我だって語りたい!
──────
清正視点
──────
陽介の目つきが変わった。
「……」
「陽介?なんか…怒ってる?」
この者、たしか武流と名乗ったか?
この男が倒れてから、陽介の様子が一変した。
だが、変わったのはそれだけではないーー
「陽介……それは、まさか」
陽介の身体を青白い炎のようなものが覆っていたのだ。
ゆらりと揺れ動くその炎は、まるでこれから起きる”何か”を現しているかのようであった。
そして、それが見えた時、我は感じた。
”力が出現”したのだとーーー
だが、当の本人は気が付いていないようだ。
この武流という者の言う通り、陽介は怒っている。
それも相当な怒りであるのはひと目で分かる。
「陽介くんが僕を倒すって…無理に決まってるじゃん(笑)だって逃げる事しかできないのにどうやって倒すって言うのさ?」
「もう逃げねぇよ。てめぇなんかに負けるほど、こちとら落ちぶれてねぇから。」
拳を強く握りしめ、隙間からじわりと血が滲んでいた。
それでも陽介の眼は鋭く血走り、村上を睨んでおった。
「……言ったな?死んでも知らないよ?ーー破軍閃!!」
その瞬間、村上が再び斬撃を仕掛けてきた。
いかん、あの技は速すぎて、陽介だけでは逃げきれない…!
我は咄嗟に陽介の元へ駆け寄り、助言しようと声をかけた。
「陽介、かがーー!?」
だが、その助言は不要だった。
ザンッーー!!!
斬撃は壁に一直線の裂け目を作り、陽介は床に屈んでおった。
「な…!?」
これにはさすがの村上も驚いているようだ。
そして立ち上がった陽介は静かに村上の方へと歩いていった。
「それはもう見たんだわ。ほら、もっと来いよ」
「な、何なんだよ!この!これでどうだ!!」
陽介に煽られたせいで、冷静さを失った村上は
刀を乱雑に振り回し、斬撃を飛ばしてきた。
それは先程までの威力とは比べ物にならぬほど、
小さく、弱い斬撃であった
だか、弱くても斬撃が当たれば無論、怪我はする。
ザシュッ、グサッ
「陽介!何やってんだよ!!」
陽介はその無数に飛び散った斬撃を避けようとせず
身体ひとつで受け止めている。
顔や脚、腹からは血が滲み、
陽介の姿は見るも無惨なほどに傷付いておった。
「……うぜぇな」
すると、全身を包んでいた青白い炎の勢い強くなっていた。特にあの右拳ーー
陽介の怒りを表現しているかのように炎の色は濃くなり、激しく燃えている。
「くそっ!くそっ!」
ビュンッ!
ヤケクソになっている村上の斬撃がひとつ、
陽介の目の前にやってきたのだ。
それを陽介は逃げも隠れもせず、
震えるほど握っていた拳を思い切り振り上げた。
「うぉらあぁあ!!!」
バリーーンッ
「!?」
拳が触れた瞬間、空気が震え、斬撃が砕けた。
まるで陽介の“意志”に押し負けたかのように、
パリン、と儚く散ったのだ。
「これが……陽介の“鎮める力”というやつか……」
ただ魂の暴走を”鎮める”だけでなく、
我らを浄土へと”還す”力ーー
この目で見るまで正直疑ってはいたが、
まさか本当にその力を持っているとは…
「これは、驚いたな…」
「うぇ!?てか、変な動物が喋ってる!?」
「なっ、貴様!変なとはなんだ!変とは!」
ボカッ!
「「!?」」
何か鈍い音が聞こえ、振り向くと陽介が村上を殴っておった。
ドカーーーンッ!
しかもここに来て一発目で殴った時よりも
威力が強いせいか、殴られた勢いで
村上が吹っ飛ばされておる。
「いった…な、なんだよ。何なんだよその馬鹿力!」
「…立て。まだ終わってないぞ。」
倒れている村上の胸ぐらを掴み、
陽介は再び顔面を殴り始めたのだ。
ボカッ、バキッ、ドゴッーー
周囲の空気が凍りついたかのようだった。
誰も声を上げられず、誰も近づこうとしない。
ただ、拳が振り下ろされる音と、肉が軋む音だけが、空間を支配していた。
なんだ、この有様は……
これではまるで…我が見てきた”あの地獄”と、何ら変わらぬではないか。
血に染まり、怒りに任せて打ち続けるその姿……
陽介、お主も今……あの狂気に、飲まれておるのか?
