心を通わせ、仲間が力を合わせれば(1)
――そしてセーラとカティアが準備を重ねてきた、大切なパン作りをする当日の朝。
「皆、集まったね! 今日は全力でがんばろうね!」
石窯に火をくべる前に、みなぎるやる気をあらわにしたセーラが言うと、カティアが浮かない顔でまずは一言、
「ねえ、セーラ、その前にひとつだけ聞きたいことがあるんだけど、ちょっといいかな?」
「何、カティア? どうしたの?」
「楽しそうに、何? じゃないってば! どうして今日のパン作りをするのがなぜか三人になってて……しかも、なんでその増えたひとりがロザリンドなわけ!?」
「あら、わたくしのことはセーラが呼んだんですわよ?」
借りた雑用係の制服の上にエプロンをかけたロザリンドが言った。
しかも借り物なのにも関わらず、何を着ても普通に似合ってしまうロザリンドのことがカティアは余計に気に入らないらしかった。
「ロザリンドには聞いてないって! わたしはセーラにきいているの!!」
カティアが叫んだ。
「皆でやればきっと何倍も楽しいよ? ね?」
セーラが言っても、カティアは到底納得出来ない様子で、
「それはそうかもしれないけど、でも、だからってなんでそれがよりにもよってロザリンドなの!? 仲間は大勢いるんだから、誰か適当な人が他にも絶対いるでしょ!!」
「祈り係の人にも入ってもらった方がバランスもとれるし、聖堂の皆が納得するかなーって思ったの。それにロザリンドにはちゃんとやり方の説明も事前にしたから!」
「えー、バランスとかを考えるなら、それは確かにそうかもしれないけどさー。セーラは皆に必要以上に気をつかいすぎじゃない?」
「細かいことかもしれないけど、そういうのって後々に渡って結構大事なことだと思うの。それにロザリンドなら、祈り係のリーダーで人望もあるから、皆にうまく話をしてくれるから一番適任だと思うよ!」
あっさりとセーラが言うと、ロザリンドは、
「あら、わたくしはセーラが、この他に比類なきわたくしの力がどうしても必要だと言うから、求めに応じて来てあげただけですわ。そこまで請われては仕方がありませんもの。それにパン作りのことなら前々から興味がありましたから、あらかじめ勉強しておいたのが役に立ちましたわ」
自分が参加するのが既に確定事項だとでも主張するように、自信たっぷりな口調でさらりと答えたロザリンドに、カティアが露骨に顔をひきつらせた。
「ええー、だからってなんでよりによって、ロザリンドとパンを作らなくちゃいけないの!? セーラは人選を絶対絶対、間違えてるって! 今からでも考え直した方が……祈り係の中から選びたいなら、もっと性格が良さそうな他の誰かに頼んでみるとかもできるでしょー!!」
「まあまあ。そう言わずに仲良くやろうね! きっと楽しいから! わたし、カティアとロザリンドは何か一緒にやる機会さえあれば、直ぐに仲良くなれるはずって前から思ってたの!」
セーラがさっと動いて、カティアとロザリンドの後ろから半強制的に手を繋がせてにこやかに励ました。
勿論、その瞬間にカティアは拒絶して勢いよくばっと手を引っ込めたが……。
「わたくしがこのメンバーに入れば歴代最高品質のパンが焼けますわよ! 絶対に間違いありませんわ!」
胸を張ってロザリンドが言う。
「そうかなぁ。絶対に、逆になると思うけどなー。それにロザリンドって、家ではなんでも使用人にやらせてて料理もしたことないんじゃないの? 誰かが気をつけて見ていないと、塩と砂糖も間違えそう」
「なんですって、カティア! 今のは聞き捨てなりませんわ! わたくしが粗野なあなたに、気高くしとやかなる一流の淑女のたしなみを一から教えてさしあげましてよ!?」
両方の手のひらを押し付け合いながら睨み合いになりかけた、カティアとロザリンドのふたりの間に入って、セーラがまあまあとなだめた。
――本当に大丈夫なのかしら、この集まりで……。昨日の夜遅くに、セーラから急にパン作りにたずさわる人員をもう一人増やしたいとは聞いていたけれど、それにしてもすごい人選にしたものね。このままやらせて本当に大丈夫なのかしら?
ひそかに様子を見に来たマグノリアが、物陰からハラハラしながら三人の様子を見守っていた。




