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運命が奏でたもの(2)

 ――お前の運命の相手が危機に瀕している。今すぐに助けに行け。


 リオンは無我夢中で馬に鞭打ちながら、さっきの妖精たちが伝えてきた神託のような言葉を思い出していた。


「俺の運命の相手とはなんなんだ?」


 妖精たちは問いかけには答えない。

 ただ、そこに行けと、たったひとつの意志を自分に告げてくるだけ。

 他の選択など許さないとでも言いたいのか、ただひたすら導きの光を放ちながら素早くリオンを先導していく。


 近くに複数の人間の気配を感じ、自分以外のこの森へ来た同行者の誰かに影響が及ぶことを懸念して、とっさにリオンは狩猟用に懐に入れておいた布で顔の周りを覆った。


 風が音をかき消してくれる中で、馬をおりると、視界の先には、大きく傾いた小型の馬車が一台。

 その前に何人かの人間が切られて倒れていた。

 逃げる間もなく襲われた、この馬車の従者たちのようだった。

 周りには豪胆な風貌の大柄な男たちが五、六人ほど。

 一見してそうと分かる野盗の集団だった。


 その荒んだ男たちに囲まれる形で一人の幼い少女が膝をついた姿勢でいた。

 怯えた表情で、けれど不意に視界に入った何かによって、確かにそれを追うように少女の眼が動いた。

 その意味に気がついた時、リオンの身体には強烈な震えが走った。


 告げられた運命の意味がそこには示されていた。


 ――この娘にだけは、妖精が見えている。


 目の前の事実にいいようのない、激しく揺さぶられるような感情を覚え、リオンは柄に手をかけると剣を一気に引き抜いた。





 突如、単身で行方不明になった王子の姿を探して、従者たちは一転して大騒ぎになった。

 声を枯らしながらその名を呼んであてもなく嵐の森の中を歩き回り、行方を必死に探し続けた。


 そして朝方近くになってようやく探し当てた時、周辺には一網打尽にされた夥しい数のむくろが転がる中で、探し続けてきた王子は壊れかけた馬車の中で、一人の黒髪の深緑のドレス姿の少女を冷たい雨に濡れてしまった身体がさらに冷えないように、自身の上着で覆った腕の中に入れて守り続けていた。


 艶やかな長い黒髪の少女は王子リオンの腕に抱かれながら、静かに眠りに落ちていた。


 救援に来たエドガーらの姿に、安堵したようにリオンが表情を緩ませた。


「その子は……?」


 少女を起こさないように、リオンが小さな声で答えた。


「賊に襲われていたから助けた。俺が守った」


 リオンは大切そうに少女の髪に触れた。





 過去の話の一部始終をし終えて、エドガーはセーラの顔を改めてじっと見つめた。

 セーラの両眼には驚きが浮かんでいた。

 当然だろう、とエドガーは思った。


 ――もうとうにわかっただろう。この場で自分がいったい何を伝えようとしていたかを。


「あなたを十三年前、あの森で救ったのはリオンです」


 エドガーが最後にそう告げた。

 セーラの中に蘇ってくるのは忘れさったはずの、微かな記憶の中の断片。

 凄惨な血塗られた中で、自分の前に立った一人の男の姿を。

 その姿が今のリオンと重なっていく。


 聖堂で二度目に会ったあの夜、確かに伝えた言葉。


 ――わたしに何ができるかはまだ分からないけど、その方の力になりたいの。そのためにこれまでにたくさんの知識も技術も得てきた。まだまだどれも未熟なものばかりだけど……。でもそれでもいつかその力がその方のために、少しでも何かの役に立つって信じたいと思うから。


 あの時、リオンはどんな表情をしていただろう。

 もっとよく覚えておけばよかった。

 そう思いながら、セーラは思わずその場にうずくまって思わず涙をこぼした。


 ――これが、聖女の……わたしの運命だったの……。

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