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新しい場所での生活、聖堂の寮の部屋(2)

「今日から忙しくなるわね! 出来るだけ早く終わらせて、一日でも早く聖堂のお仕事に出られるようにしなくちゃ! さあ、始めよう!」


 夜が明けたばかりの早朝、必要な掃除道具と工具の両方を一式全部揃えて、長い髪をきゅっときつめに高い位置で結び、準備万端の状態でセーラは決意の言葉を口にした。

 早速行動を開始する。


 まずは長年閉ざされたままで淀んでいる、部屋の中のかび臭い空気を追い出そうと、可能な限りに窓を大きく開け放った。

 するとたちまち室内には爽やかな風が吹き込んできた。


 髪に心地の良いそよ風を感じながら、手始めに部屋の中に残っていた家具を全て廊下に運び出した。


 残されていた家具を明るい中で改めて状態を確認し、まだ再利用できそうなものだけはきれいに磨いて残すつもりで、後は古すぎていたり、壊れていたりするものを簡単に分別した。


 それから再び部屋の中に戻り、積もり積もってたまった埃を、ほうきでおおまかにざっと掃いて片付けた。

 床を手早く掃き終えたら、次は腐って穴があいたままの床の修理にとりかかった。


 見るからに使えそうもない部分の床板を足で踏ん張りながら、大きな音をたてて端から鋼の道具を引っかけて、めりめりと音をたてながら力いっぱい引き剥がしていると、カティアが手伝いに来てくれた。


 ひとりで力任せに床板を外そうとしている勇ましいセーラの姿に、カティアは思わず目を丸くした。 


「すごいよ! セーラは誰にも頼らないで、本当に自分の力だけでやるつもりなんだね! そんな人、初めて見た! わたしも協力するよ、何をすればいい?」


 それを聞くなり、セーラは作業の手を止めて申し訳なさそうに、


「気持ちはとても嬉しいけど、聖堂のお仕事の方はいいの? 仕事に行かずにここにいると、カティアが叱られてしまったりしない?」


「マグノリア様には許可をもらったから平気だよ! それにむしろ逆でセーラを出来るだけ手伝ってあげて、って言われてるから! 何よりもセーラはわたしを助けてくれた恩人さんなんだから、なんでも遠慮なく言ってほしいの!」


「ありがとう! じゃあ早速だけど剥がした板を後で全部外に出すから、捨てやすいようにまとめて紐でくくってもらってもいいかな? ひとりでも出来そう?」


「うん、わかった! 紐でまとめるのとかは普段の雑用係の仕事で慣れてるから大丈夫だよ! わたしに任せて! 手を切らないように気をつけてやるから、少し時間がかかるけどやってみるね!」 


 カティアはいくつか板をまとめてくくってみてから、セーラに声をかけて、


「とりあえず、こんな感じでいいよね? 邪魔にならないように、このまま外に出しておくね。後で燃料としても使えるかもしれないし」


「そうだよね。ありがとう、すごく助かるよ!」


 セーラがもう一度お礼を言うと、カティアは役に立てたのが嬉しくてにこっとした。


 しばらくふたりはそれぞれ分担して別々の作業をこなした。


 古い板の撤去をし終えると、セーラは次はカティアに手伝ってもらいながら、床板を新しいものに取り換える作業を始めた。


 床が抜けたままになっているところを定規で丁寧に採寸して、用意しておいた丸太から、大きさが合うような板を切り出した。

 それを今度は実際に床に当ててみて、金槌で軽快に釘を打っていく。


 作業の途中でセーラは自然と歌を口ずさんだ。

 途端に板を動かないように押さえてくれていたカティアが、まじまじとこちらを見てきたのが分かったので、セーラは途中で歌うのをやめて、


「ごめんね、少し変だった?」


「ううん、違うよ。セーラがあんまりにも歌が上手だから驚いてただけ。すごくきれいな声だなあ、って」


「そう?」


「聖女様が歌ってるみたいだったよ? 大げさとかじゃなく本当にそう思った」


「聖女様!? それは幾ら何でも言い過ぎだって! 無い無い! そんなわけ無いって!」


 とんでもないとかぶりを振って、驚いたようにセーラが返す。


「そうかなぁ……? 皆、聞き惚れちゃうくらいだと思うけどな。それにその歌って、わたしは今まで聴いたことないな、どこかの異国の歌?」


「ううん、違うの。これはね、街に住んでいる職人さんたちが仕事中に景気づけによく歌っている歌だよ。こういう仕事をやる時には、はかどる気がするの。歌えば楽しくなるしね」


「……ってことは、ここに来る前に街で働いてる時に覚えたの?」


 カティアの問いかけに、セーラが頷く。


「そうだよ。わたしが前にいたガラリナの街では、色々な仕事をしている人たちが、職業ごとにそれぞれ違う歌をよく歌ってたから……。それでいつも昼間は街全体がとても活気があって賑やかなの。こういう歌って、師匠から弟子に口伝えで何代も長く歌い継がれてきたものだから、大切なものだと思うんだ。だから少しだけ真似してみたの」


 何度か繰り返し聴くうちに、リズムと歌詞を覚えたカティアも、途中からは声を合わせて一緒に歌った。

 どちらからともなく、お互いに軽く手を打ちあったりしながら。

 そのうちにふたりの歌声をききつけた聖堂の雑用係の娘たちが、何事かと入れ代わり立ち代わり様子を見に来た。


「なんだか楽しそうだねー。そういうのって明るくなるしいいね! わたしたちも混ざってもいい?」


 見に来た娘のひとりにそう言われて、カティアは勿論だと右手の親指を立てて元気よく応えてから、セーラの方を向き直って、


「ねえ、セーラ、わたしたちの声って、こうやって重ねて響かせると、なんだかすごくいいと思わない?」


「うん、ハーモニーがきれいに響き合うね。一緒に歌うとお互いのいいところがより良く聴こえるよね。皆が楽しくなってよかった」


 ふたりは同時に頷いて微笑みあった。

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