯が照らしていた。
「君の御先祖様は出てこないのですか?」
「え?あ~なんかこういう夜に襲うのは武士じゃない!って言って中で不貞腐れてるわ。」
「そうですか……随分とあまっちょろい考えをする御先祖様ですね。」
「それな?」
「まぁ、それが”彼らしい”ですが。」
「え、なに?」
問いかけを無視した謙信は、静かに鞘から刀を抜き、鋭く光る刃を目の前の”敵”に向けた。
「!!」
それを見た拓人は再び構え直し、緊迫とした空気が周囲に漂う。そしてーーー
キィィィンッ!!!
刀と十文字槍が激しくぶつかり合い、夜道に金属音が鋭く響いた。
その衝撃で火花が弾け、照らしていた街灯の下に一瞬、二人の影が交差する。
ついに、武将同士の戦いが始まった。
ギィィン!! バチィンッ!!
鋭い金属音が何度も闇に響き、周囲の空気が震えた。
刀と槍が交差するたび、足元の地面が砕けるかのような衝撃が伝わる。
互いに一歩も引かず、ただ己の”力”と”技”が真っ向からぶつかり合っていた。
「へえ~なかなかやるじゃん!」
「あなたこそ。」
余裕を見せつつも、刀と槍は交差したまま押し合った。
だが、どちらも決定打を与えられず、数秒の睨み合いの末に同時に武器を離すように跳び退く。
再び生まれた間合いを、夜風が静かに吹き抜けた
ガキーーーンッ!!
「やっぱ、しぶといな~早く終わらせて寝たいんだけど」
「ならば、こんな無意味な戦いをここで終わらせておうちに帰られたらどうですか?」
「いや、信長に首切られるわ!……まぁ、いい。俺の先祖の技を見せてやる。」
そう言うと、槍をクルリと回転させ、構えを変えてきた。十文字槍からは微かに炎が揺らいでおり、呼吸を整えて、今にも向かってきそうな体制になっていた。
「……」
謙信は何かを察したのか、すぐに身構えて、警戒心を強めた。
「第十六代ーー幸村、烈槍・焔ノ突き(れっそう・ほむらのつき)」
その瞬間、十文字槍の刃元からゴォッと焔が吹き上がる。
空気ごと焦がすような熱気と共に、拓人が一気に間合いを詰めた。
ズバババババッ!!
燃え上がる槍が、目にも止まらぬ速さで謙信へと襲いかかる。
突き出された連撃は、まるで火の嵐のように静かな夜を赤く染めあげていた。
「なるほど……」
ギンッ、カーンッ、キュィーーン!
炎の連撃を謙信は初めて見たとは思えない程、
冷静に攻撃を受け止め、見事に交わしていた。
「はっ……これ交わせんのかよーーならこれはどうだ!第十六代ーー幸村、烈槍・影火封陣!」
突き技を止めた拓人は、突然、十文字槍を思い切り地面に突き刺した。
その瞬間、槍を中心に炎の紋様が円形に広がり、それは謙信の足元にまで伸びた。
「ほぉ……」
足元を覗くと、紋様から細長い炎が生き物のようにいくつも出現し、それらは謙信の足を拘束した。
「捕まったな?この紋様にハマったやつは一定時間身動きが取れなくなる技だ!」
「なるほど……”小さい脳みそ”にしては考えましたね。」
「は!?馬鹿にしやがって!次で終わらせてやる!」
怒りに任せて十文字槍を抜き取ると、今度は二本の槍をグルグルと回転させた。炎は槍の刃先から槍全体へと広がり、回せば回すほど、炎の威力は上がっていく。
「第十六代ーー幸村、烈槍・大団炎!」
ダッーー!!
大回転する二本の槍と共に走り出す拓人。
さらにその槍を縦横無尽に振るい、炎はまるで生き物のように形を変え、拓人を包む巨大な火球と化し、謙信に迫った。
「……これを、避けてしまったら周囲にも被害が出ますね。」
巨大な火球を目の前に、謙信は足を囚われた状態で、右手で柄を握り、左手は刀をなぞるように添えて、刀をまっすぐ正中線に沿って立つ。
それはあまりにも無防備で――だが、何よりも隙がなかった。
ただ立っているだけなのに、近づけば斬られると確信させる、異様な気配が漂っていた。
「少し……お仕置が必要ですねーー」
どんどんと容赦なく迫ってくる火球、それでも謙信は一歩も動かず、”何か”を待っているようだった。
「ばーか、そんなんで俺の大団炎は止められねぇよ!死ねぇぇえ!!」
拓人の罵声と共に、炎の勢いとスピードが加速した。
二人の距離が1メートルを切った。その時ーーー
シュバァァッ!
