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エヴァリストラント公爵邸(3)

 ロザリンドの部屋のベッドは天蓋付きでとても豪華な装飾が施されていた。

 カティアとセーラはネグリジェ姿でその中に入って、ふたりで寝転がって頬杖をつきながら、今日のパン作りのことなどを、あれこれ楽しく雑談をしていた。


 そうしているうちに少しの間だけこの部屋を離れていたロザリンドが戻ってきた。


「お兄さんと何を話してたの?」


 セーラがたずねると、待っていたふたりと同じくネグリジェ姿になったロザリンドは、


「明日のことと、他にも少し気になることがあったようで、あの宝石のことなどを色々ときかれましたわ。けれど勿論兄には聖女の話はしていませんわよ?」


 ロザリンドもやわらかな室内履きを脱ぎ、周りの薄いカーテンをめくり上げてそのままベッドに入ってきた。

 それから三人は揃って並んで横になった。


「まさか、こんな形で皆で一緒にロザリンドの家に泊まるなんてねー」


 カティアがしみじみ言った。


「それは本当にそうですわね。カティアとわたくしの家は、四代ほど前までは関係修復が不可能なほどにいがみあっていた、最悪な間柄でしたものね」


「えっ、そうだったの?」


 意外そうにセーラがきく。


「本当にそうなんだよー」


 カティアも全くその通り、とばかりに大きく頷く。


「ええ、ですから、聖堂でもセーラが入ってくる前には、お互いにあまりすすんでは関わり合いを持とうとはしなかったのですわ。うまい付き合い方がよくわからなくて……」


「そうなんだよね。妙に変な感じで、お互いに気を遣い合わなきゃいけないし」


 カティアも相槌をうつ。


「昔ならば両家の娘がこうして行き来するなど、考えられないことでしたわね。だからといっても、今の代のわたくしたちには、当時のしがらみはなんの関係もありませんけど……」


「ロザリンドにききたいことがあったんだけど、ちょっといい?」


「なんですの、カティア?」


「ひとりで寝るのに、ここまでの大きさのベッドって必要なの? 流石にこれは大きすぎない?」


 カティアは大人ひとりが手を大きく両側に広げてもまだ余裕で余るベッドの幅がどうにも気になっていたらしかった。


「わたくしの両親は、わたくしや兄が将来、小さくまとまらず大人物になれるよう望んでいましたので、子供のころから与えるものはなんでも決まって大きく立派なものを、と考えていましたのよ。だからベッドもこの大きさですのよ」


「あー、なんか今、すごく納得した。ロザリンドの家は夜会に来るときの馬車もすごく目立つってきくもんね。わかる気がする……うちとは価値観が全然違うから、そりゃ昔は仲も悪かったんだろうね」


 カティアはそう言いながら、ふと思い出したように、


「そういえば、昼間は言いそびれたけど、聖女様の姿になったときのセーラってすごくいい香りがするよね、あれも女神様や妖精の効果なのかな?」


「それ、確かにわたくしも思っていましたわ」


「そうなの? 自分ではよく分からないけど……」


 セーラは予想もしなかったような話に驚いてふたりに聞き返した。


「やっぱり自分で気づいてなかったんだね。そばにいるだけですっごく幸せになれる香りだよー。聖女様のご加護を感じるの」


 枕を抱えながらカティアは、にこにこしながら言った。


「……?」


 けれどセーラはまだそう言われても、自覚しようにもできないので半信半疑のままだった。


「それにしても、あのリオン様がいきなりプロポーズまでされたことには本気で驚きましたわ。常に冷静な合理主義者で、感情的なものとは距離を置いているようなお方だとばかり思っていましたのに……。それだけセーラに惹かれたからなんでしょうけど、わたくしには未だにどうしても同じ方のことには思えなくて……。なんだか迷宮にでも迷い込んでしまったような気分ですわ」


 あれこれ想像しながらロザリンドが言うと、横にいるセーラは、


「ロザリンド、わたしも自分でもまだあの時のことは、夢でも見たんじゃないかと思ってるの……」


 セーラが答えると、ロザリンドはまだひとりで考えを巡らせている途中だったらしく、 


「もしかしたら今夜も今頃、聖堂に行かれていたりするかもしれませんわね。なんだか今のリオン様ならやりかねないような……?」


 ロザリンドはくすりと笑った。


「セーラはいいなぁ、わたしもそんなふうに誰かに大切に想ってもらえるような日がいつかくるのかなぁ……?」


「カティア、このわたくしの見立てでは、あなたが家同士が釣り合いがとれるそれなりなステータスの男性と恋をして結ばれるのは、この先あと十年はひとりでは無理な気がしますわね」


「……ロザリンド、それはいくらなんでも酷くない? セーラみたいになりたいから、気が長くなれる練習してるとこだけど、それは怒ってもいいような気がするよ、わたし……? 違うか……?」


「それはどうかしら? そういえばわたくし、リオン様のこと以上に、あの兄のエドガーのことも気にしていますの。カティア、あなたさえいいなら、相手には丁度いいかもしれませんわね。わたくしの兄はいかがかしら?」


「えっ、ロザリンド、いきなり何言い出す気!? なんかそれ話の筋道がいきなりおかしいよね!?」


「なんらおかしくないですわ。わたくしはいつも本気ですのよ。カティアはあの兄のことはお嫌いかしら?」


「えっ、だからいきなりそんなこと言われても……。ついさっき会ったばかりでよく知らないし、しかも住んでる世界が違う感じ人なのに……。それにそういうって、なんて答えればいいか分からなくて困るよ……。ちょっとは、聞く側のこっちの気持ちとか、都合とかも考えてもらわないと」

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