心を通わせ、仲間が力を合わせれば(2)
セーラとカティア、それにロザリンドをくわえた三人は、一列で横に並んできゅっと髪の毛をまとめあげた。
「さあ、始めよう! 最高のパンを作ろうね!」
まず三人は手始めに、用意しておいた小麦粉や水やバターなどの材料の分量を間違いがないようにきっちりと計った。
それが終わると、次は混ぜ合わせる作業に取りかかった。
温度管理に気をつけながら、こね上げた生地にさらに酵母を加えて二回醗酵させて膨らませた。
そして何分割かに千切って形を整えた生地を、最終的には黒い金属の天板の上に並べて石窯の中に納めた。
それらの一連の工程を経て、パン作りの作業は滞りなく順調に進み、後はもう焼き上がりを待つだけという段階になった。
使った道具の後片付けも分担してあらかたし終えた後で、セーラはカティアとロザリンドのことを振り返った。
「わたし、ここにくる前に色々な場所でお仕事をしてきたけど、いつもそれは誰かの代わりになるための繋ぎの目的でいるだけだったの。いるのはいつもわたしじゃなくてもよくて……ずっとそうだったわ。そんな仕事ばかりしていた時は、もし、両親が生きていてくれたらこうならなかったのに、って思わない日は一日も無かった。でもこの聖堂に来られて、自分が役に立てている実感が持てるようになって、それまでにひとりで乗り越えてきたことが全部意味があったんだと気づけたの。わたし、ここにきてよかった」
セーラがそう言うと、ロザリンドが、
「随分苦労したのですね」
「セーラはたくさんのことが出来るもんね。わたしの自慢の友だちだし!」
カティアも言った。
セーラは頷いて笑った。
「正直、今まで過ごしてきた時間が、苦労だったかどうかは分からないの。わたしにはそれが当たり前だったから。でもこの前カティアがしてくれたように、仕事がお休みの日に誰かが部屋を訪ねてきてくれたり、定着して働く場所ができて、そこにいつも同じ大事な仲間がいるってこんなにやりがいもあって嬉しいことだったのね。カティアやロザリンドや皆と出会ってわたし、初めて自分のための居場所を見つけたの。だからパン作りのこともどうしても三人でやりたかったの」
「セーラのことは、これからは我が家の主催する定例のお茶会にも幾らでも誘ってあげましてよ? そうすれば淋しいと感じる暇なんてなくなりますわ。カティアのことはそうですわね……今さらひとりだけ仲間外れにするのは気がひけますし、仕方がないから、これからは一緒に声をかけてあげてもよろしくてよ?」
ロザリンドがカティアの方をちらっと見ながら言うと、
「もう! アスランのあの時のことは謝るから、人のことをおまけ扱いみたいに言わないで! 酷いじゃない! わたしのこともちゃんと誘ってよ!」
カティアが口を尖らせて言い返した。
そしてセーラは言い合うふたりの前で、微笑みを浮かべながら黙って赤々と燃え盛る石窯の火の具合をずっと気にしていた。
その時、カティアが後ろから歩み寄ってきて、
「ねえ、セーラ。さっきから少し気になってたんだけど、もしかして何かあった……?」
「えっ、どうしてそう思うの?」
戸惑いながらセーラは振り返って聞き返した。
「ロザリンドを誘ったのは、祈り係への配慮とかっていうのは、表向きの理由で、本当はもっとその……他に別の理由があったんじゃないかって、思ってた。なんだか今日はいつもと違ってセーラがわざと無理に元気にしてるみたいに見えて……。それに、普段のセーラならロザリンドを誘いたいなら、ちゃんと事前にわたしに教えてくれてたんじゃないかな、って思ったから」
きいていいかどうかを迷いながら遠慮がちにカティアがそう言う間、セーラは俯いていた。
「セーラは今日ここでロザリンドとわたしだけに聞いてほしいことがあったんだよね? 違う? 何か無理してない? 悩みがあるならちゃんと話して、友だちなんだから」
セーラは伏し目がちで、しばらく黙っていた後で、隠してきた心を打ち明けることを決めて、ようやく顔を上げた。