空間が真っ二つに裂けたかのような軌跡と共に、謙信の刀は振り下ろされていた。
ゴロゴロ……
謙信に向かって襲ってきた火球は、何故か標的の横を通り過ぎ、徐々に速度を落として、やがて炎が消えた。
「毘沙の裁き・一閃」
「かはっ……!」
胸元に傷を付けられた拓人はその場で崩れ落ちた。
それを見た謙信は刀を収め、拓人に近付く。
「な、んで……俺が、負けた?」
「まだまだですね……力を扱いきれていない。ーー勝敗はつきました。これ以上無駄な殺生は止めて、あなたはお家に帰りなさい。」
「げほっ……ふざけんなよ!」
口から血を吐く拓人は、自分がやられたことを認められず、謙信を睨み、ふらつきながらも立ち上がって言い返した。
「俺の力は……こんなもんじゃねぇんだ!てめぇみたいな老害が、偉そうにもの言ってんじゃねぇよ!」
「そうですか……では仕方ないですね。」
ドゴッ!!
「!?」
次の瞬間、謙信は柄頭を使って、ガラ空きになった拓人の鳩尾に思い切り叩き込んだ。
「っぐ……!」
その鳩尾を抉るような一撃に、拓人の身体がたまらず宙に浮き、そのまま電信柱へ激突した。
「あぐっ……!」
ズルズルとその場に崩れ落ちた拓人は、鳩尾を押さえながら咳き込み、再び血を吐いていた。
「……っ!……ぁ!」
何かを喋ろうとするも、鳩尾の攻撃がかなりのダメージとなり、息をするので必死だ。
そんな拓人の前に、上から見下ろす謙信がいた。
「こんな状態でもまだ戦いますか?」
鋭く光る刀の刃先が喉元に触れている。一歩間違えたら、切られる。拓人は息を飲んだ……。
静かな声なのに、氷のような冷気が走り、
その目には、もはや情けや容赦の色はなかった。
「ーーが。」
「……どうしました?言いたいことがあるなら言ってみなさい。」
「くそがくそがくそがくそがくそがくそがぁぁぁぁ!!!」
「!!」
悔しそうに何度も罵声と拳で地面を殴りつけ、怒りをあらわにする拓人。
謙信は少し驚いたものの、刀を首元から離さず、じっと見ていた
「ぶざけんな。俺が、俺が負けるわけないんだ!くそ、こんなやつに!ーーーおい、黙ってないで出てこいよ。”選手交代”だ。この老害を”お前”が倒せぇ!!」
「!?」
”誰か”と会話を始めた拓人を、謙信は見逃す事なく、首元の刀を一気に食い込ませ、そのまま切ろうとしたーーが、それは不可能となった。
ギリギリッ……
見えない何かの力で、首元に添えていた刀が押し戻されていたのだ。
「……ようやく、現れましたか。”幸村”」
「お会いできて光栄です……”謙信殿”」
キーーーンッ!