「い、いだい…やめっ、うっ!」
助けを乞う弱々しい声を無視して、
容赦なく何発も殴るその拳には
返り血が付着していた。
「お前が……武流をっ!」
「!?」
陽介の身体を覆っていた青白い炎が
次第に弱くなっておる…!
「これはいかん…!」
「あっおい!あんた危ねぇぞ!」
我を引き止めようする武流をその場に残し、
陽介の元へとかけた。
あの様子……やはり狂気に飲まれておる。
陽介の“鎮める力”とは、心の有り様にて姿を変えるものなのか……?
陽介の元にたどり着いた我は急いで足下からよじ登り、そしてーー
ガブッ!!
「…って!!」
我は陽介の肩に思い切り噛み付いた。
その痛みに驚き、正気を取り戻した陽介が
我を肩から引き離した。
「何すんだよ清正!」
「馬鹿者が!友が傷を負ったくらいで取り乱すとは、何たる腑抜けか!」
息を荒くして我を睨む陽介。
青白い炎もまだ弱いままだ。
どうすれば先のような力を戻せばいいのだ…!
「たかがって…なんだよ」
「なんだ?」
「俺にとっちゃたかがじゃねぇんだよ!!こいつのせいで何人死んだ!?何人怪我した!俺は…もう誰も傷付けさせないって決めたのに…誰も助けられなかった!!身近な友人ですら守れない!!!だから、こんな騒動を起こしたこいつを殴っとかなきゃ気がすまねえんだよ!!」
「……」
陽介…お前は優しい男だ。
祖父の過ちを自ら背負って友を思い、恩師を思い、
皆を守るために走り続け、こうして戦っている。
だがなーーー
「世の中、そんな甘くないわ。」
「あ!?なんだとーーー」
「我を庇った兵士は槍に刺されて死んだ。」
「は…?」
「我が親しかった友は、敵の鉄砲に撃たれ死んだ。
信じていた家臣たちも皆、血の海に沈み、野に倒れた。
そして……我はこの目で、主君の最期を看取った。」
脳裏に浮かぶのは、泥と血で染まった戦場。
名を呼ぶ間もなく崩れ落ちる仲間たちの姿…
陽介達が生きるこの”当たり前”は、
我らにとっては、夢物語なのだ。
「お前は、ここにいる誰ひとり欠けることなく救えるとでも思っているのか?仏か神にでもなったつもりか?」
「それは……」
「怒りを拳に変え、それを正義と叫ぶのか?その拳は、誰かを救うためではなく、己を慰めるためのものにすぎぬ。──それが、お前の“戦”か?」
「……」
戦を知らず、戦い方も知らず、
そして…死とはなにかも知らない
我からしたら陽介は、まだ卵から孵った雛鳥と同じだ。
だが、だからこそ導かねばならぬ。
陽介に課せられた宿命を我がーーー
「話は終わった?」
「!?」
陽介と我の間を割くように斬撃が襲いかかってきた。
油断した…!
陽介ばかりに気を取られ、あの男が既に体制を整えていることに気付かなかった!
「さっきは…よくもこんなに、殴ったな。もう本当に許さないんだから!!」
「陽介!お前は一旦下がれ!我が奴の気をーー」
「いや、大丈夫」
「陽介、うぉ!?」
突然、陽介に首元を掴まれたと思ったら、先ほど我が噛んだ左肩に乗せた。
村上を見据えるその横顔に、もはや怒りはなかった。
代わりに宿っていたのは、迷いなき“覚悟”の光だ。
「ありがとう清正。それと…悪かった。」
「やっと正気に戻ったか、馬鹿者め。」
「さっきから馬鹿馬鹿って言い過ぎた!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのだ!」
やれやれ、困った小僧だ…だが戻ったのは
陽介の正気だけではなさそうだ。
「村上…終わらせよう。俺はもう…”間違えない”」
「……っ!」
肩に乗ってても伝わるこの凄まじい力…初めて見た時よりも、さらに大きくなるその青白い炎は風に逆らうように揺れ、陽介の決意を讃えるかのように、一瞬だけ金色に輝いた。
「行くぞ、陽介。お前なら必ずやれる!」
「あぁ!」
これよりが、お主の“戦”の始まりぞ――陽介。
……その姿、我が最後まで見届けよう。




