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聖なる虹色のあかし(1)

 ――その場にしばしの沈黙が流れた。


 セーラが見せる憂いを帯びた様子にただならぬものを感じた、カティアとロザリンドは殆ど同時に頷き合った。

 カティアはすぐさまセーラのすぐそばに寄り添った。


 ロザリンドは一旦厨房から廊下に出て、付近の様子に気を配りながら、外壁がどっしりとした石造りのこの厨房の扉を丁寧に閉めた。


「さいわい周りには誰もいないようですから、大丈夫ですわ」


「ありがとう、ロザリンド」


 カティアに付き添われながらセーラは申し訳なさそうに、ロザリンドに頭を下げた。


 それからしゃがんでいた姿勢から立ち上がると、カティアとロザリンドのふたりの間に立つようにして、


「今からわたしが話すのはとても大切で特別なことなの。今でないと言えないと思うから聞いてほしいの……」


 セーラの改まった口調に、何かを感じ取ったらしいカティアとロザリンドが顔を見合わせた。


 そしてセーラは祈り係の制服のポケットに入れておいた虹色の美しい宝石が嵌め込まれたペンダントを取り出した。


「どうかよく見ていて。今から特別なことが起きるから」


 ペンダントをセーラが首から下げた。

 その直後の変化を目の当たりにして、カティアとロザリンドは息をのんだ。


「セーラ、髪と目の色が……」


 セーラが頷く。


「そうなの、どうやらこのペンダントを下げると髪と目が、この宝石と同じ色になるようなの」


 セーラの左右両方の瞳と長い髪は宝石とそっくりな虹色になっていた。


「女神様は虹の色を聖女に授ける……セーラのその虹色の髪と目は伝承で語られてきた聖女の証そのものですわね」


「そう、でも、これが本当は誰にでも起こり得ることなのか、そうじゃないのか、わたし以外の人でも皆そうなるかどうかを、まずは確かめたかったの」


「話はよくわかりましたわ。セーラ、わたくしにその宝石を少し貸して下さるかしら?」


 セーラはペンダントになっている宝石を外すと、ロザリンドに手渡した。

 ロザリンドは少し首を傾げながら、しげしげとペンダントを見た。


「どうしたの?」


「これと同じものを、随分前にどこかで見た気がして……でも思い出せないからきっと気のせいですわね」


 そう言って、ロザリンドはペンダントをそろそろと首から下げてみた。


「どうかしら?」


「ロザリンドは何も変わってないよ。さっきまでとおんなじ。じゃあ、次はわたしが試す番だね」


 カティアもペンダントを首から下げてみたものの、結果はロザリンドと全く同じだった。


「やっぱりセーラじゃなきゃ駄目みたいだね。ねえ、もう一度だけでいいから、セーラが首から下げて見せてくれない?」


 カティアにそう言われ、セーラはその通りにしてみた。

 やはり両眼と髪の色が瞬く間に煌めきながら、虹色に変化していった。


「神秘的でとてもきれいだけど……虹色は女神様を象徴する色だから、これはその……セーラはその不思議なペンダントのせいで、聖女様になっちゃったって、ことなの? 他の理由って何も思いつかないよね? 女神様が与える虹色って、目と髪が虹色になるってことだったんだ」


「自分でもまだ信じられなくて……」


「それよりも、セーラはその宝石をどこで手に入れたんですの?」


「妖精にもらったの。わたしが聖堂に住み始めてから、自分の部屋に置いていたドールハウスに、いつの間にか妖精が住み着くようになって、他にも色々と贈り物をもらったわ」


「妖精って、あの神話や伝承の中に出てくる妖精に!? すごい!」


 カティアが飛び上がるほどびっくりして声を上げかけたけれど、厨房の外まで響くのを気にしてすぐに声を抑えた。


「カティアがわたしの部屋に来てくれた時に見たあの立派な家具も、どれも全部妖精からの贈り物だったのよ。あの時は本当のことを言えなくてとっさに下手な嘘をつくしかなくて……ごめんね」


「そっ、そんなの気にしなくていいよ……! そういう事情だったんだね。セーラが悪いわけじゃなくて、事情を知らずに勝手に部屋に入ったわたしが悪かっただけだから……あの時はごめんね」


 そこまで言いかけたカティアは、何かに思い当たった様子で口に手を当てて、


「あっ! あれってやっぱり、その力のせいだったんだよね、きっと!」


「あれ、って?」 


「裏の畑で野菜と花の成長が早かったことだよ! あれはやっぱり気のせいなんかじゃなくて聖女の力の加護で起きたことだったんだ! それに突拍子もない話のはずのに、なーんか納得しちゃうんだよね、わたし。セーラならそういうこともありえるんじゃないのかな、って」


「そう思うような何か根拠があったんですの?」


 ロザリンドがカティアにきいた。


「ロザリンドが知ってるかどうかは知らないけど、最初にセーラがこの聖堂に来た日、裏口に置いてあった箱の山が崩れて、わたしが下敷きになりそうになったことがあったんだよね。その時、セーラがこっちに来て、って、わたしの手首を掴んでくれた時、不思議な感じがしたんだ。虹の色がぱーっと目の前に広がったみたいに。でもあの時はびっくりしすぎて一瞬変なのが見えたのも気のせいだったのかな、くらいに軽く思ってたんだけど……」

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