押し返された謙信は再び距離を取り、様子を窺う。
それに対し、拓人ーーいや、真田幸村は息を整えて、ゆっくり立ち上がった。
「まさか、あなたと剣を交える日が来るとは……夢にも思っておりませんでした。ただ……このような形で夜襲を仕掛けてしまったこと、まずはお詫び申し上げます。」
「いえ、それはあなたの責ではありません。それにしても……かつて徳川を追い詰めた男と、こうして対峙できるとは。現代に伝わるあなたの名声、私も目にしておりました。」
「……追い詰めただけで、”とどめは刺していません”。それに私は、書に残るほどの男ではありませんよ……」
荒っぽい性格の拓人とは真逆で、幸村は何かを思い詰めているような雰囲気ではあったが、落ち着いて対話が出来た。
だが、それは同時に先ほどとは比べ物にならない強力なオーラを纏っていたのだ。
それを感じた謙信は構えを崩さず、そして冷静さを保って幸村へと問いた。
「幸村殿……貴殿も理解しているはず。この戦いは意味を成していないものだと。そして、あの会合で結成された信長との同盟も何か裏があるとは思いませんか?私は、貴殿が”こちら側”の人間であると今も思っています。」
「……」
「……我々と共にこちらへ来ませんか?あなたは話せばきっと理解してくれる。それに……故郷を焼け野原にしてもよろしいのですか?」
「それは……できればしたくない。」
沈黙が、夜の冷気と共に二人を包み込む。
槍を握る幸村の手がわずかに震えたのを、謙信は見逃さなかった。
だが、それは”恐れ”ではない。”迷い”――それだけが、彼の足を止めていた。
「ですが、すみません……私は同盟を抜けるつもりはありません。」
「……理由を聞いても?」
「私には、やり残したことがある。それに信長殿の言う通り、この国は一度見直すべきだ。名誉も秩序もない。尊厳も消えた今の国に、未来はない。私の子孫……拓人も不器用で、気性も荒いですが、かつては己の芯を、しっかりと持っていたんです。彼はそれを……時代に、社会に、踏みにじられた。私はそれが悔しかった。拓人の過去は、昔の私と重なったんです。」
幸村は身体の中にいる拓人へ思いを伝えるように、胸に手を当てた。
「拓人……お前の意思、この幸村が力となり共に戦うと誓おう。」
そう言うと、謙信の方へ視線を変え、何故か十文字槍をそっと収めた。
そして、右手を真っ直ぐ前に出すと、幸村は術を唱えた。
「真田家第十六代当主、真田幸村が命ずるーー目覚めよ、”村正”」
「……!」
次の瞬間、ブワッと周囲の空気が一変した。
幸村を中心に紫色の煙が漂い、その辺に生えている草花を一瞬にして枯らした。
「これは……瘴気か」
すぐに分かった謙信は急いで袖を使って鼻を覆う。
紫の煙はじわじわと辺りを侵食し、まるで意志を持つかのように地を這い、揺らいでいた。
空気は重く、湿った土のにおいに混ざって、鉄のような、血のような匂いが鼻をつく。
そんな中、幸村の目は静かに燃えていた。怒りでもなく、悲しみでもない。
それは、迷いを捨て、何かを決意した者の瞳だった。
「これは……少々まずいことになりましたね」
謙信は再び構え直した。
”村正”については謙信もその名を知っていた。
かつて、幾多の戦乱にその名を刻んだ、血に飢えた”妖刀”。
それが今、時を越えて再び呼び出されようとしていたのだーー
「われら一族のために、力を示せーー」
すると、右掌からヌッと鞘が少しずつ姿を現した。
どんよりした瘴気はこの刀から放出されたものだったらしく、刀が出てくる度に瘴気がますます濃くなっていた。全体が現れ、刀を握ると瘴気が幸村の腕の中へ吸い込んでいった。
「くっ……!」
瘴気はおぞましい刺青となり、幸村の腕に絡みついた。
恐らく、これは村正を扱う者の代償。
血を渇望するがゆえに多くの持ち主を狂わせた妖刀がの力が、幸村の身体を蝕もうとしていた。
「それが、妖刀の姿……ですか」
「……えぇ、多少身体の負担はありますが……問題ありません。謙信殿……あなたには何の恨みもありませんが、拓人のため、己の信念のため、ここで斬らせていただきます。」
「……やはり、こうなる運命でしたか。来なさい“若造”、あなたの覚悟……確かに受け取りましょう」
村正を鞘から抜き取り、幸村は構えた。
この強力な瘴気と代償を抱えていても、平気で刀を構えるその姿に謙信は感銘さえも受けていた。
「上杉家第九代当主、上杉謙信。毘沙門天の代わりに、貴方を裁きます。」
「真田家第十六代当主、真田幸村。我ら一族の無念、そして拓人の”良き未来”のためにーー」
互いの刀から力が放出される。
両者一歩も譲らず、睨みを利かせ、そしてーー
ガキーーーーーンッ!!
星空の下、謙信と幸村の戦いが再び始まったのだったーー




