純喫茶コスモス
私の一日は朝が遅い。
徒歩五分、純喫茶コスモスの珈琲で脳を覚まして始まる。
ここの珈琲は驚く程に……
「ああ”ーーつぅっ!! 何だこの熱さ?」
そお、知らぬ者には脳を残酷なまでに覚醒させる。
私も最初に来た日は……
――KARAKARANN――
「お好きな席へ」
ここの珈琲は尋常じゃない熱さだが、水は百度を超えないと言うのも、この炒った豆から抽出される黒き淀みの物質が伴う事で超える事も可能ではないのか? とさえ疑う程の猛烈な熱さを誇るこの珈琲に惚れ込み通って早二年。
「珈琲、ホットで」
「はい、珈琲ワン」
正直、じいさんがマスターの時点で腕利きかボケてるかのどちらかと見ていたが、珈琲以外の何かが入っている可能性に煎れる姿を観察していたものの、実に平凡だった。
凡そ職人気質に拘りを見せるでもなく、その日その時で煎れる時間もバラバラで、味も微妙に違っている。
ぶらす時間もバラバラなのだから、味にバラツキが出るのも当前だ。
「どうぞ」
だが、挽いた豆に湯を注ぐ所作にも特に変わった所はない。
「ア”ッチィ!」
無い、無いからこそに可怪しい訳だ。
豆に湯を注ぐ時点で、ある程度は冷める筈だが、出される珈琲は熱湯だ。
今年の春、コッソリ温度計で確認したが、98℃を指していた。
隠れて行う為にカウンターから一番遠い席まで運ばれて尚この温度。
沸騰状態を維持している事から、次に私はカップを疑った。
陶器に見せかけて実は保温機能が有る物では? と……
――KARAKARANN――
「お好きな席へ」
だが、商店街の潰れかけた食器屋で、同じ物がワンセット300円で売られていた。
【耐熱】と、手書きのシールがベタ張りされているのを見て、安全性には一応の納得が出来た。
「あ、ホット珈琲と、このチキンドリアもお願いします」
「はい、珈琲ワン、ドリアチキンワン」
なんと!
店のイチオシに手を出す者を見たのは初めてだ。
あの若者が人体発火現象で火災になる可能性も考え、いつでも避難出来るように……
「あ”っつぅう!」
通い始めて何度目か、熱さに耐え兼ね口にした事がある。
「ここの珈琲は店名通り異次元ですよね!」
嫌味に言ったが、首を傾げ聞き返された。
「花の香りでもしますか?」
大人気なくイメージで物を言うんじゃなかった。
ただ周りの客も、え? て、顔をしていたのを覚えている。
「どうぞ」
「いただきます」
――SHUBO!――
嘘だろ?
口に入れた途端、人が煙と化して消え……
「食い逃げワン」